三十三ニャン 事情も『猫』それぞれ
(アレがヤマブキなりの『接し方』なんだ。別に怒ってるわけじゃないから、そこまで気負いす
る必要はないぞ。)
(いっ、いいえ! 気負いなんてそんな・・・!)
まんぷくは、レイワの毛の長さに驚いていた。レイワ以外の4匹は、皆それほど毛は長くないものの、レイワの毛は、3匹分の猫に相当するくらい多かった。
そのモフモフ加減は、レイワがケージに体を擦り付けた時、ケージの隙間から流れていく毛並みに少し触れただけでも分かった。
まんぷくはこれまでの経験で、この世界には自分以外にも、多くの猫達が生きている事を学んだ。ただ、こんなに毛の長い種類がいた事は知らなかった。
・・・そして、相変わらずヤマブキは、遠目でまんぷくを見守っている。まんぷくは、少し歯がゆい気持ちだった。
悪い猫でもない、自分を悪く思っているわけでもない、なのに会話すらちゃんとできない事が、まんぷくにとっては悔しかったのだ。
「ニャーン」
(あのー・・・)
「ミィィィ!!!」
(うわぁぁぁ!!!)
可愛い悲鳴をあげたのは、ケージの側でかつおと戯れているさくら。いきなりまんぷくから声をかけられ、つい驚いてしまったのだ。
(な、ななななな何?!!)
(あ・・・えっと・・・
ヤマブキ・・・さんって、話しかけてくる時とかある?)
(・・・えーっと・・・
そこまで頻繁に話はしないから、私もちゃんと説明できないんだけど・・・)
(そっか。ありがとう・・・ございます。)
(・・・ううん、びっくりしちゃってごめんね。)
さくらはいきなりの事で不意に毛を逆立ててしまったが、まんぷくはそんなさくらを見ても、一切引かない。
それどころか、つられて一緒に威嚇をするわけでもなければ、逃げるわけでもない。
初めて見る『年下の猫』は、さくらにとって『未知との遭遇』に近い程の衝撃があった。ネネはというと、水を飲みにさくらから一旦離れていた。
そして、さっきまでさくらと戯れていたかつおは、さくらとまんぷくが互いに目を合わせた事で、急いでカメラを向けた。
(・・・ねぇ、まんぷく『さん』
まんぷくさんは、此処に来るまで何処で生きていたの?)
(僕?
うーん・・・なんて言ったらいいのかなぁ・・・??)
(『ケージがたくさんあった場所』じゃないの?)
(そう! そこそこ!
・・・あ、でもそこに来る前は、路地で生活していたんだ。)
(・・・『路地』??)
さくらはまんぷくより、あまり世界を知らない。それもそうだ、生きていた環境が違うのだから。
5匹それぞれ、生きていた環境が違う。だから、互いに知っている事と、知らない事に差があるのだ。
まんぷくはこの家に来るまで、飼い主の名前がちゃんと覚えられるかが不安だった。
だが、飼い主はかつお1人だけだった為、たった1人の人間の名前を覚えるなんて、食料探しよりも簡単。
もっと家族がいると、覚えるのに苦労するが、この家では人間ではなく、猫の方が多い。
まんぷくにとって、『人間の名前』よりも『猫の名前』を覚える方が早い。それは、猫に『苗字』が無いからなのか、『同族』だからなのか・・・
(さくら『さん』
さくら『さん』が路地を知らない・・・って事は、さくら『さん』は『野良猫』じゃなかった
って事・・・ですか?)
(・・・『野良』?? 何の事??)
さくらは、首を傾げた。さくらにとって、『路地』や『野良』なんて言葉、聞いたのは今が初めてだった。
困っているさくらに救いの手を差し伸べてきたのは、姉であるネネ。ネネは口に水をつけたまま、2匹に歩み寄って来た。
これ以上、2匹の会話を黙って見ていられなかったのだ。
(『野良』っていうのは、家で飼われていない事よ、さくら
・・・まぁ、私達は、『飼われていた』・・・とは、あんまり言えないんだけどね。)
(・・・・・はぁ。)
まんぷくは、「それってどうゆう事ですか?」と聞こうとしたものの、やっぱりやめた。
猫にもそれぞれ『事情』がある事を、三毛猫と接しているうちに学んでいたから。
そして、その事情は無闇矢鱈に引っ掻き回すものではない・・・という事も。
施設にいた三毛猫も、まんぷくに自分の素性を教えぬまま、別れてしまった。
・・・いや、言いたくなかったからこそ、言わなかったのだ。それをまんぷくも、心の何処かで察して、言えなかったのだ。
まんぷくはとても『賢い』
だがそれは、『物を知っている』というわけではない。世間で例えるなら、『世渡りが上手い』という言葉が最も適している。
だからこそ、先住猫4匹に対しても、無闇に過干渉するわけでもなければ、変に敵対するわけでもなく、ただ黙って観察する。
そして、タイミングを見計らって声をかける。ヤマブキは、そのタイミングを上手く見計らうのが苦手なだけ。




