165、学校ギルド4
「太一さん」
断罪か仕置か、訪れる未来に太一はぎゅっと目をつむる。
しかし聴こえてきたのはただ一言。
「一緒に芋を掘りましょうか!」
あっけにとられる太一。
己の人生の終焉、そう思っていたのにまさかの事態に首をかしげている。
「この家で育ったのなら、掘れますよね?お芋」
「ま、まあ……」
「だったらわたくしに教えてください、ね?」
「……分かりました」
せっちゃんがずんずんと畑に向かうと、太一は大人しく着いてくる。
「ほらここ、わたくし上手く掘れなくて」
「ああ……ここは蔦をこうして引っ張って……」
私たちがやったのとは明らかに違う、魔法のようにポコポコと芋が連なって出てくる。
「まあっ、やはりとってもお上手ですね!」
「これくらい誰にだって出来ますよ」
「出来ませんよ。これはあなたがこの家に産まれ、ご両親の技を受け継いだからこそ成せることなのです」
納得がいかないのか微妙な顔をする太一。
「……昔は何も知らずに、ただ親に言われるままやってただけですよ……」
「あなたは聞き分けのいい子供だったのですか?」
「いえ、悪さばかりで」
「ならきっと農業が好きだったんですね、嫌いなら逃げてますから」
「…………」
太一が綺麗に採れた芋を見つめる。
「そういえば、確かに昔は畑仕事が楽しくて、進んでやってましたっけ……」
「なんで辞めちゃったんですか?」
「なんで?……ああそうだ、確かクラスのやつに馬鹿にされたんだ、農業なんてダサいって……」
何かと恰好を付けたがる年頃の男子にありがちな理由だ。
女子と一緒に遊ぶのはダサいとか、ああいうやつ。
「はは、今思えば下らない理由だ」
同じことを想像したのか、太一は自重気味に笑う。
その小さなプライドのせいで男の子は大切なものを失うのだ、幼馴染の女の子とか。
「あっ、大きいの発見です!」
話をしながら芋を掘っていたせっちゃんが大物を見つけ、汚れるのも気にせず豪快に掘り進めていく。
「採れましたー!」
大きいサツマイモを掲げ、誇らしげに微笑むせっちゃん。
「おお、それは大物ですね」
「ふふ、どうです?今のわたくしはダサいですか?」
日本で一番尊い血筋なのに、今は汗をかいて泥だらけ。
「ダサい」の代名詞である芋を手に持つその姿は、涙が出るほど美しかった。
「いえ……とても尊いと思います……」
眩しそうに目を細めながら太一はそう応える。
今までの下らない意地が、ポロポロと崩れ去っていく。
「そうでしょう?農業とはみんなの命を守る大切なもの、とっても尊いものです」
太一が感じたのはその尊いとは多分違うと思うが、まあ似たようなもんだろう。
「焼き芋出来たよー」
「あ、くーちゃん、それが焼き芋ですか?」
私は焼きあがった焼き芋をおばあちゃんから受け取ってきて、
二人の会話に混ざる。
「ていうかヤクザやってる方がよっぽどダサいよね」
「うぐっ……」
「このご時世ヤクザなんて生きにくいだけでしょうよ、ほら、焼き芋食べな」
この国で反社は契約が必要なサービスの殆どがお断りだ。
温泉にも入れないとか人生の半分を損している。
「……うめぇ」
「わぁ、これ甘くてすっごく美味しいですね!」
「食べなれた味なはずなのに、なんでこんなにうめぇんだ……」
泣きながら焼き芋を食べる太一。
温かくてホクホクの焼き芋が、荒んだ心を溶かしていく。
実家の味というのもあるだろうが、こいつは今まで人から奪った金で飯を食べていたんだ。
格別に美味しく感じることだろう。
「太一さん、わたくし出来ればあなたにこの味を継いで欲しいと思います」
「刹那様……でも今さら俺なんて……」
「ご両親は戻ってきて欲しそうでしたよ?」
「…………」
「無理強いはできませんが、自分の将来のことですし……」
おそらく色々と考えているのだろう。
ヤクザを抜けるという難しさ、今さらどんな顔をしてという羞恥、
そして、自分が農園を継いで上手く経営できるかどうか。
「私としてはさっさと戻ることをおススメするかな、こんな商機滅多にないし」
「え?商機?」
情に訴えて説得されるかと思ったのに、いきなり場違いなことを言われて驚く太一。
「だってさ」
私はカメラの方に目を向ける。
「もうここ、この国の姫であるせっちゃんが初めて畑仕事した聖地だよ?味もせっちゃんのお墨付きだし」
皇族の宣伝効果は下手な芸能人よりも凄まじい。
今日の放送を見た視聴者は、このサツマイモを求めて殺到することだろう。
「それは……確かに」
間近でその尊さを見た太一は深く納得する。
「そんなことないと思いますけど……?」
せっちゃんは自分がどれ程凄い存在か、まだ分かってない。
「それに太一」
「は、はい」
「あんたが足抜けして真っ当に農業やってる様子を配信したら、案外ウケると思うんだよね」
こいつの経歴はそれだけでコンテンツになる。
「『元極道、刹那様に諭され農業配信者になる!』ってテーマで配信したらどう?」
「お、俺が配信者⁉」
ついでに元同業者も受け入れていったらどうだろう。
更生先として有名になれば良い受け皿になりそうだ。
「あ、色々商品開発したりするのもありかも?農場オリジナルスイートポテトとか!こういうのがあると強いんだよね」
「な、なるほど」
「ま、先に服役したりして、分かりやすく罪を償う必要があるけどね」
そしてその後も品行方正に振る舞うことが絶対条件だ。
一度でも罪を犯すと信用が地に堕ちるのが更生系というもの、簡単なことではない。
だがせっちゃんに直接諭された今のこいつなら、やれるかもしれない。
「それ楽しそうですね!」
「でしょ?これが成功したらカッコイイよね」
何であろうと一生懸命働く人間はカッコイイものである。
「カッコイイ、か……」
太一はそう呟き、離れて様子を見ていた両親の元に向かう。
「親父、おふくろ、俺……」
「戻ってくるんか?」
コクリと頷く。
「ああ、太一……」
おばあちゃんが泣き崩れる。
「何年かかるか分からんけど……」
おじいちゃんがバシッと背中を叩く。
「行ってこい」
「ああ……!」
憑き物が落ちたような顔で太一が戻ってくる。
「刹那様」
「はい」
「ご迷惑をおかけしました、それと、ありがとうございました」
「ふふ、あなたが作ったお芋を食べるの、楽しみにしてますね」
「はい……!」
すっかり浄化された様子だ。
流石せっちゃん、伊達に魅力がバグってるわけではない。
「久遠様」
「まあ頑張ってよ、足抜け手を貸そうか?」
「い、いえ、自力でなんとかしてみせます。あ、でももしもの時は頼みます……」
最後に急に不安になったが、こうして太一は去って行った。
…………
「さて」
私は撮影班に目配せをする。
(撮った?)
(バッチシ)
えらい画が撮れてしまった。
あまりにもせっちゃんの魅力に溢れた神回である。
こんなの放送されたら大バズり確定だ。
「くーちゃん?どうかしました?」
「んーん、なんでもない。じゃ、終業の挨拶しようか」
「はい!」
何だかんだで全ての芋を掘り終え、道具の片付けも済んだ。
「刹那様……」
「この度は誠に……」
私たちが挨拶に向かうと、おじいちゃんおばあちゃんは玄関でひれ伏していた。
「や、やめてください、大したことはしていませんから!」
「いやしかし!」
「なんとお礼を言っていいか!」
譲らない老夫婦。
切りがないから口を出す。
「まあまあ今日は一応お忍び、というか一ギルド員として来てますから、最後までそう扱ってくださいよ」
「はっ、お忍び……」
「そうでしたな」
この手の時代劇に慣れている人達なら、よく心得たものだろう。
「じゃあおじいちゃんおばあちゃん、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました!お芋美味しかったです!」
「こちらこそありがとう」
「ありがとうねぇ」
「ではこれで、行こうせっちゃん」
「はい!」
スマホを操作し、業務完了のボタンをタップする。
あ、そういえばまた暴力を振るってしまったな、封印するはずだったのに。
まあ今回はノーカンだろう、明日からまた気を付けよう。
『お疲れ様でした刹那様、久遠ちゃん。初日を終えられた感想などを是非!』
「そうですねー、トラブルはあったけど楽しかったですね」
「とても良い経験になりました!わたくし農業もお野菜も大好きになりました!」
夕日に染まるあぜ道でインタビューに応える私たち。
こうして私とせっちゃんの、初めてのギルド活動は終わるのだった。
――――――――――
【ファーーーwww】
【なんだこの神回】
【完全に農業のイメージ変わった】
【実家が農業のワイ、継ぐ気なかったのに継ぐことを決意】
【こ、この方が俺たちの姫しゃま……】
【忠誠心爆上がった】
【ただでさえ尊いのに久遠ちゃんと一緒だと尊さが跳ね上がるな】
【久遠ちゃんがさり気なく刹那様を守ってる感じがまたいいよね】
【いい……】
【ギルド活動一回目からこれか、流石のトラブル体質】
【やらせじゃないよね?】
【それはないだろう、いくら久遠ちゃんが役者とは言え他は素人だ】
【最近都内のとある暴力団体が解散したって話聞いたし、これのことじゃね?】
【え?太一ってもしかして結構偉い人?】
【また世の中を良くしてしまったな久遠ちゃん。いや今回は刹那様か】
【一本背負いで心を折ってからの刹那様の慈悲は悪人に効く】
【あれが天皇と征夷大将軍ごっこかぁ】
【でもあれだとただの御隠居さまごっこだから、他にも色々なパターンがあると思われる】
【クソッ、なぜ俺は久遠ちゃんたちと同級生じゃないんだ……!】
【久遠ちゃんはともかく、刹那様は気軽にメディアに出てこれないだろうしなぁ】
【くおんちゃんねるにゲスト出演は……無理か】
【なんにせよ今後はこの二人から目が離せないな】
【だな】
【明日は焼き芋にするか】
【さっきから農場に電話かけてるけど繋がらないな】
【聖地見学できるかな?】
【あまり迷惑かけるなよ……】
…………
……
後日。
大人気チャンネル「リハビリテイト(更生)ファーム」。
その動画の中では、顔の怖い男たちが額に汗を流し真剣に畑を耕していた
元ヤクザだと言う彼らを初めは白い目で見ていた人達も、
彼らが心から反省し真面目に仕事をしている姿を見て、次第に受け入れられていく。
やがて彼らは農場オリジナルスイーツを完成させ大ヒット。
事業も大きくなり、道に迷った者達の駆け込み寺としても有名になっていった。
そんな彼らの農場スイーツは、さる高貴な方もお忍びで食べに来るほどだとか。
「おや刹那様、また来てくださったんで?」
「はい!やっぱりここのお芋は格別です!」
なんか水曜更新より木曜更新の方がやりやすい気がするので、
次回から日・木更新にします!




