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12  作者: 倉谷 梟帥
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11/13

5-(3)

 ストーンヘンジのビジターセンターは、予想通り観光客でいっぱいだ。二人はストーンヘンジに行く事も、ビジターセンターでランチにする事も諦(あきら)めて、ダーリントン・ウォールズの駐車場に戻(もど)って、近くの草地(くさち)でランチにする。注目のサンドイッチは、パンの間に茹(ゆ)でたアスパラとサラミが軽く味付けされて挟(はさ)まっている。サンドイッチ以外には、大きめのバジル入りソーセージが添(そ)えられ、沢山(たくさん)のレタスサラダにアボカドのスライス。どれも、素材そのものの味と、ドレッシング、スパイスでおいしく食べられる。

「おいしい。」

 半分は作ってくれたイナンナへの感謝の気持ち、半分は、本当にそう感じたから。

「サラダにもバジルがちょっと入っているけど、大丈夫?」

「ああ、平気。同じ香草(こうそう)でも、セロリは苦手(にがて)。でも、バジルなら何でもない。」

「そう、良かった。…なんで、バジルは大丈夫なのに、セロリは駄目(だめ)なの?」

「え?なんでだろう…。匂いかな?うーん、セロリの食物繊維(しょくもつせんい)の塊(かたまり)みたいな感じが嫌(いや)なのかも。」

「ふーん、微妙(びみょう)な違いが気になるのね。それって、日本人だから?日本人って、味にうるさいんでしょ?」

「どうかな。そういう人もいるだろうけど、みんながみんなと言う訳(わけ)じゃない。逆の視点から、イギリスだって色んな人が居るだろ?兎(と)に角(かく)、腹が一杯になれば良いと考えている人ばかりじゃない筈(はず)だ。」

「どうかしら。イギリスの料理が改善されていっている様(よう)には思えないから、みんな、今のままで充分満足って思ってるのかも。」

「ナンは?」

 イナンナはちょっと顔をしかめる。

「味の改善よりも、ヴィーガンに配慮(はいりょ)する事ばかりに熱心な現状には反対。」

「あ~、コーヒーショップまでそうだよね。」

 二人は、ケヴィン捜索(そうさく)の事を忘れてランチを楽しんだ。だが、食事が終わり、視線を風景に向ければ、近くにウッドヘンジが見える。その光景が、嫌(いや)でも日向(ひゅうが)を本来の目的に引き戻(もど)す。

「ナンは、フィンがこの地に来て、何かを手にしたから失踪(しっそう)したと思うかい?」

 日向(ひゅうが)はウッドヘンジを眺(なが)めている。

「いいえ。」

 イナンナも視線を同じ景色に向けたまま、首を振る。

「でも、フィンはストーンヘンジに12を示す遺構(いこう)が見付からない事に拘(こだわ)っていた。あのノートの最後もそれに関する匂わせで終わっている。」

「ここに12を示す物は無い。最初から無いの。それに拘(こだわ)っているのはフィンの間違い。ストーンヘンジにアベニューから入ると、正面は冬至(とうじ)の日没の方向。農耕民族にとって、冬至は重要な日。この日を境(さかい)に太陽は復活し、新しい年の大地の稔(みの)りが約束される。この日から数えて何日後に大地を耕(たがや)せば良いか、何日後に種を蒔(ま)けば良いか、農耕民族は長い経験の中で、その知識を体得している。だから、冬至の日を知り、太陽の神に来たる季節の豊穣(ほうじょう)を祈念(きねん)する事はとても重要だった筈(はず)。きっとそのための祈(いの)りの場なのよ。冬至の祭りは、キリスト教によって、クリスマス、つまりキリストの生誕祭(せいたんさい)にすげ替えられてしまったけど、今も形を変えて残ってる。」

「随分(ずいぶん)、断定的な言い方なんだな。」

「ん?私には、古代人の声が聞こえるって言ったら信じる?」

 イナンナの目が笑っている。

「ついでにフィンの声が聞こえる様(よう)になれないか研究するかい?あれこれ手掛かりを探しているより、その方が早く解決するんじゃないか。」

「それは辞退するわ。そんな事になったら、彼の声が夜中でも構(かま)わず話し掛けて来て、眠れなくなりそう。」

 つい、日向(ひゅうが)も笑顔になる。イナンナと居られるだけで楽しい。でも、自分達は今、ケヴィンを探すのが目的だ。

「そろそろ帰ろうか。もっと考えてから行動すれば良かった。」

「そうね、ここには何も無い。」

 二人は立ち上がり、後片付(あとかたづ)けをする。

「…なあ」日向(ひゅうが)は、思い切って切り出す。「また来ないか、今日みたいに。ストーンヘンジじゃなく、フィンのためでもなく。どこか別の、こんな風(ふう)に何でもない所にさ。」

「いいわね。気の利(き)いた公園でも良いんじゃない?学園都市にも公園なら幾(いく)つもあるわ。」

 彼女が否定しなかっただけで、日向(ひゅうが)の心は満たされる。

「良いね。でも、そんな所に行ったら、知り合いの学生がいっぱい居るんじゃないか?」

「困る?」

「いや、僕は困らない。」

「公園でランチを広げる人は沢山(たくさん)居るから、恥ずかしくはない筈(はず)よ。」

 心配したのはそういう意味じゃない。

 日向(ひゅうが)はそう思ったが、それ以上は口にしない。

「今日は空振(からぶ)りだった。」レンタカーに乗り込みながら、日向(ひゅうが)は溜息(ためいき)混じりに話す。「収穫(しゅうかく)なしだ。」

 イナンナは運転席で小首(こくび)を傾(かし)げる。

「…そう?それなりに収穫はあったわ。」

「え?何か判(わか)った事が有った?」

 まあ、フィンの身に、ここで何かあった可能性は低いと実感できたのが、強(し)いて言うなら収穫だろうか…

「私にとっては、ヒューがセロリを嫌いと判った事。」

 イナンナは、素敵(すてき)な笑顔を一瞬だけ見せると、レンタカーのセルモーターを回した。



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