二十ニャン 朝を迎えて・・・
「・・・・・ニァ・・・二ァウ・・・」
(・・・・・そっか・・・もうあの男の人・・・
かつおさんの家だったよね・・・)
目を覚ますと、いつも彼より先に起きている三毛猫が、横から自分の様子を見ている光景ではなく、クリーム色の壁のみが目にうつる。
まだ体には違和感があるものの、昨日よりもだいぶマシになった。
ただ、まだエリザベスカラーは嫌なのか、自分で頑張って外そうとするものの、そう簡単には外れない。仕方なく諦めた彼は、改めて部屋の中を見回す。
すると、ケージのすぐ近くで、かつおがものすごい寝相のまま、お腹をさらけ出して寝ていた。
いつもはキリッとしている彼の無防備な寝顔に、彼は静かにびっくりしてしまう。だが、キリッとしている表情を見せているのは、猫に対してのみ。
人間相手だと、まるでロボットの様に無表情になってしまう。それがかつお。
昨日は色々とバタバタしていたせいで、昨晩は編集が終わって投稿してすぐ、床に入って眠ってしまった。
時計は部屋に壁に掛けてあるものの、彼は時計を読めない。野良時代は、『太陽の位置』や『周囲の明るさ』で、朝なのか夜なのかを確かめていた。
カーテンで閉じられた部屋の窓からは、ほんのりと光が見えるだけで、外が一体どうなっているのかまでは分からなかった。
しかし、窓の外から微かに聞こえる『カラスの鳴き声』は、彼の耳にも届いている。
彼は外の様子を伺いたくなり、ケージとトントンと叩いてみるが、全然ビクともしない。
逃走防止を踏まえたケージの守りは万全、ケージを登りたくても、エリザベスカラーが邪魔して登れない。彼は若干イライラしてしまい、ケージに向かって突進する。
しかし、やはりケージは微動だにしない。『ガタンッ!!』という大きな鳴き声を発するだけで、口は全然開こうとしなかった。
これには彼もお手上げ状態になり、そのままふて寝してしまう。
すると、彼がケージに突進した音に驚き、飛び起きたかつお。彼は、自分がかつおを起こしてしまった事に気づいて、申し訳ない気持ちのまま、寝床に潜り込んだ。
しかしかつおは、『もしかして、ぶつかった拍子に怪我しちゃったのかな・・・?!』と、ケージを開けて寝床に手を突っ込み、彼を引っ張り上げる。
しかし、彼の体には傷一つ無く、かつおは安心する。
かつおは決して、彼を責めるような言葉は言わない。ただ一言、「おはよう」と言って、再び彼をケージに戻す。
そして、かつおは眠い目を擦りながら立ち上がり、部屋のカーテンを開ける。
これでようやく、外の景色を見る事ができた彼は、また興奮してケージに突っ込んでしまう。
見える部分はほんの僅かではあるが、彼にとっては久しぶりの『外の景色』
野良時代の名残がまだ抜けていない彼は、空が水色に染まっていると、つい嬉しくなって興奮してしまうのだ。
すると、かつおはその様子を見て、またケージから彼を抱き上げると、窓の方に近づけてみた。
窓の外に映るのは、今までに彼が見た事のないくらい、広大な景色。路地や施設では決して見れなかった景色に、思わず固まってしまった彼。
窓から見て手前側は、住宅の屋根が連なっていた。近くの電線の上には、カラスが『カァー カァー』と鳴きながら、遠くの仲間と会話をしている。
道路を見ると、集団登校をしている小学生と、子供達を引き連れているおじさんの姿も見えた。
だが、今までそんな高い場所から人間を見た事がなかった彼は、列を成してゾロゾロと歩いている小学生が、人間には思えない。
彼の中で、『人間=自分よりも大きな存在』と認識している為である。小さな小学一年生でも、彼にとっては怪獣レベルの大きさ。
そして遠くの方では、かつて彼が真下で見ていたビルがいくつも見える。ビルよりも遥か遠くに見えるのは、工場の煙突からモクモクと噴き出る白い煙。
ビルはビルでも、一つずつ形が違う。彼は息を呑みながら、その景色ひたすら凝視していた。
今日の天気は『雪』
積もりはしない量だが、やはり降り注ぐ雪を見たのも初めてだった彼は、もう何処に注目して見ればいいのかわからなくなり、半ばパニックになってしまう。
路地で見ていた雪は、いつも地面に落ちるばかりで、降り注ぐ光景なんて、どう頑張っても見られなかった。
それこそ、『白い紙』に『白いインク』を垂らしても分からないように、『白い空』に舞う『白い雪』は、なかなか認識できない。
パニック状態の彼に対し、かつおは優しく彼を床に下ろしてあげる。すると今度は、部屋の中をウロウロする彼。
部屋の中は至ってシンプルではあるが、彼にとっては見た事ない物だらけの世界。好奇心旺盛の彼は、すぐさま調べる為に走り回った。
「・・・よしっ、じゃあそろそろ、僕はご飯を作る時間だから、一旦ケージに戻ってねー
後でまたちゃんと出してあげるから、ちょっとだけ我慢しててねー」
そう言って、かつおは走り回るかつおを上手くキャッチして、ケージの中へと戻す。
彼はちょっとムスッとしてしまったが、お腹が空いているのは、彼も含めて先住猫達も同じであった。彼が部屋を出て、ご飯の準備をする為にキッチンへ行くと、そこには既に4匹が座って待機していた。
「ニャーア ニャーア」
(ごはーん! ごはーん!)
「ごめんごめん! 今出すからね!
・・・あの子、僕が考えた『名前』、気に入ってくれるかな?」
そう言いながら、彼は猫達のご飯を用意する。それが、かつおの『朝のルーティーン』
そして、時間になればすぐキッチンに集まるのも、先住猫の『朝のルーティーン』




