四十七ニャン 猫にとっての苦行 『爪切り』
かつおは、猫に頬擦りをするのが好きなのだが、どの猫も絶対嫌がっている顔をする。
その『被害者(猫達)』の顔は、動画でも人気が高い。
猫達にとっては、迷惑極まりないのが、『飼い主』な為、渋々受け入れているのだ。
ただ、かつおの手から逃れた後、決まって毛繕いをする。ここぞとばかりにかつおが顔を押し付けてくるので、毛並みが滅茶苦茶になるのだ。
ひとしきりスリスリするのに満足したかつおは、ネネを解放してあげる。するとネネは、すかさず毛繕いを始めた。
(お・・・お疲れ様。)
(まったく・・・かつおさんも困ったものね・・・)
労を労うまんぷくと、ブルブルと頭を振るネネ。
「うーん・・・
そろそろまんぷくも、『爪切り』しないとねー・・・」
そう言って、かつおは棚の中から『猫用・爪切り』を取り出す。すると、棚を開ける音を聞いたさくらが、急にリビングから飛び出てしまう。
それに驚いたまんぷくが唖然としていると、ネネが苦笑いをしながら察した。
(あの子・・・自分がやられると思ったのね・・・)
(・・・何を?)
「まんぷくー、おいでー」
かつおはまんぷくを抱き上げた後、すぐにはソファに座らず、三脚の上に置いてあるカメラの電源を入れる。
そしてその後、ソファの上に座り、いつも通りの挨拶を語る。
「ハイ こんにちわー! 配信ニャン黒子、かつおでーす!!
今日はですね、この子、まんぷくの、
爪切りをしたいと思いまーす!! いえーい!!
頑張ろうねー! まんぷくー!」
まんぷくをばんざいさせるかつお。そして、かつおが横に置いた道具を見ただけで、自分にこれから何が起こるのか察したまんぷく。
施設でも、ちゃんと爪切りの練習はした。
最初は、当然緊張してした。『パチンッ!!!』という甲高い音と、切られて小さくなる自分の爪。
野良時代には経験しなかった事の中で、一番恐怖を感じたのが、爪切りだった。
最初は暴れたり、職員の手に噛み付いてしまったり、時間をかけながらも、爪切りを終わらせた。
しかし、あの時の経験から、『爪切り』はそこまで怖いものではない事を理解したまんぷくは、かつおが爪切りを手に取っても、全然暴れたりしない。
ただ、ほんのちょっと、我慢すればいいのだ。あの甲高い音だけを・・・
「・・・・・・・・・・
・・・まんぷく、そんなに怖くないよ。だから落ち着いて・・・ね?」
一応、まんぷくはかつおの膝の上で、じっとしてくれているのだが、かつおの方が緊張していた。
何故ならまんぷくの心臓音が、膝の上から伝わって来るのだ。
『トクンッ トクンッ』と、小さな体の中にある小さな心臓が、ものすごく動揺している。
こんなパターンは、今までに一度もなかった為、爪切りを続けようか、中断しようか、飼い主歴が長いかつおでも迷った。
このまま続けていると、まんぷくの心臓が、どうにかなってしまうんじゃないか・・・と思うと、手が進まないのだ。
まだ片足の5本しか切れていないのだが、かつおはまんぷくを一旦抱き上げて、必死に背中を摩る。
それでもまだ動揺が抑えられないのか、かつおの膝の上で震えているまんぷく。もう怖くはない筈なのに、どうしても緊張してしまうのだ。
「ミャーア」
(まんぷくー)
そんな1人と1匹を見兼ねて、猫達が次々とソファの周りに集まって来る。最初に鳴き声を挙げたのは、レイワだった。
「ニャーオ」
(まんぷくー、大丈夫よー)
「・・・ニャア」
(ほんのちょっとの辛抱だから、ね。後でかつおさんがおやつをくれるから。)
ネネとヤマブキも、頑張ってまんぷくを応援する。そして、何処かに逃げた筈のさくらもやって来て、猫ドアに隠れながらも、鳴いて応援していた。
「ンニャー!」
(まんぷくならできる! 大丈夫!)
そんな言葉の数々に、まんぷくは泣きたいぐらい嬉しくなり、心臓の音がだんだんと正常に戻っていく。
かつおはというと、あまりにも猫が大合唱をする為、若干パニックになっていた。
「え?え?え?え?え?何で?何で?何で?何で?何で?」
「ミャーオゥー」
(ほらかつおさん、ちゃっちゃとやっちゃってください。早くしてあげないと、まんぷくがまた
怖がっちゃいますよ。)
レイワの鳴き声は、かつおには理解できない。しかし、不思議とかつおは悟ったのだ。
「まんぷくの為に早く済ませなさい」と、レイワに急かされている事に。
その鳴き声を理解した直後、かつおは慌てて爪切りを掴み、そのまま残りの爪もババババッと切ってしまう。
速さと正確さにに関しては、他の猫達で腕を磨いている為、爪を切られている猫が暴れたりしなければ、5分もかからない。
「お疲れー! まんぷくー!
よく頑張ったねー!」
ようやく我慢から解放されたまんぷくは、そのまま猫達の元へ駆け寄る。ヤマブキ達は、まんぷくの頑張りを、最初から最後までずっと見守っていた。
「ニャァァ」
(爪切りは、何度も何度もやらなくちゃいけないから、少しずつ慣れていこうな。)
「マァーオ」
(・・・ハイ・・・)




