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天才子役!天原久遠のオーバーワーク  作者: あすもちゃん
進撃の小学生編

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158、なまくらジョッキー

「立てノリオ!そんな様ではあのいけ好かない男に勝てんぞ!」


「は、はいぃぃぃ!」


僕の名前は鞍馬くらま紀夫。

ハンドルネームはなまくらジョッキー。

自慢じゃないけど100年に一人の逸材と呼ばれた馬の乗り手だ。


馬に乗ればどんな駄馬でも勝利へ導く奇跡のジョッキー。

栄光を手にしたことは数知れず。


そんな僕は今、


推しの幼女に殺されそうになっていた。


――――――――――――


事の始まりは3年前。

当時快進撃を続けていた僕だったが、その全てに勝っていた訳ではなかった。


騎手になれるのは一握りのエリートのみ。

当然みんな一筋縄ではいかない相手ばかりだ。


そんな中でも、特に苦戦した男がいた。


それがあぶみ健一。


同じ時期に学校を卒業し、同じ時期に騎手になった同期。

彼とは何かと競い合うことが多く、勝つこともあれば負けることもあった。

僕と彼はライバルで、友人だと思っていた。


しかし月日が流れ、

僕の方が勝率が高くなるにつれ彼の目は暗く淀んでいった。


馬には厳しい調教を課し、スタッフにはあたり散らす。

時には反則ギリギリの行為にまで手を染めるようになった。


あの日も、そうだった。


「今日もよろしくね、ノア」


「ブヒヒン!」


実家の牧場で赤ん坊の頃から育ててきた僕の愛馬、シルバーノアに跨った大勝負。

これに勝てば僕は騎手として最高の栄誉に輝く。


そして始まるレース。

隣りのレーンには健一もいた。


スタートし、トップをひた走る。

当然だ。

僕とノアのコンビには、誰も勝てはしないのだから。


勝利を確信し、最後の直線。


過去最高のトップスピード

ゴールは目前。


そんな時、

僕は何かに引っ張られて派手に宙を舞った。


追い抜いていった健一がこちらを見て、

ニヤリと笑い口を動かす。


(あ・ば・よ)


健一、なんで……?


薄れゆく意識の中、

奴の醜悪な顔が目に焼き付いて離れなかった。


結局僕は落馬して失格。

大けがを負い、意識不明の重体。


目を覚ました時には右足が動かなくなっており、

ノアは……死んでいた。


あの時巻き込まれたノアも再起不能の大けがを負い、

安楽死させられたのだ。


退院した僕は無気力になっていた。


(ノア……なんで……)


この世界にいる以上理屈は分かっている。

走れなくなった馬は次第に臓器が壊死して一生苦しむからだ。


だからといって納得している訳ではない。

自分の怪我はどうでもいい、でもノアだけは生きてて欲しかった。


もう何もする気になれない、いや、しようとしてもこの足では何もできない。


怒りはある、あいつを、健一に復讐してやりたい怒りが。

しかし競馬協会に訴えても証拠がないとの一点張り。


今やトップジョッキーとなった健一だ。

協会としてもスキャンダルは避けたいのだろう。


もういい。


疲れた。


僕はニートになった。



未練なのか自虐なのか、「なまくらジョッキー」を名乗りネットの海に浸る毎日。

幸いお金はあったのでヘルパーを雇って自堕落な生活を続けた。


そんな廃人のような僕だったが、あるきっかけで色を取り戻しつつあった。


そのきっかけとはもちろん、天原久遠ちゃん。


顔が良く、頭も良く、家柄も日本トップレベルのお嬢様。

全てをもっている幼女。


しかし彼女はそれを鼻にかけることもなく、

むしろ持てる力を惜しみなく使い自らイベントを企画したり、

事業を起こしたりしてファンを沸かせる。


そんな予想もつかない行動をする彼女に、

誰もが夢中になった。


僕もその一人として、久遠ちゃんには元気とやる気を貰っていた。


(足が動かないからなんだ。それでも働いている人は沢山いる)


勤労意欲がグングン湧いてきて、なにか家でもできる仕事を探そうか。

そう思っていた時、久遠ちゃんの「ニート動員令」が発令された。


めちゃくちゃ行きたい。

しかし現場が山で力仕事とあっては流石に無理だ。

そう思ってその時は諦めた。


だがしばらくして久遠ちゃんファンのSNSを見ていたら、

衝撃の投稿を見つけてしまった。


【久遠ちゃんの温泉に入ったら肩治りましたー( ;∀;)】


(なん、だと?)


普通ならホラ話だと流すところだがあの久遠ちゃんだ。

ファンの間では御仏の化身だとか、日本を影から守る霊能一族の末裔だとか、

人生2度目のチート転生者だとか言われてる彼女だ。


十分あり得る。


というか動画でも気軽に霊力使ってるし。


(くっ、あの時僕も応募していれば……!)


温泉が完成した時もまだ、その効果が残っているとは限らない。

千載一遇の好機を逃したことに後悔していたところ、なんと二次募集が開始された。

しかも【怪我等で働けない人も可】の文字。


僕はすぐに飛びついた。


そこからは軌跡の連続だった。


3年ぶりに足が動いた。

趣味が同じ仲間ができた。

働いたら推しが褒めてくれた。


そして、推しが馬主になった。


それを知った時僕はすぐ行動した。


久遠ちゃんは忙しい、きっと馬の世話役が必要なはずだ。

僕ほど馬のことを知っているやつはいない、必ずその役を手に入れてみせる。

もうチャンスを逃してなるものか。


僕は全国生配信中、幼女に土下座した。


そうして僕はアークの騎手という名誉ある役目を賜ったのだ。


「ぶるる……」


アーク。

久遠ちゃんが買った葦毛の馬。

よく見ると、ノアに似てるかも知れない。


「よろしくね、アーク」


さらりとした頭をそっと撫でると、アークは当然のように受け入れてくれた。

いい子だ、っていうかめっちゃいい匂い。


「じゃ、私仕事行くから、アークのトレーニングお願いね」


「わかりました」


そうして渡された久遠ちゃんのトレーニングメニューは、

僕の知る常識とはかけ離れたぶっ飛んだものだったけど。

その甲斐あって短時間でアークを十分戦える馬にまで鍛え上げることができた。


後は本番のレースに出て、経験を積ませるだけ。

あとこの訓練(無限水中走行)は公平性を欠くから封印しよう。

そう久遠ちゃんと話し合って、下見がてら競馬場に来た時、


奴と再会したのだった。



「むぅ、まさか豚一郎に温泉を使われるとは思わなかった」


「しかもあの馬、最初から体が出来上がってましたからね、アークは最初小さかったですし」


とは言え普通短時間でここまで成長するのはあり得ない。

アークには何か先天性の障害があって、温泉でそれが取り除かれたのだと思う。


「まあ嘆いていてもしょうがないね。とにかく時間がない、できることをしよう」


「はい」


そして解禁された無限水中歩行訓練。

公平性?

短期間ならセーフ!


それに施設が完成したら他の競走馬にも開放すれば公平だろう。

一頭につき生涯一週間のみとかで!

と久遠ちゃんが言うので問題はない。


今回はしっかりと鞍もつけ、僕も乗ってより負荷をかけて訓練する。


「アーク負けるなー、黒豚やろうなんてぶっ飛ばせー、お前はつよーい、お前は最強ー」


久遠ちゃんが並走しながらメガホンでアークを洗脳、もとい励ます。

気の抜けるような内容だが、これが不思議と力がみなぎってくる。

アークも心なしか脚に力が入っている。


「よーしアークはそのまま走り続けろー、ノリオ、こっちへ」


「あ、はい」


しばらくして僕は久遠ちゃんに呼ばれた。


「あの健一とか言うやつだけど、何があったの?」


「それは……」


あの最後のレースでなにがあったか、僕は語った。

推しに、ましてや幼女に言うことではないけれど、

この御仏の化身とも言える方には聞いてもらいたかった。


「なるほど……ツラかったね」


「う……僕、悔しくて……!」


年甲斐もなく泣いてしまう。

この時になって僕は初めて、本当にノアの死を受け入れたのかもしれない。

ノア……ノア……俺の相棒……。


「話を聞く限りあの健一とかいうやつ、忍者ね」


「はい?忍者?」


一気に涙が引っ込んだ。


「いるのよたまに、市井しせいに紛れ込んで悪さをするしょうもない忍者が」


ほんと迷惑しちゃうとプンプンする久遠ちゃん。


いやまって?

健一忍者なの?

でも久遠ちゃんもたまに忍者っぽい動きするし忍術も……。


うん分かった。


忍者は「いる」。


僕は納得した。


「だとするとノリオ」


「は、はい」


「あなたの修行も必要ね」


「修行ですか?」


当然、騎手としての修行ではないのだろう。


「健一がまた何か仕掛けてくる可能性は高いわ。だからノリオは最低限、それを躱せるだけ技を身に着けてもらうわ」


「……分かりました」


そうして僕は、久遠ちゃんの力の一端を知るのだった。


「ほらほら次いくわよ、ボサッとしてたら死ぬからね」


「ひぃぃッ!」


「大丈夫よ!温泉入ったら治るから!」


「ぎえぇぇぇ!」


「アークも限界を超えて走りなさい!」


「ビヒヒーン⁉」


とりあえず特訓の結果、僕とアークの絆はより深まった。


――――――――――――


『さあまもなく始まります刹那様杯、ゲートにはさっそく出走馬がスタンバイしはじめました!』


大歓声の中、僕はアーク改め「エターナルアーク」の背に乗り、ゲートに入る。


「ふん、逃げずによく来たな」


「…………」


「チッ、無視かよ」


隣りのレーンには宿敵の健一、あの時と同じ状況だ。


でも今はどうでもいい。


僕をどん底から救ってくれた最推し、久遠ちゃんのために。


このレースの、勝利を捧げる!


「ブヒヒン」


「ふ、お前も同じだったね。よし、行くよアーク!」


スターターの合図でゲートが開く。


さあ、勝負開始だ!


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