十二ニャン ようこそ いらっしゃい
術後の経過観察でも、特に異常は見られなかった彼は、退院してそのままかつおに引き取られる事に。
本来なら、術後も施設で様子を見なければいけないのだが、施設は彼の『実績』を信じ、そのまま受け取ってもらう事にした。
・・・それに、術後もあれこれとメールで事情を聞かれたり、猫達の差し入れを頂いてばかりになるのは、施設側としても申し訳ない。
施設側として一番大切な『飼い主選び』で、最も重要な要点は、その飼い主候補となる人間が、引き取った猫の寿命が尽きるまで、親身になって面倒を見てくれる人か否か。
かつおの動画を毎日のように見ている職員もいる為、彼を引き取ったその日に、動画として彼を撮影する事も聞いていた。
だから、何人かの職員がその動画を見た上で、今度は施設側が彼にメールを送る事で意見は一致。
・・・職員はそれ程心配していないものの、一応『仕事』ではあるから。彼がかつおに引き取られる事が決まった時点で、職員全員は安堵していた。
それに、動画で経過観察が見られるのなら、彼の生活態度だけではなく、彼がこれから生きる家の環境も確かめる事ができる。
一部分だけを静止画で確認できる『写真』とは違い、『動画』ではありのままの猫と飼い主の生活を臨場感も含めて見る事ができる為、施設側も最近は、保護された猫の紹介は写真ではなく動画にもしている。
写真だけでは、その猫がどんな鳴き声なのか、どんな癖があるのか、どんな事が好きなのかが、上手く伝わらない事もある。
それに、動画なら子猫を譲り受けた後のビジョンも容易に想像できる。
猫だって生き物、人間と同じように、癖の一つや二つあっても不思議ではない。
だからこそ、ただ単に『可愛いから』『自慢したいから』という理由で飼われたりすると、後々色んな人が後悔する事になる。
・・・むしろ後悔で済めば、まだマシなのかもしれない。現在は、『動物関連の残酷な事件』が、普通に朝のニュースで取り上げられているくらいなのだから。
今は動物より、人間の方が面倒臭い時代。事件が起きた後では、もう何もかもが遅いのだ。
本当に引き取る動物を愛しているのなら、そんな癖を受け止めてこそ・・・である。何故なら相手は、人間と同じ『生き物』だから。
だから、施設としても安易な事情で引き取ってもらわないように、そうゆう事にも目を回しておかないといけない。
・・・そういった意味では、施設の仕事も、昔と比べると倍以上に膨れ上がっているのかもしれない。
もちろん、かつおは引き取る子猫がどんな問題児でも、全然構わなかった。何故なら彼にとって、猫の困ったワガママや癖でも、全部愛おしく感じているから。
先住猫が仕事の邪魔をしてきても、彼はそのまま仕事を放棄して遊んであげる。
先住猫が寝ているかつおの上に乗っかって来ても、かつおは逆に喜んで、そのまま熟睡する。
先住猫の体調が少し悪くなっただけで、すぐ病院へ直行。猫の様子は随時確かめている為、診察する医師が若干引くくらいの情報を教えてくれるかつお。
病院側としては『手のかからない患者』なのかもしれないが・・・
かつおは毎日猫との動画を投稿しているのだが、休むきっかけはほぼ猫関連の事情。
だからこそ、視聴者もかつおが動画を休んでも、「また猫関連だな・・・」と思う為、自然と納得してしまう。
だから、かつおのチャンネルは比較的平和な方。
猫業界ではないものの、『結婚』や『お見合い』の企業からも、『旦那として迎え入れたい・婿として迎え入れたい動画配信者ランキング』で、最近かつおはいつも上位に君臨している。
確かに、それ程猫に対して親身になれるのなら、その愛をたっぷり受ける猫達を羨ましく思う人がいても不思議ではない。
だが、彼はやはり猫にしか関心が向かない為、そうゆうランキングで上位に君臨しても、特に何も思う事はなく、取材を持ち込まれても「ノーコメント」と言い切っている。
人間の女性に時間を費やすくらいなら、かつおはどんな猫に対しても時間や出費を惜しみなく費やす。
彼の愛用する車も、先住猫達全員と一緒に外を眺められるようにする為、あえて大きくて窓の大きい車種を選んでいる。
しかも、中には先住猫をリードで繋げるようにする為の『突っ張り棒』も自分で設置して、ケースを器具でガッチリ備え付けられるストッパーも設置して、急な揺れや衝突があっても猫達が怪我をしないように・・・と、色々な対策が為されている。
そんな努力の結果、彼の車は大きいにも関わらず、乗れる人数は助手席を含めると2人程しかない。
何故なら後ろの後部座席は、全部猫の為の道具や設備でいっぱいだから。
トランクの中に至っては、台風等の災害が起きた時、愛する愛猫達に『いつも通り』を提供させる為、『猫用・防災グッズ』がパンパンに敷き詰められている。
数日前も、そこまで規模は大きくならなかったが、彼の住んでいる地域で『地震』が起きた。念の為、彼は猫達を早急に車へと乗せ、避難所まで行った。
その駐車場で半日を過ごしたが、結局それ以上の被害は起こらず、一安心して先住猫達と一緒に家まで戻る。
現代の自然災害は、もう過去の教訓を遥かに超える事態になっても不思議ではない。
だからこそ、『大事な家族』を抱える身としては、どんな時でも対応できるようにしなければならない。それが、一種の『愛の形』
「それじゃあ・・・この子の事、よろしくお願いしますね。」
「はい! 今日の夜にはこの子を配信で紹介するつもりなので、是非見て下さい!!」
ケージの中にいる彼は、まだエリザベスカラーが嫌な様子で、退院するというのに、だいぶ不満な表情。しかし、そんな顔もかつおにとっては『ご褒美』である。
彼はというと、辛い試練をクリアして、ようやくかつおとの生活が待っている事に、胸の内ではウキウキが止まらなかったのだ。




