三十四ニャン 多頭飼育の難しさ
まんぷくがあまりにも周囲に慣れるのが早い為、驚きを隠せないかつお。
初日でこんなに慣れてくれるとは思わなかった為、動画を回しっぱなしでも全然大丈夫だった。
喧嘩の空気になったら、すぐに動画を止めて仲裁に入ろうとしたのだが、まんぷくは4匹に対して、爪を立てる事もしなければ威嚇をする事もない。
まんぷくとは対照的に、レイワ・ネネ・さくらがこの家に来た時は、一悶着あった。
その原因も様々だが、時折互いの間に火花が飛び散ったり、戯れる力が強すぎて喧嘩勃発・・・等、その程度ではあったが、かつおはずーっとヒヤヒヤしていた。
怪我を負うような大惨事にはならなかったものの、まだ力の加減が分からなかったり、距離の詰め方が急すぎてパニックになったり・・・と。
まるで、『幼稚園児が戯れているのを見守る保育士』の様に、猫達から目が離せなかったかつお。
ただ、紆余曲折あった4匹でも、現在は穏やかに過ごせている。実際、同居する猫と仲が悪くなる事例は珍しくない為、こればっかりは仕方ない。
人間社会も同じ、どんなに全員と親しくしようとしても、嫌いな人・苦手な人がどうしてもいる。人間社会も、猫社会も、そう簡単にはいかない。
そうゆう時は、なるべく『無理をしない』 それが一番。
しかし、今回は予想を遥かに超える結果に、カメラを回している事も忘れ、無言で狼狽えているかつお。
そんなかつおの見つめる先には、さくらに混じってネネも、まんぷくとの距離を縮めようとしていた。
(へぇー、貴方には兄弟とか姉妹とかもいないのね。)
(ネネさんとさくらさんは、姉妹なんですか?)
(姉妹・・・そうね。
『血はつながっていなくても』、私はさくらを妹として見ているわ。)
(・・・それって、素敵ですね。)
そう、ネネとさくらは、同じ母猫から生まれたわけではない。それどころか、自分の母が『どの猫』なのかも分からない、そんな環境で育っていた。
ネネとさくらは、かつて『飼い猫』であったが、その環境は、何とも歪なものであった。あちこちを見渡しても『猫』『猫』『猫』
言葉だけならまだ可愛いものの、現状はそんなに綺麗なものではない。
いわゆる『飼育崩壊』が起こっている場所は、『家と呼べるかも分からない建物』の中に、数十匹の猫が固まって生活していた。
トイレも無いようなもの、餌入れも無いようなもの。
汚くて臭い床にそのまま置かれた餌を食べながら、虫だらけの家でどうにか生きていたのが、ネネとさくら。
施設の人間に保護されるまで、ネネとさくらの体毛は、相当悲惨なものであった。今は真っ白なさくらの体も、ついこの前までは『茶色一色』であった。
それに、飼い主兼、家の家主であるおじさんは、猫達に去勢手術も施していなければ、ワクチンや寄生虫の接種もしていなかった。
だから、生まれてきた猫がちゃんと生きられる環境ですらなかった。実際、その家を訪れた施設の職員達も、あまりにも悲惨な光景に、涙を流す人までいる程。
その悪臭は近隣住民からだいぶ問題視され、学校の通学路の一角にもなっていた為、早めの対策が急がれていた。
だが、その家の主であるおじさんは、そんな行政からの指示を一方的に断り続け、「だったら通学路を変えてしまえばいいだろ」と言う始末。
そのおじさんは『独り身』であったが為、親族からの注意もできず、行政からの強制保護がないと絶対に動かない姿勢であった。
おじさんの我儘に振り回された猫達は、一つの施設では保護しきれない量の為、様々な施設が協力しながらも、どうにか全員施設へ行ける事に。
ネネとさくらにも、兄弟姉妹がいたのかもしれない。だが、そんな大量の猫の中から、血縁者を探すなんて、無理な話。
ショッピングモールやスーパーで、母親を見失い戸惑っている子供の様に。
幸い、ネネとさくらはまだ幼かった事もあり、保護された直後に手術や検査を施し、一安心できる状況にまで落ち着いてから、かつおに引き取られた。
実はネネとさくら、本当は別々にそれぞれの家庭で引き取ってもらう為、譲渡会の初日は、ケージを別々にする。
しかし、さくらは姉と離れてしまう不安から、譲渡会が終わっても鳴き声が止まず、結局2匹まとめて引き取ってくれる家を探すしかなかった。
だが、そこにたまたまかつおが訪れた事で、2匹はかつおの家にお呼ばれした。ある意味、『幸運』に『幸運』が重なった結果である。
どれか一つでも欠けていたら、2匹が一緒の家に住む事はできなかった。その辺りは、ネネもさくらも、かつおに感謝している。
1匹でも手続きが大変なのだが、ネネとさくらを引き取る際にかかった時間は、手続きだけで一時間前後かかった。
ただ、これもかつおだから良かったのだ。
施設側の一連の流れを理解しているかつおは、職員がアレコレ言う前に、受け取る側のかつおが色々と話を進めてくれる。
ネネはよく、過去の光景が頭の中でフラッシュバックして、夜中に鳴いてしまう事も。
今はもう、それ程大声で鳴く事はないものの、トラウマがまだ拭いきれていない事もあって、時折夜中に『マァーオ マァーオ』と鳴いてしまう。
その度にかつおは、ネネを優しく撫でてあげたり、夜中にも関わらずおもちゃで遊んで気を紛らわせていた。
だが、あやしていたのはかつおだけではない、妹であるさくらも、先住猫であるレイワもヤマブキも、一緒になってネネを心配してくれた。
だから今のネネは、かつおの家にも普通に馴染む事ができたのだ。




