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第一章19 『アラガエ』



「――よし、ここまで来れりゃ、大丈夫、かな……」

「――――っぐあっ!?」


 そう呟いたケイは、人知を置き去りにして走り続けていたその足取りを止めて担いでいたコウタを投げ捨て、もう片方の腕に収まっていたサクラをそっと地面に降ろした。


 その表情はやっぱり死に際に見せたかすかな微笑を湛えたままで、それを確認したケイにはそれがうれしくもあり、また悲しくもあったのだった。


 そして、サクラとは対照的に雑な扱いで地面に投げ捨てたコウタに

ケイは向きなおり、すっと目を細める。


 ここまでの距離をケイが超高速で駆け抜けてきたから、その表情は幾分優れない。だが、その表情のやけに青いのは、決してその扱いだけが原因というわけでもないだろう。


 その証拠にコウタは、さっきよりももっと間近に見せつけられた親友(サクラ)の死に目を見開き、短い悲鳴を上げてサクラから目をそらした。


「――俺は、違う、なんでこんなっ――――」

「――――コウタ」


 だけど、その呟きはケイの、静かな一言でかき消される。


 それだけでコウタは、ケイに向かってその情けない表情を浮かべたまま、目線をそらすことができなくなる。そうすれば、またさっきみたいに殴りとばされるのではないかと危惧しているのだ。


「――――」


 対してケイは、その瞳の奥に感情を閉じこめたまま、氷のように凍てついた表情でコウタを見下ろし、沈黙したまま。


 しばらく二人の間を支配した静寂に、最初に耐えきれなくなったのはコウタだった。


「――――っ、なんだよっ、なんか言いたいことがあるなら言えよっ! 俺だって、こんなことに、なる、はずじゃなかったんだっ! なぁケイ、お前ならわかってくれるだろ!?」


 饒舌なコウタに対して、ケイはその言葉に眉根の一つも動かすようなそぶりを見せようとはしない。


 それがまたコウタにとっては腹立たしく、そして恐ろしかった。


「あの魔法があったらっ、サクラはちゃんと生き返ってたはずなんだよぉ! 騙されたのは俺で、騙したのはアイツらだ! これがホントのことだったら、今頃俺は――――」


 そこで、それまでバカみたいに垂れ流し続けていた言葉の濁流が、唐突に終わりを告げる。


 『今頃俺は、サクラを自分のものにできていたはずなのに』――。


 さっきまでの理性を感情に飲み込まれた自分(きょうじん)だったら、それを言ってもさしたる感傷もなかっただろう。だけれども、ここにいるのは今川幸太という一人の人間だ。


 その心には理性が伴っているし、当然恐怖心だって持ち合わせている。


 『その続きを口にしたら、どうなるかわかってるよな?』と、ケイの凪いだままの瞳の奥でくすぶる怒りがそうコウタに脅しをかけたのが、今のコウタにはひしひしと感じ取れたから。


 コウタはそのために、思わず押し黙ったのだった。


「――なぁ、コウタ」


 その声に、肩が跳ねる。


 すごく平坦で、ともすれば普段よりもずっと感情の欠落したような、ケイの声。


 だけどコウタは、その心の奥に秘めた激情を直感している。その瞳の虹彩に隠した怨嗟の声を、聞くよりも早く知っている。


「……色々、あったんだと思う。俺はまだそれを聞いてないからさ、わかんないよ」


 だからコウタには、その静かな声が天地を揺るがす怒号の前触れに思えてしかたなかった。


 冷静になって考えてみれば、そこにある事実は『自分はただ一人大事な友人を殺した人間(サツジンハン)である』ということだけだ。


 どうすれば許される。違う。許されなどしないのだ。


「……でも、これだけは言っときたいんだよ」


 殴られる。それだけで済むならまだいい。でも自分がやらかしたのは、人類が犯してはならない禁忌だ。


 なら。それに対して、超高速移動までやってのけるような超人的な力を持つケイから下される『裁き』は、一体いかほどのものなのか。


「あのな、コウタ――――」


 そして自分の頭上から直後に下されるであろう激痛を想像して、目をぎゅっと閉じて歯を食いしばり、


「――――悪いことしたら『ごめんなさい』って謝るのが、普通だろっ!?」


 そう、大喝()()が下された。


「――――――っ!?」

「殴られるって思ったか!? あぁ、本心だったら俺だって、壁でも床でもぶち抜けるこの『力』で、お前をぶっとばしてやりてぇよっ! それだけのことを、お前はやらかしてるんだっ」


 コウタがなにも言えないまま、ケイはさらに言葉を重ねる。 


「――でも、なんで俺がそうしないか、お前に分かるかっ!?」


 ケイの言葉が聴覚に叩きつけられ、その意味をまったく咀嚼できない中で完全に無防備なコウタの頭が真上から掴まれる。


(――!? 死ん、だ――――)


 このまま自分は、首を引きちぎられて死ぬのだろうか。


 首が伸びるような熱と感覚の後に、ゆっくり背骨が体から引き抜かれて、神経が引きずり出され、動かそうとした手足に力が入らず、死に際の視界に自分の体を見せつけられる光景が脳裏に浮かぶ。


 ――あぁ、首を一瞬で落としてくれた方がまだ、何倍楽なことか。


 そんなことを想うコウタの思考とは裏腹に、ケイはその首をかすかに持ち上げ、視界を強引に切り替えただけだった。


「――――サクラが、お前のことを許せっつったからだよっ!」

「――――――――――――ぇ?」


 その言葉を聞いた途端、理解、が、止まる。


 今、ケイは、なんと、言った?


「理由は分からないけどっ! これから自分は死ぬけどっ! でも、残される俺に、あいつはお前のことを許してって言ったんだよっ!」


 視界の先のサクラに、焦点が合う。


 もう冷たくなって、二度と起きあがらないサクラ。


 胸の前で手を組んだまま、目を静かに閉じたサクラ。


 ――自分が、()()()、サクラ。


 だけど、その表情には、言われようもない慈悲の色を宿した微笑が浮かんでいて。


「――――っ、…………ッぁ、」


 死にゆく間際で見せた彼女の思いやりが、今になって実感できて。


 ――そしてその表情が、生きては二度と見れないことを想って。


「ぇん……なさい……っ」


 気づけばコウタは、


「ごめんなさい――――!」


 そう、涙ながらに口を開いていた。


「――ごめん、ごめん、ごめん、…………っ!」


 口をつく度、自分の心に宿した殻が音を立てて崩れていくのを実感できる。


 サクラを手に入れたいがためにサクラを殺したことを許容してきた、自分の心を覆っていた殻が消えていく。


 その後にこぼれ落ちるのは、果てしない慚愧懺悔の念。


「ごめんっ……ごべんっ……」


 見開いたままの視界からは、すでに栓を失った感情が涙になって止めどなく溢れている。


 閉じられることのないその瞼の先に映るのは、もう開くことのない瞼を閉じたままの少女の亡骸。


 死して尚、否、殺されても尚、自分のことを許してくれると言った、その少女の姿を見て。


「ぁああっ、ぁ、っあぁぁあああ――――――!」


 コウタは生まれたての子供のように、涙ながらに泣きじゃくった。


 もう、心から溢れでる感情は言葉にならない。ひきつる喉が大気の震えを邪魔して、声を声として出させてくれない。


 でも、言葉などなく泣きじゃくるその姿だからこそ、コウタには救いがあった。


 やっと自分の本心のままに許しを請うているということを実感させるには、十分すぎるほどに純粋な姿だったのだから。



   ◆  ◆  ◆



「そう、か…………」


 冷たく暗い廊下に、二人分の足音がかすかに響く。


「――ほんと、ごめん」


 もう狂気のかけらもないような表情で、コウタがそう呟いた。


「……それでハイ分かりましたって許してやれるほど、俺も人ができてるわけじゃないけどさ」

「…………」


 落ち着いた表情のケイにそう言われ、コウタは下をうつむいて唇を噛んだ。


 自分のしたことをケイに余さず話したのはやはり間違いだったんじゃないかと考える自分が、鎌首をもたげてくる。


 でもその一方で『これで正解だ』と考える自分がいて、コウタは今その両者の狭間で自分の気持ちを決められずにいた。


 そして、周囲を予断なく警戒していたケイはそんな様子のコウタをみてから一つため息をもらし、軽く苦笑してこう告げた。


「でも、許してやれないとサクラに怒られっからなぁ。まぁ、ぼちぼち許していくよ」

「――ホントか!? ありがとな……!」


 コウタが明るい笑顔を見せたのと対照的に、ケイはどこか浮かない顔をしていた。


「ケイ……?」

「…………ぁあ、大丈夫、だ」


 自分の身を案じる親友の言葉を片手で遮り、ケイはおぼつかない足取りでまたゆっくりと歩き出す。


(チクショウっ、なんだ、これ、ぁあ、視界が、歪むっ――!)


 そう胸中で毒づいたケイは、揺らいで傾いてを繰り返す視界を改善しようと目をこすり、頭を軽く振った。


 それでもまだ、コウタの話を聞いたときからずっと感じていた視界のブレは消えてくれない。


(まだだ、まだっ、やれる――!)


 心の中ではそう叫ぶも、現実では荒い息をついたままフラフラになっているしかない自分の状況に、ケイが思わず舌打ちをかます。


 だが、少し考えても見てほしい。


 ――脱走としてあちこちを走り回されたあげく、心が壊れる寸前までいつ終わるともしれない拷問の雨にさらされ、そして親友に裏切られた結果目の前で自分の幼なじみである少女を殺され、右手に風穴をあけられ、そして使えば疲労で昏睡待った無しの『力』を行使する。


 客観的に見れば、それだけのことをしているケイがまだ平気な顔をして動けているほうがおかしいのだった。


 傷から血が失われていくせいで体が少しずつ冷えていくのを実感できるのに、その一方で体がなにか焼けるように熱い。


 使いものにならない手が重石になって右手を今にも引きちぎろうとしているけど、その感触を自分は不気味なまでに感じ取れない。


 ――そして、矛盾したその感覚はやがて現実の体の五感にまで影響を及ぼす。


「――――ッ!?」


 いよいよもって思考が混濁してきたケイの視界が、ことここに至ってついにブレた。


 何のことはない。肉体的にも精神的にも積み重ねられたあまりの疲労から、なにも無いところで転ぶということをケイが地でやってのけただけの話だ。


 どうやら前のめりに倒れているらしい自分の視界のなかで広がり迫る地面に、ケイが思わず諦観の念を抱きかけたその時。


「――――無理、すんなよ」


 その動きが、空中で不自然に停止した。


「コウ、タ……?」


 その理由を探して緩慢な動作で視界を動かしてみれば、倒れ込みかけている自分を支えるコウタの姿が入ってくる。


 自分の体調をじっと見つめて推し量ってくるような仕草を見せたコウタは、一度目を閉じてため息をついてから、ケイにこう口を開いた。


「――――背負うぞ」


 あとは、ケイの答えも待たないでケイの体をそのままその背中の上に乗っけてしまう。


 それを見てあわてたのは、他ならないケイだ。


「やめろって、コウタ、俺、自分で歩けるから――」

「どの口でそんなこと言うんだよ。もうお前、フラフラだぞ?」


 そういってゆっくりと、だがケイよりはずっと確実な足取りで歩き出すコウタは、とうていケイの言葉を聞き入れてくれるようには見えない。


 ならばもうこちらも実際にこの背中から降りてしまえ、なんて考えを持ったケイだったが、その意志に反して体は指先一本であってもぴくりとも動いてはくれない。


 どうやら一度動きを止めてしまった全身が、極度の疲労から再び動き出すことを拒否しているらしい。


 それに。


「――少しは、罪滅ぼしぐらいさせてくれ」


 こういわれてしまったら、もう反論のしようもないじゃないか。


「――分かったよ」

「やっと分かったか」


 そのことをようやく認めたケイがそう口を開くと、コウタがあきれたような口調でそう返してきた。


 それを確認したとたん、いいようもない眠気がケイに押し寄せてくる。


 全身の各パーツの電源が落とされていくように、その活動が次第に休眠する中、ケイは朦朧とした意識のままで口にした。


「コウタ。ちょっと、寝るわ。なんかあったら、起こして――」

「ぁあ。分かったから、とっとと寝とけ」


 その言葉が聞こえるか、聞こえないかのうちに。


 ケイの意識は闇に溶け、消え去っていったのだった――



   ◆  ◆  ◆



 ケイ、ほんとにごめん。俺、どうかしてたわ。


 魂魄魔法なんて曖昧なものに縛られて、サクラをすっかり手に入れた気になってた。


 ごめんな、サクラ。


 痛かったろ? わき腹ぐっさりだぜ? もう、あんなのは誰だって味わいたくないよな? 


 誓うよ。あんな悲しいこと、二度と起こさせない。


 だからさ、サクラ。


 ()()()()()()()()()()()()()、待っててよ。



   ◆  ◆  ◆



「…………あれだ」


 どこか疲労のにじむ声でそう呟いたコウタの声で、自然とケイは目を覚ました。


 背負われたままのコウタの頭越しに見る景色の先、十メートル弱先には、一本の通路が視界を横切っているようだった。


 だが、コウタはどこかの通路に身を潜めているらしく、その先の景色は満足には見ることはできないでいる。


「――――マサ……協力者? それに、ハンザも……」


 ケイが思わず呟いたとおり、今コウタが見据えている通路には十人弱の人間が配置されていたからだ。


 とりたてて何の変哲もない通路にひしめき合うのは、いずれもよく見慣れたこの施設の人間が着ている軍服姿の連中。


 その中でも見たことのある協力者とハンザがその場所を()()()()()()()居座っているため、コウタたちは今身を潜めている通路から動けないでいた。


「――ケイ。目、覚めたんだな」

「ぁあ。ぐっすりだったわ。おかげで体調もけっこう戻ってきた」


 それでコウタはようやく肩の荷が降りたように安堵した表情を見せ、ケイを地面に降ろした。


「――で、ここはなんなんだよ」


 ケイは全身をほぐし、まだどこか熱を持っているように感じる体をひねりながらそう聞いた。


 正直、人が多い以外には何の変哲もない通路にしか見えないところを目的地であるかのように振る舞うコウタが、ケイには理解できなかったのである。


「解らないのか? ここが――違うな、正確にはあの壁の()()()が例の動力区とやらなんだろ」

「…………はっ?」


 コウタのあまりにも突拍子のない答えに、思わず目を見開くケイ。


 それを見たコウタが、笑うように話を続けていく。


「あんなに人が配備されてるのに、見た感じ入り口はない。万が一にも、あそこに人を近づけたくないって意図が透けて見えるぜ」

「いや待て。待てって。だって壁だろ? なんでドアもないような場所に、動力があるんだよ。メンテナンスとかすんのに、どうやって中に入るんだって――」


 表情に驚愕の色を浮かべるケイに、コウタは「あのさぁ、ケイ」と悪戯が成功した子供のように含みのある笑い声をあげて、こう答えた。


「俺たちをこの異世界につれてきたのって、誰よ?」

「……え? そりゃ、ルージェスに決まって…………ぁ」


 その()()に気づいたケイが、自分の推測を口に出して行く。


「ルージェスの魔法は、空間をスキップして人を飛ばす……だから、おそらくそれなりに大事な部類に入るあの空間は、ルージェス以外に行き来することはできない……ってことか?」

「まぁ、多分な。だったら、あの連中がわざわざ壁を壊して進入する輩がいないか見張ってるっていう理由で納得がいく」


 そう得意げに呟いたコウタは、もう一度通路の方を見やって眉をひそめ、憎々しげに呟いた。


「だけど問題は、配置されてる連中だよな。あんなに人がいたんじゃ、落ち着いて壁を調べるなんざできっこねぇ」

「――じゃ、俺の『力』でも使うか? あいつら全部ブッ倒して、壁に穴あければいいんじゃないか」


 そう気楽に提案をしたケイを、コウタの鋭い目線が射抜く。


「――お前、その力使ってぶっ倒れたの忘れてんじゃねぇよな」

「う……」


 コウタにそう強い口調で言われ、たじろぐケイ。


 発動条件も今のところ解らない上、使用後はとんでもない疲労が押し寄せてくるあの『力』に頼るのは、今のケイから考えてもあまり得策ではないと言えた。


 だが、ケイも引いてばかりはいられない。


「……じゃぁ逆に聞くけどさ。コウタにはどんな考えがあるのさ?」

「んなもん決まってんだろ。ここであいつ等が帰るまで待つ」

「――――い、いや、あまりにも非現実的すぎるだろ」


 あまりにも自信満々とばかりに告げられた回答に、ケイも思わず一瞬対応が遅れたのだった。


「だいたい、壁だってどうやって突破するつもりだ。それこそ、あの魔法以外に出入りする方法が無かったら、そこで結局俺が壁をブン殴って壊すしかないじゃねえかよ」

「う……」


 形成逆転、今度はコウタがそう声を上げて苦しみ始める。


 だがその心はケイに無理をさせたくないという思いやりからくるものなのがケイにも分かるが故に、ケイ自身もコウタに対してあまり強い態度にでれないのだった。


 コウタはしばらくうんうんと唸りながら何かをずっと考え込んでいる様子だったが、やがて決意を秘めた顔を上げ、ケイにこう告げた。


「……じゃあ、その『力』が今、使えたら。それで手打ちだ」

「――わかった」


 そう言われたケイは、呼吸を整えて目を閉じ、心を落ち着かせる。


 発動条件などわからないが、こうしていればできるのではないかという淡い確信に基づいて、心の中で呟く。


『力を貸してくれ』


 もし反応がなければ、この方法を取ることはできない。そうすればケイたちが発見される可能性もあがり、結果的に脱出もかなわなくなる可能性が高い。


(それを避けるためだったら、俺の体ぐらい安いもんだ)


 使った後の疲労のことも、手に穴が開いていることも、ケイは全部心の奥に投げ捨ててそう心で呟く。


 そしてその願いは、幾度か聞いた声によってかなえられた。


『――わかったのです』




「できたか――?」


 全身に力が満ちている。


 閉じていた目をあけたケイは、今の自分の体をうっすらと膜のように何かが覆っている、あの感覚をまた自分が味わっていることに気がついた。


「――よし、行ける」


 まだ無事な左手を握っては開きを数回繰り返して、ケイは確信と共にそう呟いた。


「……無理はすんなよ」


 心の底から自分のことを心配してくれるコウタの言葉にケイは笑みを返し、視線を通路に移す。


 今の自分がどこまで戦えるかは、分からない。


 右手はすでに感覚が失せていて、動かすのなんてとっくのとうに困難になっている。利き手である右が使えない以上、なれない左手で戦わざるを得ないわけだが、そこはこの『力』でカバーするしかないだろう。


 視界に見えるのは、さっきと変わらない十人弱。


 何人もの部下を伴って通路を塞いでいるのは、例によってあの協力者と、それにハンザ――――


(ハンザが、いない?)


 どういうことか、ケイがさっきまで見ていた視界には写っていたはずのハンザの姿が今のケイには見えない。


 このわずか数分にも満たない時間の中で用事で離席したのならありがたいが、ケイの頭の中のアラートはさっきからうるさく鳴り響き続けている。


(くっそ、一か八か――ッ)


 その予感から逃れるように、ケイは地を蹴り。


「――いきなり魔力の塊が出現したから何事かと思えば……また会ったなぁ、()()()


 もう二度と聞きたくなかった、その声が。


 視界の奥から迫る、閃く剣先が。


 駆け出そうとしていたケイの頭上から、一気に降ってきた。

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