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十一ニャン 成功

「・・・・・・・・・・

 ・・・んぅ・・・」


彼は、自分の体が重くなっている事にようやく気づいた。前後の記憶はさっぱりないものの、自分の体に違和感を感じていた。

『ナニか』が・・・無くなっている感覚。

だが、今の彼にそんな事を気にする気力もない。体がフラフラする上に、頭がやけに重い。

その頭を動かそうとしても、何故かケージがカツンカツンと音を立てるばかりで、全く動かない。

心の中はパニック状態ではあるが、やはり体が重く、鳴く事すらできない状況に、彼は怖くなって、涙が出そうになる。

今まで彼が涙を流したのは、母親の姿が見えなくなった時以来。

何処か分からない場所で、体が自由に動かせない状況は、人間でもパニックになる。

そして、不安だらけで頭がグチャグチャな彼の脳裏に過るのは、かつおの笑顔。

彼は、あの笑顔が見たくなった。手術前、不安で震える彼に対して見せてくれた、あの眩しいくらいの笑顔。

今の彼は、何日間も日の光を見ていない梅雨の時期と同じ気分であった。

雨が降っているから何処へも行けない、体を動かしたくても動かせない。あの暖かい温もりが恋しい、早く会いたい。

そんな気持ちで心がいっぱいなのに、会えない悲しみで心が押し潰されそうだった。

譲渡会を含めると、たったの2回しか会っていない相手の筈なのに、どうしてあの人間に対して、恋しさを感じてしまうのか、彼にはまだ、その気持ちが分からない。


それが 『飼い猫』としての『本能』である事を






「・・・い!! ・・は・・・・・

 ・・は・・・・・・か?!」


部屋にある扉の向こうから、『聞きたかった声』が聞こえる。その声が聞こえたと同時に、彼の心と体が、ほんの少しだけ回復する。

そして、力一杯出せるだけの力を出し切り、彼は小さな体を奮い立たせた。


「・・・・・アゥー・・・」

(・・・・・僕は・・・此処にいるよ・・・!)


その声に反応したのか、廊下で話し合っていた院長とかつおが部屋に入り、彼がいるケージを覗き込む。

かつおも彼と同じく、だいぶ心配した表情で彼を見ていたものの、彼はかつおの顔を見られた事で、嬉しさで心が溢れ、涙が出てしまう。

その涙を見たかつおは、今すぐ彼を抱きしめたい気持ちを必死に堪えながら、ただ「良かった・・・」と呟きながら、彼のいるケージを撫でる。

彼の首が上手く動かなかった理由、それは術後の体を自らが傷つけないように、彼の首に巻き付けてある『エリザベスカラー』のせいだった。

彼にとっては初めてのエリザベスカラーだった為、パニックになってしまったのだ。

その後、かつおは院長に詳しい話を聞きに行き、彼はエリザベスカラーを一旦外し、柔らかいご飯とお水が出された。

しかし、彼は確かに空腹状態ではあるものの、なかなか食べる気になれず、美味しそうな匂いが側でしているにも関わらず、体が動かせない。

這って行くだけでもやっとの体力で、彼は水をチビチビと口の中に入れていく。だが、まだご飯までは気が向かない。

そこで病院の職員は、ご飯の中に『液状のおやつ』を混ぜ込み、少しでも食べてもらえるように色々と工夫を凝らす。

すると、彼は重い体をどうにか持ち上げ、4分の1程度ではあるものの、ちゃんと食べてくれた。

その後はまたエリザベスカラーを付け直し、彼は眠ってしまう。

エリザベスカラーを再度付ける時、彼は一瞬暴れたものの、体の苦しさに負けて、されるがまま状態に。


別室で話を聞いているかつおはというと、院長の話を一通り聞き、ホッと胸を撫で下ろした。手術は成功したのだ。

だが、まだまだ油断を許さない状況でもある為、それはかつおも『先住猫4匹で経験済み』

先住猫4匹の手術に関しても、彼は手術が終わるまで、ずっと車の中で猫の無事を祈り続けていた。

その姿は、まさに妻のの出産を心待ちにする旦那の様である。4匹でもう慣れているとはいえ、それでも心配なものは心配。

かつおは、自分の体調や具合については全く無頓着なものの、猫の体の異常はすぐに感じ取れる。

だから、ケージの中に入っている彼の無事を確認した途端、かつおは彼がどれだけ頑張ったのかが伝わり、こっちもこっちで涙が出そうになる。

2匹目の術中は、彼車の中でひたすら祈り続ける動画をライブにした結果、かなり大絶賛であった。

「猫を飼う際の注意点等もしっかり解説してくれるから、かつおさんは本当に偉い」

「まさに飼い主の鑑」「私もかつおさんに飼われたい」

・・・等、沢山のコメントが寄せられ、収益もかなりのものになった。

だがその収益の大半は、新しくお迎えする彼の為に使う事を、既に決めているかつお。

その決意通り、かつおは2匹目を迎えたと同時に、家にキャットタワーをもう一台追加で設置して、部屋を丸ごと『猫部屋』とした。


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