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ストーンヘンジのビジターセンターは、予想通り観光客でいっぱいだ。二人はストーンヘンジに行く事も、ビジターセンターでランチにする事も諦めて、ダーリントン・ウォールズの駐車場に戻って、近くの草地でランチにする。注目のサンドイッチは、パンの間に茹でたアスパラとサラミが軽く味付けされて挟まっている。サンドイッチ以外には、大きめのバジル入りソーセージが添えられ、沢山のレタスサラダにアボカドのスライス。どれも、素材そのものの味と、ドレッシング、スパイスでおいしく食べられる。
「おいしい。」
半分は作ってくれたイナンナへの感謝の気持ち、半分は、本当にそう感じたから。
「サラダにもバジルがちょっと入っているけど、大丈夫?」
「ああ、平気。同じ香草でも、セロリは苦手。でも、バジルなら何でもない。」
「そう、良かった。…なんで、バジルは大丈夫なのに、セロリは駄目なの?」
「え?なんでだろう…。匂いかな?うーん、セロリの食物繊維の塊みたいな感じが嫌なのかも。」
「ふーん、微妙な違いが気になるのね。それって、日本人だから?日本人って、味にうるさいんでしょ?」
「どうかな。そういう人もいるだろうけど、みんながみんなと言う訳じゃない。逆の視点から、イギリスだって色んな人が居るだろ?兎に角、腹が一杯になれば良いと考えている人ばかりじゃない筈だ。」
「どうかしら。イギリスの料理が改善されていっている様には思えないから、みんな、今のままで充分満足って思ってるのかも。」
「ナンは?」
イナンナはちょっと顔をしかめる。
「味の改善よりも、ヴィーガンに配慮する事ばかりに熱心な現状には反対。」
「あ~、コーヒーショップまでそうだよね。」
二人は、ケヴィン捜索の事を忘れてランチを楽しんだ。だが、食事が終わり、視線を風景に向ければ、近くにウッドヘンジが見える。その光景が、嫌でも日向を本来の目的に引き戻す。
「ナンは、フィンがこの地に来て、何かを手にしたから失踪したと思うかい?」
日向はウッドヘンジを眺めている。
「いいえ。」
イナンナも視線を同じ景色に向けたまま、首を振る。
「でも、フィンはストーンヘンジに12を示す遺構が見付からない事に拘っていた。あのノートの最後もそれに関する匂わせで終わっている。」
「ここに12を示す物は無い。最初から無いの。それに拘っているのはフィンの間違い。ストーンヘンジにアベニューから入ると、正面は冬至の日没の方向。農耕民族にとって、冬至は重要な日。この日を境に太陽は復活し、新しい年の大地の稔りが約束される。この日から数えて何日後に大地を耕せば良いか、何日後に種を蒔けば良いか、農耕民族は長い経験の中で、その知識を体得している。だから、冬至の日を知り、太陽の神に来たる季節の豊穣を祈念する事はとても重要だった筈。きっとそのための祈りの場なのよ。冬至の祭りは、キリスト教によって、クリスマス、つまりキリストの生誕祭にすげ替えられてしまったけど、今も形を変えて残ってる。」
「随分、断定的な言い方なんだな。」
「ん?私には、古代人の声が聞こえるって言ったら信じる?」
イナンナの目が笑っている。
「ついでにフィンの声が聞こえる様になれないか研究するかい?あれこれ手掛かりを探しているより、その方が早く解決するんじゃないか。」
「それは辞退するわ。そんな事になったら、彼の声が夜中でも構わず話し掛けて来て、眠れなくなりそう。」
つい、日向も笑顔になる。イナンナと居られるだけで楽しい。でも、自分達は今、ケヴィンを探すのが目的だ。
「そろそろ帰ろうか。もっと考えてから行動すれば良かった。」
「そうね、ここには何も無い。」
二人は立ち上がり、後片付けをする。
「…なあ」日向は、思い切って切り出す。「また来ないか、今日みたいに。ストーンヘンジじゃなく、フィンのためでもなく。どこか別の、こんな風に何でもない所にさ。」
「いいわね。気の利いた公園でも良いんじゃない?学園都市にも公園なら幾つもあるわ。」
彼女が否定しなかっただけで、日向の心は満たされる。
「良いね。でも、そんな所に行ったら、知り合いの学生がいっぱい居るんじゃないか?」
「困る?」
「いや、僕は困らない。」
「公園でランチを広げる人は沢山居るから、恥ずかしくはない筈よ。」
心配したのはそういう意味じゃない。
日向はそう思ったが、それ以上は口にしない。
「今日は空振りだった。」レンタカーに乗り込みながら、日向は溜息混じりに話す。「収穫なしだ。」
イナンナは運転席で小首を傾げる。
「…そう?それなりに収穫はあったわ。」
「え?何か判った事が有った?」
まあ、フィンの身に、ここで何かあった可能性は低いと実感できたのが、強いて言うなら収穫だろうか…
「私にとっては、ヒューがセロリを嫌いと判った事。」
イナンナは、素敵な笑顔を一瞬だけ見せると、レンタカーのセルモーターを回した。




