二十四ニャン 生き物と共に生きる幸せ
かつおの献身的な治療のおかげで、父が推察していた子猫の命は、何倍も何十倍も長生きしてくれた。
さすがに現在はもう亡くなっているものの、その子が生きた年月は、18年。人間で例えるなら、88歳のおばあちゃんになるまで、頑張って生きてくれた。
もちろんその間も、かつおがずっと世話をしていた。
老猫になっても、トイレの世話や餌の世話等を工夫しながら。
最後の最後まで、その猫が安心して過ごせるように・・・と両親でも感心する程、かつおも18年で、大きく成長したのだ。
かつお一家は、父親が動物病院を営んでいる都合上、家の中にまで動物を入れるのは、両親としてはあまり好ましくなかった。
プライベートと仕事を、きっちり分けたかったのである。
しかし、かつおの両親が手を出さなくても、息子がきちんとお世話を欠かさない姿を見せられると、今更施設に渡すわけにもいかず、かつお一家の家で飼われる事になった。
最初にかつおが飼った猫なだけあって、かつお自身も相当苦戦していた。時折涙を流したり、上手くできずにイライラしてしまう事も。
それでも、何度も何度も挑戦しては、色んな人からアドバイスを貰ったり、本で色々調べたり・・・と、かつおも尽くせる手は沢山尽くして。
そんなかつおに対して、その猫は拾われた恩を返す様に、ずっと彼の側に居た。
何かをあげるわけでもなければ、「ありがとう」と言えるわけでもない。ただ、飼い主にとって、これ程嬉しい事はなかった。
そして、猫の世話を通じて、かつおの体調や内面にも、大きな変化が生じる。
今までは、一ヶ月に一度は熱が出ていたかつお。しかもその熱はなかなか下がらず、最長で半月は床でずーっと寝ていた事もある。
だが、猫の世話に躍起になった頃から、熱が出る事が少なくなり、多少咳や鼻水に困った時期はあったものの、付きっきりで両親が看病しなくても、外で遊べるようになるまで元気になった。
そこでかつおは、その猫にもリードをつけて、一緒に散歩を楽しむようになり、その道中でクラスメイトとも仲良くなり、彼の生活はいつの間にか様変わりしていた。
その猫が老いの影響で病気になった頃、既に高校二年生になっていたかつお。
しかしかつおは、友人達との青春の時間よりも、病気になってしまった猫の看病に時間を費やす。
そんな息子を見て、両親は時折心配になった。
しかし、かつおの人生をずーっと一緒に歩んでくれた猫にできる事は、かつおとの時間を、できるだけ多く設ける事。
最初は飼う事を嫌がっていたかつおの両親も、その猫との別れを号泣する程惜しんでいた。
もちろん、一番お世話をしていたかつおも泣いた。
ただ、『悔しい』という気持ちではなく、『ありがとう』という気持ちの方が勝り、色とりどりの花々に囲まれながら、静かに眠る『相棒』を見て、不思議と笑みが溢れていた。
「・・・『ポチ』、また新しい子を迎えたよ。」
何故、その猫の名前を『ポチ』にしたのか。それはただ単に、幼い頃のかつおが知っている『ペットの名前』が、『ポチ』しかなかったから。
それに、『ポチ自身』が、その名前を気に入っていた様子だった為、違和感を抱いた頃には、時既に遅しであった。
そして、かつおの住んでいる家の神棚には、ポチの生前の写真が飾られている。そこで、何かある度に、ポチへ報告するのだ。
もちろん、神棚にも猫グッズが集結している。猫が刺繍されているお守り、猫が彫られた絵馬、猫が描かれている御朱印・・・等。
最近では猫グッズを扱う神社等も増えている為、神様関係に詳しくないかつおでも、ついつい手を伸ばしてしまう。
そして、神棚の上にも猫グッズを置いているのにも、ちゃんとした理由がある。
神棚の上で、ポチだけが独りぼっちになってしまわないように、せめてもの『仲間』を買って飾っているのだ。
ちなみに、その神棚にちょくちょく登るヤマブキ。
一応、神棚の近くには、足場になるような物は置いていない筈なのだが、ヤマブキは床から飛び上がっても、軽々と神棚に着地してしまう。
そうなってしまうと、かつおも完全にお手上げ状態。だが、決して注意するわけでもなく、ただジーッと見守っている。
何故なら彼は、身体能力がまんぷく並に高く、神棚の上を歩いても、飾られている猫グッズやポチの写真が倒れた事は、今までに一度もない。
神棚の上をズカズカと歩いて、猫グッズや写真が倒れてしまえば、かつおも神棚の位置をとっくに移動させている。
でも、あえてヤマブキの行為を黙認しているのは、別に迷惑さえかけなければ、自由にさせてあげたいだけ。
それに、ヤマブキが神棚をウロウロしてくれるので、神棚にあまり埃が積もらない。
・・・だが、その分ヤマブキの体が埃まみれになってしまうのだが・・・
かつおがポチに、『新入りの子』の健やかな成長を手を合わせて祈っていると、いつの間にかヤマブキが神棚の上に乗っていた為、かつおはつい吹き出してしまう。
これではまるで、ヤマブキにお祈りを捧げている様に見えてしまうから。
そして部屋の隅には、必死に水を飲むネネとさくらの姿が。
ついさっきまで追いかけっこをしていたのか、2匹の息がだいぶ荒くなっている事に気づいたかかつお。新しく来た子の面倒も見つつ、先住猫の世話をしなければいけないのも、飼い主の仕事。かつおが2匹の側へ寄ると、2匹は彼の脚に擦り寄って来る。
そしてさくらは、しゃがみ込んだ彼の膝の上へ、強引に飛び乗った。
「よしよい、あっちでゴロゴロしようなー!
・・・そういえばレイワは何処・・・?」
そう思い、周囲を見回すと、かつおがいつも編集作業をする時に使っている椅子の上で、頭をダランと垂らしながら、深い眠りについていた。
白目を剥いているその表情を、かつおは思わずスマホで撮影。
その写真をSNSにアップすると、いつの間にか『#可愛いホラー』という、独自のハッシュタグがつけられていた。




