二十五ニャン トラウマ
彼に『まんぷく』という名前がつき、数日が過ぎた頃、まんぷくはというと・・・・・
「まんぷくー・・・行くよー・・・」
「・・・ウニァァァ・・・」
(い・・・・・嫌だ・・・)
運動神経が良く、察しがいいまんぷくは、かつおが『キャリーケース』と『リード』を手にしている時点で、自分がこれから『病院』へと送られる事が予想できていた。
・・・いや、察していたのはまんぷくだけではない。
下の階でのんびりしていた4匹も、かつおが手にしている二つの道具を見つけただけで、すぐさま何処かへ隠れてしまう。
かつおにとってこの状況は、『悲しい』を通り越して『苦痛』なのだが、こればっかりは仕方ない事。猫達の健康を守る為、飼い主としての『最低限の義務』は果たす。
それに、病院が終わった後にはきっちり『ご褒美』も用意している。
だから先住猫4匹は、病院へ行くのを躊躇うものの、最終的には渋々ケースの中に入ってくれる。帰って来たらお楽しみが待っているから。
だが、まだその流れを把握していないまんぷくは、何がなんでも行きたくない気持ちが大きい。
かつおの手が絶対届かないであろう『クーラーの上』に登り、体を押し込みながら隠れている。
かつおも、探すだけならまだ簡単なのだが、そこから引っ張り出すのが一番の問題。
三脚等を使えば、引っ張り出せるのだが、無理に引っ張ろうとすると、クーラーをバリバリにされる危険性もある上に、まんぷくが怪我をしたら一大事だ。
「・・・しょうがないなー・・・
最初だからねー」
そう言って、ケースを部屋に置きっぱなしにして、かつおが一旦その部屋から出ると、またすぐに戻って来る。
だがその手には、リードだけではなく、『おやつ』が握られていた。それを一眼見てしまうと、まんぷくも動くしかない。
まんぷくは恐る恐るクーラーの上から、ニョキッと体をくねらせて脱出。そして、かつおの誘導に任せ、ケースに入ってしまう。
(・・・おやつ美味しい・・・)
まんまとかつおの誘惑に負けたまんぷくではあったが、彼の出してくれたおやつを噛み締めながら、まんぷくも覚悟を決める。
かつおはケースに入っているまんぷくにリードを結び、ケースの蓋をしっかり閉じた。
先程までドアの前で様子を伺っていた4匹は、かつおが部屋から出てくると同時に、またどこかへ消えてしまう。
まんぷくはケースの中から、外の様子を伺っていた。かつおがドアを開けた瞬間、霧散した4匹の姿も、ほんの少しだけど見えた。
『ヤマブキ』は綺麗なクリーム色一色の猫
『レイワ』は灰色と白の長毛猫
『ネネ』は白と黒がはっきり分かれている猫
『さくら』は真っ白な猫
そして、廊下を歩くかつおの後ろから、トボトボと4匹がついて来る。
「良い子でお留守番できたら、皆にもおやつあげるから。
じゃあ行ってきまーす!」
4匹は、かつおとまんぷくを見送った後、ドアにロックがかかる音と同時に、またリビングへ戻る。
「ミィー、ミィー」
(ねぇ、お姉ちゃんは見た?
新しく来た子の顔。)
「ウニャーウ」
(ほんのちょっとしか見られなかったわ。)
ネネとさくらは、キャットタワーで遊び始める。レイワはというと、ソファの上でお腹を広げたまま眠ってしまう。
ヤマブキは窓際で、車が家の駐車場が出て行くまで、ずっと見守っていた。
「ニャーアァー」
(心配性なところは相変わらずだねー
心配しているようには見えないけど。)
「シャァァァ!!!」
(やかましい!!!)
ヤマブキはそのまま、窓際からジャンプして、隙だらけのレイワにマウントをしようとするが、レイワは華麗な身のこなしで避けた。
そしてそのまま、追いかけっこに発展する2匹。いつもの光景であった。
「あーあー、また喧嘩しちゃってる・・・」
車の中で予約待ちをしている最中、かつおはスマホで家の中の様子を観察していた。
今はペット用のカメラも充実している為、全速力で駆け回るヤマブキの姿も、ブレる事なく完璧に撮ることができる。
かつおは外出時、最低でも一時間に一回は、そのアプリで家の中の様子を見ている。
かつおの留守中、一大事になった事は無いものの、留守中の猫達もやっぱり可愛いのだ。
かつおと一緒にいる時とは違い、いつも以上に自由気ままな猫達を見ていると、外で生じるストレスがギューンと減っていく。
かつおと一緒にいる時の猫達は甘えん坊なのだが、彼がいなくなると同時に、猫達の『素顔』が分かる。
まんぷくも、そのカメラで撮られる日はもうじき来る。
術後の経過観察でも、特に変わった様子は見せず、ご飯もきちんと食べてくれる為、かつおの経験上、もうまんぷくエリザベスカラーは今日でおさらばになりそうだった。
「これから家の中で自由に遊べるんだよ! 楽しみだね!」
まんぷくよりも嬉しそうな表情見せるかつお、まんぷくは彼の言っている事がよく分からなかったものの、彼の笑顔を見ていると、つい自分も笑顔になってしまうのであった。




