その頃 翼の家では・・・
「はぁー・・・
今日もネネちゃんとさくらちゃんは可愛いなぁ・・・」
自室のノートパソコンで、一人かつおの新着動画を眺めているのは、仕事終わりの晩酌に浸る翼。
部屋はそこまで綺麗・・・というわけでもなく、あちこちに壁には、ハンガーが引っかかっている状態のまま放置され、窓も若干白く澱んでいる。
あちこちに衣類が散乱して、いかにも『一人暮らしの男の部屋』という感じだった。
同じ男同士でも、かつおの場合私物が殆ど無いに等しく、家に転がっているのは、全部猫用のおもちゃ。
それにかつおは、床に物を置きっぱなしにして、猫達が悪戯をするのを防止しているのである。
大きめの段ボールならまだしも、『チュールの切れ端』でも誤飲の危険がある。
ヤマブキ達はロボット掃除機を恐れない為、年中ロボット掃除機が部屋中を駆け回り、猫達の安全と安心を守っている。
翼の家の場合、チリや埃以外の物で部屋が散らかっている上、部屋もそこまで広くない為、ロボット掃除機にとっては『魔境』である。
節約の為にソファやテレビがないだけで、まだ部屋が広く感じられる。
ニュース番組やバラエティ番組は、ほぼノートパソコンで補っている、それでもさほど困らない。
部屋の中は汚いものの、台所は割と綺麗な方である。
使い込まれたフライパンや鍋、フライ返し等もきちんと管理している様子。
お皿の数こそ少ないものの、キッチン用品はある程度揃っている。
どれもこれも、オークションサイトで買った『中古』なのだが、使い心地は悪くない。
翼は特に料理にこだわっているわけでもない為、中古で十分なのだ。
小さな冷蔵庫の中には『晩酌の材料』が詰め込まれている。
その他には、ビールや瓶入り焼酎・・・等、いかにも翼らしいラインナップ。
「・・・にしても今日はあっちーなぁー・・・」
パソコンが動いている事もあり、部屋の中はクーラーの冷気が巡回していても、ジワジワと暑さが薄い壁を伝って染み出してくる。
クーラーが設置されているだけまだマシな方ではあるのだが、何せ外と部屋を隔てる壁が薄い為、暑さを完全に遮断する事ができない。
家賃が安いのも、それが原因である。
ちなみに、翼の住んでいるアパートには、翼以外にも『3人』が住んでいるのだが、全員が近くの『工場』で働いている独身作業員。
翼はその工場とは無関係なのだが、工場の近くに翼の働いているコンビニがある為、実質3人とかつおは『社員同士』と言っても過言ではない。
工場の責任者も、よく翼のコンビニを活用している。
地方のコンビニは、住民達にとって『大きな娯楽』でもあるのだ。
社員じゃなくても入居できるのは、色々と規則が緩い地方ならでばである。
その上、『一軒家の空き家』も問題視されているが、近頃は『アパート・マンションの空き部屋』も問題視されている。
様々な手を使い空き家へ侵入して、何食わぬ顔でそこに住む人がいるのだ。
酷い場合、窓ガラスを割って侵入する輩までいるくらい。
勝手な不法滞在による修理費は、マンションやアパートの責任者が出さなくちゃいけない為、責任者が空き部屋対策に躍起になるのも頷ける。
管理人にとっては、家賃等の責任をしっかり取ってくれるなら、なるべく入居者を増やしたいのだ。
家賃は貰えるし、おかしな人間にアパートを荒らされるリスクも減る、一石二鳥である。
それに、一度『そうゆう事件』が起きてしまうと、イメージが定着して新たな入居者が来なくなってしまう。
地方のメリットは色々あるものの、デメリットの代表例は、『噂』の流れが早い事。
その上、噂に尾鰭がつく速さも早い。
一度『そうゆう噂』が経ってしまうと、なかなか消えてくれないのも地方。
だからこそ、事が起きる前に対処しないと、後で泣く羽目になる。
ドン ドン ドン
「・・・?」
翼があまりの暑さに、冷蔵庫からアイスを取り出そうとしてキッチンに向かうと、玄関のドアを叩く音が聞こえた。
かつお家の玄関にはチャイムがあるのだが、翼のアパートにはない。だが、翼は迷わずドアを開けた。
翼の元を訪ねて来る人は限られている為、そこまで不審に思わないのだ。
ドアを開けると、案の定、そこには同じアパートに住んでいる社員が、白い紙袋を持って来た。
「翼さん。
コレ、旅行のお土産です!」
紙袋の中にあったのは、旅行土産の定番、『饅頭』だった。
その饅頭の表面には、可愛らしい猫のイラストが焼印されてある。
「実はあるサイトに紹介されていた『猫主人の温泉』に行ってみたくなっちゃって・・・
有給使って行って来たんですよぉー! いやぁー・・・良かったなぁー・・・」
「・・・『猫主人』??」
「えぇ、その温泉旅館の主人でもあり、お客さん達をもてなしてくれるのが、猫達なんですよ。
その猫達は元々野良猫だったんですけど、温泉旅館の従業員達が飼い始めて、すっかり『看板
猫』として馴染んだみたいです。」
「へぇー・・・でもなかなか良い組み合わせだよな。俺も行ってみたいけど・・・」
「後でその旅館が紹介されている動画、紹介しますよ。」




