三十一ニャン 準備中
ヤマブキとまんぷくの初・顔合わせは、成功・・・とまでは言えなかったが、かつおにしてみれば上等であった。
何故ならレイワの時も、ネネの時も、さくらの時と、殆ど変わらなかった。
そして、ヤマブキが決して自分達を傷つけたりはしない事を理解すると、すぐさま3匹はヤマブキに懐き始めた。
3匹がヤマブキに甘えても、ヤマブキが嫌がる仕草も見せない。毛繕いをしても、逃げようとはしない。
・・・レイワに関しては、若干ちょっかいが度を越して怒られているが。それは、ネネやさくらも黙認している。『いつもの事』だから。
ただ、今回は少しだけかつおが心配している。何故ならまんぷくは、他の3匹よりも『覚えるのが早い』
つまり、一度受けた印象が、しばらく消える事がない・・・のかもしれないのだ。これは、人間であるかつおの感覚なのだが・・・
就職活動でも、友達作りでも、『第一印象』というものは、良くも悪くも大切。
スーツや靴をしっかり身につけられない就活生は、なかなか雇ってもらえない。
逆に、スーツから靴にかけて、キッチリ清潔に決め込んでいる人には、『清潔感』と『やる気』が感じられる。
・・・第一印象だけで相手を判別するのは、いささか失礼なのだが。やはり、『話しかけやすいイメージ』というのは大切な事。
まんぷくがヤマブキ対している抱いている印象は、あまり良くはないのかもしれない。それでも、かつおはまんぷくを信じ、やはり直接会わせてみたい。
ヤマブキだけではない、他の3匹に対して、まんぷくがどんな反応をするのか、かなり気になっている。ドキドキ感はあるものの、ワクワク感もあった。
・・・それに、いつもかつおの抱く不安は、大抵『取り越し苦労』で終わる。
かつおは猫達を大切にするあまり、過度な心配をしてしまう。しかし、それが思い過ごしだったのなら、後は5匹の成長を見守るのみ。
「ニャーアァー ニャー」
(かつおさん、そのケージってもしかして、新しく来た子の?)
「あ、ネネ。危ないから離れててねー」
ケージの組み立ては、軟弱なかつおにとっては重労働である。パーツを4つ程組み立てただけで、もう息が上がってしまう。
手順は、もう頭の中にしっかりあるのに、体がついていかない。合間に休憩を挟みながらも、ケージが完成したのは30分以上経った後。
その後、かつおは体力切れでその場に寝そべったまま動けなかった。その様子を見て、呆れ顔をするレイワとヤマブキ。
(・・・俺達の主って、野生だと絶対生き残れないよな。)
(レイワ、それを言うな。)
元々かつおは、体が弱かった分、体を鍛える事もしない。片手持ちのダンベルでさえ、数回持ち上げるのがやっとなのだ。
そんな彼がスポーツジムに行けば、確実に浮く。だから、鍛えたくても、今更鍛えられないのだ。
学生時代、体育の授業でも、50メートルをたった一回走っただけで、息が上がって過呼吸になりかける。
その上、かつおは食事の量も猫と同じ量しか食べない。
味に好みはないわけでもなく、食べるのが嫌・・・というわけでもない。ただ、食事が『面倒』なだけ。
「うぅー・・・後は・・・ケージの中身・・・か。」
「ニィー!」
(かつおしゃん! かつおしゃん!
遊んで!遊んで!)
「ミャ!!」
(こらっ! さくら!
今かつおさんは『お仕事中』なのよ!!)
仰向けになるかつおの胸の上にダイブするさくら。その反動でかつおの口から、情けない『ヴッ!!!』という声が漏れてしまう。
ネネは、かつおの胸の上でくつろぐさくらを追い払おうとするものの、かつおはそんな2匹を抱え込み、そのままリラックスしてしまう。
「・・・そうだな、ちょっと休憩するかー」
新入りとの顔合わせには、まだ時間がかかる事を察したヤマブキは、暖かい寝床に隠れてしまう。
レイワはというと、新しくできたケージによじ登って、真上からかつおを見下ろす。・・・いや、『見下す』という表現の方が正しいかもしれない。
しかしかつおにとって、その表情ですら『ご褒美』なのだ。それをレイワも知ってか知らずか、よく彼が眠っている真上で眺めている事が多い。
かつおが時計を見ると、もう午前の9時を回っている。
本当は午前中に顔合わせをして、その時に撮影した動画を編集して、夜にアップしようか・・・と考えていたのだが、その計画は破綻しそうであった。
フリーランスに憧れる人は多いものの、自分で働く時間や内容を決めるのは、かなり難しい。
かつおに関しては、内容はもう頭の中でバッチリ組み立てられるのだが、軟弱な体力のおかげで、時間がグチャグチャになりがちになってしまう。
それでも人気が出た要因としては、かつおの猫に対する愛の証拠。
2匹を抱え込んでいる今も、「今の僕の目線、動画にしても良いかも・・・!」と思いながら、かつおはズボンのポケットからスマホを取り出し、メモ機能に新たなネタを書き込む。
かつおは、どうすれば猫が可愛く映るのか、どうすれば飼育の大変さが伝わるのか・・・を、常に考えているのである。




