その頃 保護施設では・・・
「そう、そんな奴だったよ。
・・・本当、変わってる奴だった。あれが『世間知らず』ってやつか?
アイツの方から声をかけてきたのに、俺の機嫌を伺いやがって・・・
アイツ、最初から最後まで、行動が意味不明だったぞ。」
「・・・・・とか何とか言って、
あんた、顔。
にやけてる。」
今日もふれあいルームでは、多くの猫達がくつろいでいた。今日は天気が悪いせいなのか、来てくれる人間がいない為、猫達は割と自由に過ごしている。
大声を出しながら迫って来る子供がこの部屋来ると、猫達は一目散に離れて行く。まだ力の加減も分からない上に、猫が『生き物』である認識もまだ薄い。
それこそ、『動くおもちゃ』と勘違いしても、不思議ではないのだ。
耳や尻尾を引っ張られたりすれば、当然猫達も手を出す。人間も、髪や足を引っ張られれば怒るのと同じ。
しかし、相手が子供だと、一方的に猫が悪者になってしまう場合もある。・・・まぁ、『そうゆう事を学ぶ部屋』ではあるから、仕方のない事なのだが。
だが、濡れ衣を着せられた猫達にとっては、たまったものではない。だから、このふれあいルームで過ごす猫達は、自然と『野生時代の名残』が強い。
相手との対峙が不利になれば、猫であろうとも人間であろうとも逃げる。それが、野生の世界を生きる『基本』
そんな心配がない今日は、三毛猫もお腹をパッカーンと開いたまま、ストーブの前を占拠していた。その目は完全に『八』であり、口からは吐息が漏れている。
ケージ時代では、寒くても毛布で我慢していた三毛猫。だから、初めてストーブから発せられる温風を全身で感じた時は、あまりの衝撃で固まってしまった。
「まさかこの世界に、これ程温かい空気が出せる機械があるのか・・・?!」と、ストーブを直で触ろうとしたら、『先輩猫』に叱られた。
「アレに触れんなよ。
アレに触って、肉球が『とんでもない事』になった猫もいるんだ。一応柵で囲われてるけど、
柵だって熱い。」
三毛猫にとっての『先輩』
彼女はこのふれあいルーム歴『5年』、超ベテランのメス猫である。三毛猫ですら頭を下げる風格は、まさに『ボス』
三毛猫とは、一年前程昔に知り合い、彼女もその時の事を覚えていた。
「・・・まぁ、言っちゃ悪けど、あんたも此処に来る・・・って思ってたよ。」
「居場所があるだけ、まだマシじゃないですか?」
三毛猫はくつろぎながらも、この前知り合った『元・まんぷく』の事について、ボス猫に話をする。
ボス猫も、ノベノベと床に寝っ転がりながらも、彼の話を聞いていた。
三毛猫は、時折嫌味な感じになったり、皮肉が混じったりしながらも、彼の話を色々と語っていた。
三毛猫の口は悪いものの、その顔は嘘をついてはいない。
元・まんぷくとの出会いは、三毛猫にとっても嬉しかった。お別れの挨拶ができなかったものの、それでも三毛猫の心の中には、彼がまだ鮮明に残っているのだ。
彼の顔を思い出すだけで、心がほんのりと温まる感覚がして、ついつい周囲を忘れて油断してしまう。
まんぷくと三毛猫は『男同士』という事もあり、三毛猫は初めて『友情』という名の感情を知った。それが嬉しくもあり、少し苦しくもあった。
何故なら、人懐っこく物覚えも良いまんぷくなら、すぐに人間に好かれてしまう・・・と、三毛猫は心の中で悟っていた。
そうなると、長くこの施設に居られない。
三毛猫やボスの様に、譲渡会のハードルが高すぎる猫は、自然とこの部屋に流れ着くのだが、まんぷくは優しくて頼りになる飼い主に拾われ、とっくに『飼い猫』としての生活をスタートさせている。
そうなると、まるで自分が置いて行かれたような感覚で、素直に喜べないのだ。
ただ、三毛猫にとって『飼い猫』というのは、ハードルどころか『壁』レベルに難関なのである。
だから三毛猫は、怖かったのだ。無理に挑戦すれば、その分『心』と『体』に傷を負いそうで・・・
「まぁ、猫もそれぞれの生き方がある。それは人間が決める事でもなければ、私達が決める事で
もない。
自分自身で決めないと、話にならない。」
「・・・じゃあ俺も、自分自身で選んで、此処に来たって事か・・・??」
「それを私に問われても・・・・・」
ボス猫は、ヒョイと飛び上がり、キャットタワーに登る。三毛猫はというと、まだストーブから離れられない。
二月になったばかりな為、外の雨も空気も、まだ寒い。こんな寒さ、野良猫や野良犬にとっては死活問題である。
三毛猫もかつては、『家とは呼べない場所』で生きていた為、その辛さはよく分かる。もちろん、まんぷくにも。
だが、もう互いに寒さを恐れなくてもいい、暖かい場所に居場所がある。場所は違えど、2匹がそれぞれ望んでいた環境は、いつの間にか揃っていたのだ。
何とも不思議な話ではあるが、三毛猫はどんよりとした雲を見上げながら、暖房でくつろぐまんぷくの顔を想像して、うたた寝を始めようとした。
・・・・が、そこに『来場者』が訪れ・・・




