十ニャン いざ・・・
予定では、かつおに飼われてから『手術』を施す予定だったものの、かつおの献身的な差し入れにより、彼はすくすくと成長。
一才を間近に控え、ようやく獣医の先生から、『手術』の許可が得られた。
今は行政も、野良犬や野良猫に対する支援金や補助金を援助する事業がほぼほぼ一般的になった。
それくらい、全国では野良犬や野良猫が、街中を闊歩しているのだ。
その影響で色々と被害を被っている人間も多くなり、もはや『動物だけの問題』とは言えない状況になっている。
かつおに引き取られる彼自身も、ひょっとしたら『元・飼い猫』だったか、彼の母猫が『元・飼い猫』だったのかもしれない。
今となっては、もう確かめる術はないものの、彼のように、路上でその日暮らしをしながら生きる猫を増やさない為にも、『去勢手術』は必要なのだ。
もちろん、手術の有無は家庭や事情によって違う。
かつおは去勢手術を望んでいるが、引き取り主によっては、『子猫』を産んでほしい・・・と願う人もいる。
何故かつおが手術を望んでいるのか・・・というと、やはりこれ以上、不幸になる猫を増やしたくないからである。
『手術をする=幸せになれる』とも限らない、それこそ飼い主次第。
だが、『無責任な飼い主』によって、増えに増えてしまった子猫は一体どうなってしまうのかは・・・近年ニュースにも取り上げられている。
彼は無類の猫好きであるが故に、そうゆうニュースにも目を向けて、真剣に悩んでいるのだ。
『人間にとっての幸せ』と『動物にとっての幸せ』は違うものの、汚くて臭い家で、親なのか兄弟姉妹なのかも分からない大勢の猫と団子状態で生きているのが幸せなのか・・・を考えれば、少なくともかつおは、その猫達に対して『可哀想』という感情を抱いてしまう。
その『可哀想』という感情自体も、ただ単に人間が抱く『一方的なエゴ』なのかもしれない。それはかつおも重々承知している。
何故なら動物と人間は、言葉を交わす事もできなければ、テレパシーで意思疎通ができるわけでもない。互いに、ほぼ一方的な思いのまま動いているのだ。
ただ、自分の活動をきっかけに、多くの猫達が人間と幸せな時間を過ごしてくれるのなら、かつおはそれ以上を望む事はない。
だからこそ、彼の手術が無事成功したのなら、後は何も望まない。そこから先は、かつお自身の本領発揮である。
かつおは彼の避妊手術当日、わざわざ動物病院まで出向き、ケージの中で震える彼を、両手で優しく包み込んだ。
そして、精一杯のエールを送る。
「手術が終わって、君の体調が元に戻ったら、一緒にお祝いしようね!
その時は君が食べた事がない、ゴージャスななご飯を用意してあげる!
プレゼントもね、色々考えてるんだ。君は運動神経がいいから、家に慣れたら、一緒に遊ぼ
う!」
彼自身、『去勢手術』が一体どうゆうものなのか分からないものの、自分を見る人間達の目線が、いつもとは違う事に気づいていた。
いつもは『優しい気持ち』が伝わってくるのに、その日に限って『怖い気持ち』が伝わってくる。
だがその『怖い気持ち』の中に、『応援する気持ち』も混ざっており、嫌な気分にはならなかった。
そして、保護された翌日に大暴れした動物病院の院長は、彼の成長ぶりに驚いていた。
だが彼を引き取る里親の名前を聞いた瞬間に、「あぁー・・・」と、納得した表情を見せる。動物病院の界隈でも、かつおは人気なのだ。
動物病院に対しての寄附も行っているかつおだが、委員長にはしっかり頭を下げ、「ウチの子をよろしくお願いします!!」と、待合室に響く程の声量で頼み込んでいた。
そんな彼にお願いされては、院長としても頑張るしかない。
彼はケージの中で震えながらも、動物病院を出るまでの間、ずっと彼に向かって手を振っていたかつおを見て、彼も覚悟を決めた。
まだ何をされるのか全然分からないが、かつおの元に行く為に、これが『最後の試練』と思い、ゴクリと息をのむ。
そして、かつおは彼を見送った後、お迎えする日に作る『猫用料理』の材料を買う為、キャットフード等が充実しているホームセンターへ行く。
かつおはこの地域のホームセンターは一通り回っており、何処にどんなキャットフードがあるのか、値段はどれくらいなのか、種類はどれ程充実しているのか・・・等も、頭の中にしっかり入っている。
また、彼の動画を宣伝するSNSには、既に近々新しい保護猫を迎える動画の反響が届いており、
「次の子はどんな子かな?」「楽しみ!」
「かつおさんの飼い猫になれるなんて、前世でどんな徳を積んだんだ・・・?!」
という、ちょっぴりふざけたメッセージも来ており、彼がかつおの家に来るのを心待ちにしているのは、飼い主となるかつおだけではないのだ。
かつおは車を走らせ、若干遠いものの、キャットフードやおやつの種類が豊富なホームセンターへと行き、またフードを被り、マスクをつけて、ホームセンターの中へと消えていく。
だが彼は、店内でウロチョロしながら、「アレもいいかなー コレもいいかなー」と、悩んだりはしない。買う物だけをチャチャっと買って会計を済ませ、足早に車まで戻って来る。
彼の持ってきた『二枚のエコバッグ』の中は、猫用の餌やおやつでいっぱいになった。




