二十九ニャン 初・対面
まんぷくの様子を見ながら、4匹との顔合わせを考慮していたかつおであったが、まんぷくは元々物覚えが早い為、すぐに『タオル作戦』の成果が出てきた。
その日もかつおは、4匹とまんぷく、別々で撮影をしていた。
部屋にすっかり慣れてしまったまんぷくは、家具等で遊ぶのはもう飽きてしまったのか、かつおが全力で振り回す猫じゃらしを毎日相手にしている。
まるで『オタ芸』の如く、猫じゃらしをブンブン振り回すかつおだが、まんぷくはしっかり視界に入れているのか、見失う素振りが全くない。
その結果、かつおにとってもいい運動になり、一通り遊び終えた頃には、かつおは虫の息のままその場に倒れ込む。
猫じゃらしを振っていた腕が、まるで石像のように重くなっていた。
先住猫・4匹も一応、そこまで運動が苦手なわけではないが、まんぷく程機敏に動けない。
まだ体が一番小さいにも関わらず、その小さな体で全力を出し切るまんぷくは、動画を観ている視聴者達も驚いていた。
「オリンピック選手みたい!!!」「かっこいい!!!」
「ボルダリングの日本代表選手と競ってる姿、観てみたい!!」
かつおも、まさか自分のチャンネルのコメント欄で、スポーツ関連の単語が多く載せられるとは思ってもいなかった。
だから、最初そのコメントの数々を見て、『ボルダリング』という言葉に首を傾げた。
そこでかつおは、ネットでボルダリングについて調べてみると、ニュースでも報道されるくらい、メジャーなスポーツである事が分かった。
かつおも、ちゃんと朝にはニュースを見ながら朝食を食べているのだが、スポーツの話題にはそこまで興味がない為、スポーツ特番になるといつもチャンネルを変えていた。
だから、ニュースをよく観ているかつおでも、ボルダリングがどうゆうものなのか、全然分からなかった。
ちなみに、プロのボルダリング選手が競技に挑んでいる映像も見たのだが、その後ろ姿は、まんぷくを彷彿とさせていた。
暇さえあればケージに登り、最近ではケージのみならず、かつおの首元まで自力で登り、カーテンレールにも登りそうな勢いに、かつおはタジタジ状態。
元気がある事は一向に構わないのだが、その勢いがもう『人間の子供』レベルに激しい。あっちこっち駆け回ったり、引き出しから物を引っ張り出そうとしたり・・・と。
先住猫・4匹の中で、一番運動ができる猫と挙げるなら、長男であるヤマブキである。
しかし、ヤマブキは『ここぞ』という時にしか機敏に動かず、普段はじっとしている事が多い。そして、ひたすらジーッと相手を見つめている。
別にヤマブキは面倒臭がりなわけではない、ただ、4匹の中で一番『慎重』なのだ。だから、4匹の中で一番、『新しい物』と馴染む為に必要な時間が長い。
年を越す前、クリスマスに4匹の為に組み立てたキャットタワーも、3匹は自ら進んで遊ぶものの、ヤマブキは近くで見ているだけで。
結局そのタワーに登ってくれたのは、年を越してから一ヶ月以上が過ぎた、つい最近の話。気に入った後は、3匹と普通にキャットタワーで遊んでいる。
ヤマブキの場合、本当に嫌いだったら観察しない上に、近寄らない。様子を伺っていれば、ヤマブキが何を気に入っているのか、何が嫌なのかが分かる。
視聴者やかつおにとっては、その慎重な性格が『趣がある』として、高い人気を集めている。
「・・・・・・??」
「・・・まんぷく? どうした??」
ついさっきまで、パソコン作業をする傍でおもちゃと戯れていたまんぷくの動きが、急に止まってしまう。
そしてまんぷくは、そのまま部屋のドアの前までゆっくりと歩み、座り込んでしまった。
これにはかつおも、首を傾げてドアの方を見たが、やはりドアには何の異変もない。
動物系の都市伝説で、『猫は幽霊が見える』という話があるが、かつおは基本臆病な為、そうゆう話どころか、番組すら見ない。
プレイヤーの反応を楽しむ『ホラーゲーム・実況プレイ』も、恐ろしくて見られないくらい。プレイしている人より、見ているかつおの方が先に悲鳴をあげる。
ただ、先住猫4匹も、時折何もない空間で動きを止めたり、何もない空間に威嚇を始めたりする為、若干だがその都市伝説だけは信じている。
だから、かつおは焦った。カメラが回っている事も忘れて、恐る恐るドアの前に近づく姿は、まさにお化け屋敷で怯えているお客。
その時ばかりはかつおも、情けない声で独り言をマシンガンの様に呟き、「え?! え?! え?! え?! ねぇねぇねぇねぇねぇ!!!」と、もはや言葉にすらなっていなかった。
その様にまんぷくは、ただただ疑問に思いつつ、ドアをずーっとカリカリしている。まんぷくの様子を見たかつおは、突然ハッと何かに気づいた。
そして、彼が恐る恐る部屋のドアを開けると・・・・・
「・・・・・ヤマブキ? どうした?」
かつおの前にいたのは、静かにドアの前で座っているヤマブキだった。さっきからまんぷくが気にしていたのは、ヤマブキの気配。
ヤマブキは、ドアを引っかかず、鳴く事もせず、ただひたすら、ジーッとドアを見続けていたのだ。
異変の正体が分かってホッとしたかつおは、ヤマブキの頭を撫でる。そしてその様子を、後ろからまんぷくが見ていた。
まんぷくも、ヤマブキに挨拶をしたい気持ちは十分にあった。
しかし、まんぷくが近づこうとすると、何故かヤマブキがジーッと見てくるので、怖くてなかなか前に進めない。
監視されている・・・というわけでもなく、頑張って様子を伺っている様子だった為、まんぷくも、どう接すればいいのか分からないのだ。
悪い猫ではない事は、かつおの対応から見ても十分伝わっている。
その筈なのに、恐怖心の方が優ってしまう自分に、だんだんとヤキモキを感じ始めているまんぷく。
「・・・もしかして、まんぷくが気になるの?」
「・・・・・ニャ・・・」
(・・・・・うん・・・)
ヤマブキは、小さな声で返事をする。その様子を見たかつおが、しばらく考え込んだ後・・・
「・・・・・・・・・・
・・・よしっ、やってみよう!」
そう言ってかつおは、机の上に置いてあるカメラを手に取り、もう片方の手でまんぷくを持ち上げ、ヤマブキの側まで寄った。
初めての顔合わせの際は、『ケージ越し』の方が安全なのだが、ヤマブキの思いを無碍にするわけにもいかず、トラブル覚悟で、適度な距離まで近寄らせてみる。
それに、もし動画にできないような事態になっても、動画を投稿しなければいいだけの話。
確かにかつおは、猫達のありのままを投稿する事を心掛けている。しかし、あまりにも過激すぎると、『ドン』からお叱りを受けてしまう。
かつおの収入源の半分以上は、動画投稿で賄っている。動画でお金が得られなくなってしまうのは、かつおにとっても最悪の事態。
かつおも、色々と考える事が多いのだ。
「ほら、この子がまんぷくだよ。可愛いでしょ。」
「・・・ウニャーウ・・・」
(は・・・初めまして・・・)
まんぷくは、おっかなびっくりではあるものの、ヤマブキに対して挨拶をする。
だがヤマブキは・・・・・




