その頃 あの路地では・・・
『あの猫』が姿を消してから、だいぶ日が経った頃、1匹のカラスは、今日も食べ物を探す。
飛びながら、電線に止まりながら、マンションから見下ろしながら。『人間のおこぼれ』を狙う。
ついこの前まで、イートロードの店員達が朝の仕込みをしている最中、路地裏にあるゴミ置き場を漁り、しばらくすると、あの『小さな毛玉』がヨタヨタとやって来ていた。
そして、一緒にゴミ袋の中を漁る。他愛のない会話をしながら、遠目で人間達の生活を眺めつつ。
それがついこの前まで、カラスのルーティーンであった。
しかし、そんな日常が突然終わりを告げた。何の予兆も、前触れもなく、あの毛玉は連れ去られてしまったのだ。
そして、変わってしまったのは、あの猫がいなくなった事だけではない。路地裏自体が変わり始めようとしているのだ。
(・・・いや、むしろその方が良かったのかも・・・)
と思いながら、カラスは草むらに捨ててあるゴミ袋を突っつく。
そして、中に入っている『食べかけのサンドイッチ』を咥え、安全な場所(廃ビルの屋上)まで飛んで行った。
拾ってきたサンドイッチを1羽でムシャムシャと食べていると、この近所で共に生きている別のカラスも寄って来て、お裾分けを頂戴する。
その間、カラス同士の他愛のない会話が弾んでいた。
「お前、気に入ってたんじゃなかったの?
あの『毛玉ちゃん』」
「・・・まぁね。でも、僕には全然関係のない話だよ。」
「・・・そんな事言ってるけど、本当は毛玉ちゃんを探して飛び回ってるんじゃないの?」
「まさか、どうしていなくなったのかも、生きているのか死んでいるのかも分からないんだ。そ
んな奴を探すだけ、時間と体力の無駄。
・・・まぁ、でもあの子なら大丈夫だろう。」
「確かに、あの『大騒動』に巻き込まれなかっただけでも、まだ無事でしょうね。」
あの子猫が保護されてから、数日が経過した頃。事件が突然起きたのだ。
その日もいつも通り、そのカラスが一羽だけでゴミを漁っていると、いつも通り、『とある店の店員』が来た。
ゴミ捨て場に、大きなゴミ袋を『三つ』持って来て。
だが、その日はいつもと違っていた。カラスはもう事前に気づいていたのだが、路地の奥の方から、『複数人の人間の気配』がしたのだ。
しかもその人間達は、歩いているわけでもなければ、動いているわけでもない。ただひたすらジッとしている、『青い服』の人間達。
「俺を追い払いに来たのか・・・?」と思っていたカラスであったが、カラスがゴミ捨て場を漁っていても、その人間達は動こうとしない。
不思議に思いながらも、空腹に耐えられないカラスは、そのまま食事を続行した。
そして、ゴミを捨てた店員が店に戻ろうとした瞬間、後ろにいた人間達が突然動き出し、その店員を押さえ込んだ。
その光景を傍観していたカラス達は、何が何だかさっぱり分からず、逃げるべきか、見ているべきか・・・で悩んでいる間に、人間達がが過ぎ去った後出会った。
しかし、その路地裏がとんでもなく静かだった事に、カラスは怖気付いていた。余計に何が起きたのか、その静寂によって分からなくなるのだ。
そして翌日から、その店員が路地裏までゴミを捨てに来る事は一切なくなった。
路地裏で明らかに『大事件』が起こったのは確かであったが、原因も現状もよく把握できていない状況では、いくら賢いカラスでも理解ができない。
そしてとうとう、つい最近になって、当時の事情が判明。
別のカラスからの情報だが、信憑性は高い話であった。
「その男さ、私の餌場にしているゴミ捨て場近くのアパートに住んでたんだけど・・・
かなり『問題視』されている人間だったそうよ。」
「何で?」
「なんかね、その男が近所に住むおばさんから怒られてて、
「うちの犬に『生ゴミ』なんて食べさせないでよ!!!」
って言ってたな、あのおばさん。
・・・でさ、数日前かな、その犬が使っている餌入れを、ほんのちょーっと覗いてみたわけ
よ。もしかしたら、おこぼれがあるかもしれないでしょ?」
「君もなかなかやるね。」
「でもね、その餌入れの中から、『明らかに餌じゃない臭い』がしたの。なんか・・・『綺麗だ
けど気持ち悪い匂い』・・・っていうの?」
「は?」
「私も詳しくは例えられないんだけど、その臭いの正体って、男が毎夜その餌入れに入れていた『餌じゃないナニか』だと思うのよ。」
「『餌じゃない』・・・という事は、『食べられる物ではない』・・・って事?」
「絶対そうよ、臭いだけでもう明らかにヤバいもの。
・・・まぁその犬もだいぶ年寄りのおばあちゃん犬だからね、臭いに気づかずに食べていたの
よ、きっと。」
「・・・じゃあ、あの男がしばらくこの道に来ないのは・・・」
それだけを聞いて、全てを察したカラス。だが、同時に人間に対する恐怖心が更に増した。
詳しい事は分からない、聞きたくもない。しかし、考えてしまうのだ。
もしあの子猫が、あの男に『おかしなモノ』を食べさせられていたら・・・と思うと。
あの子は、『食べられる物』なら何でも食べていた。
つまり、ソレに『ナニか』が入っていても、食べられる物なら食べてしまう。そんな子だったから・・・




