百二ニャン 真夏のお掃除
(お姉ちゃーん・・・もう病院終わったよー・・・)
病院から帰り、しっかりご褒美を受け取ると、ネネはまたキャットタワーの巣に引きこもってしまう。
これもいつもの事、しばらく経てば普通に出てくる。かつおはその間に、使ったケースの掃除。
その日もだいぶ暑かったが、天気がいいので外で水洗いする事に。
ケースはヤマブキとネネで共同、レイワとさくらで共同なので、計3つを綺麗にする。
リフォームする前からある庭用の水道とホースを使い、解体されたケースに水をかけて洗う。
昔は庭園に水を撒く専用の水道だったのだが、リフォームする前はサビで詰まって水が赤茶色だった。
かつお自身も、「ここはそんなに使わないだろうなー」と思っていたのだが、猫グッズを洗うのに、意外と使い勝手が良かったのだ。
かつお家で使われている猫用キャリーケースは、全部プラスチック系な為、水をぶっかけても全然大丈夫。
ケースにも色々と種類があり、かつおもよく通販サイトで見ては目移りしてしまう。
だが、やはり猫達が使っているお気に入りを率先して使ってあげたかった。
『壊れるまで使う』 それがかつおのポリシー。
「あぁー・・・あっちぃー・・・
帽子被ってきてよかったー・・・」
一応家から出る前に水分補給はしてある、帽子もバッチリ。それでも、暑い事に変わりない。
ホースから出た冷水でさえも、一瞬にして沸騰してしまうんじゃないか・・・と思える程。
一瞬外に出ただけで、体が悲鳴を上げる。
帽子の中に隠れている頭でさえも蒸し暑くなり、ただただ無心でケースを洗うかつお。
かつお家の庭には、日光を遮れるような物は何処にもない。だから、日光が直接全身を襲う。
痛いくらい暑い日差しの元にさらされるのは、引きこもりがちのかつおにとっては『苦行』である。
しかし、お風呂の中で綺麗にするよりも、外で綺麗にした方が楽なのだ。
何故なら、乾かすのに時間がかからないから。日光に晒されれば、たった半日で乾きそうだ。
夏は暑いのも憂鬱だが、『湿気』も憂鬱。
特に風呂場の湿気は溜まりやすく、風呂場にタオルをしばらく放置しただけで、臭いがすごい事になる。
猫達を守ってくれる筈のケースがカビ臭くなったら、猫達が一層病院を嫌ってしまう。
シャー・・・
(ん? 何々??
あの透明な・・・あの・・・アレ?!)
(んんー? まんぷくー、窓際は暑いぞー
・・・あぁ、かつおさんが水を出しているのか。)
(えぇえ?! アレって水なのぉ?!)
キャットタワーでのんびりしていたヤマブキとまんぷく。
まんぷくは、窓辺に目を向けた時、ホースから勢いよく出ている水に興味が向き、キャットタワーから降りて窓辺へ駆け寄る。
そんなまんぷくに、外から気づいたかつおは、ホースから出る水を窓に当ててみると、猫達はびっくりして固まってしまう。
(え・・・・・なになになになになに?!!)と言わんばかりの表情に、思わずかつおも笑ってしまう。
窓の汚れ取りも兼ねて、かつおは窓全体に水をかける。その光景は、まるで『水のカーテン』である。
次々と流れ落ちてくる水の波に、ヤマブキやまんぷく以外の猫達も、窓を叩かずにはいられない。
水で暑さが和らいだ窓を、無我夢中で叩くさくらと、頭を上下に動かしながらカーテンを眺めるレイワとネネ。
(レイワ、こうゆう景色って、雨がすごい降った時にも見ない?)
(あぁー、見る見る!
でも僕は、雨の時に見られる景色より、今の景色の方がいいな。雷も鳴らないし。)
そんな2匹の話に首を突っ込んできたのは、珍しくヤマブキ。
ヤマブキは基本、他の猫が会話をしている最中、入り込んでくる事はまずない。
会話を邪魔しない為の、ヤマブキなりの配慮である。
だが、ヤマブキはふと思い出したのだ。去年、大雨であちこちに雷の轟音が鳴り響いていた時の事を。
(あの時、レイワすごかったもんな。一日中毛を逆立てて、窓に向かってシャーシャー言いっぱ
なしでさ。)
(おっ・・・覚えてなくていいからぁ!!!)
窓の内側でまた揉めているヤマブキとレイワ。その二人が、水のカーテン越しでもよく見える。
いつも通りの風景も、『視点』と『風景』を変えるだけで、新鮮な光景になる。
もう窓はある程度綺麗になっているにも関わらず、かつおは窓に水を当て続ける。見入っているのだ。
そのまま窓から地面に水が落ちる事で、かつお自身でも気づかないうちに、周囲が涼しくなっている。
一連の行動が、いつの間にか『打ち水』になっていたのだ。
少し生ぬるいが、新鮮な風が汗で濡れたかつおの頬を撫で、風の音と同時に聞こえてくる蝉の鳴き声が、いつもよりも風情に感じられる。
打ち水に喜んだ鳥達が周囲に集まり、いつの間にか庭が賑やかになった。
「ふふふっ、たまには外に出るのもいいかもな。」
そうこうしている間に、綺麗にしたケースはすっかり乾いていた。
でも、かつおはそれに全く気づかず、そのまま家の中へと戻ってしまう。
かつおが置きっぱなしのケースに気づいたのは、もう日がすっかり沈んだ真夜中だったとか。




