数字の向こう
破滅フラグを折る。
そう決意してから一年あまり。
私は、一つの重大な事実に気がついた。
(……私、ゲームのこと全然覚えてないわ)
いや。
知っていた。
知ってはいたのだ。
第一王子アレクシス。
その婚約者、エステル・グランヴェル。
学院へ入学する平民の少女。
アレクと彼女が惹かれ合い。
エステルが追い詰められ。
最後には破滅する。
そこは覚えている。
ものすごく覚えている。
何しろ、前世の私が一番心を持っていかれたところだから。
問題は。
その途中だ。
(何年の何月に、どこで、誰が、何をするのよ)
分からない。
攻略対象の顔は何人か思い出せる。
名前は怪しい。
イベントも断片的。
学院の制度?
知らない。
王国の政治情勢?
そんなもの、恋愛ゲームを遊んでいた女子高生が全部覚えているわけがない。
そもそも。
画面に出てこなかったことの方が、圧倒的に多い。
「……攻略本が欲しい」
「何の攻略でございましょう」
「ひゃっ!」
振り向くと。
セリーヌがいた。
「いつから?」
「奥様が帳面を睨みながら、十分ほど動かなくなったあたりから」
「声をかけて」
「考え事をなさっているのかと」
「してたけど!」
「では問題ございません」
ある。
私の心臓に。
◇
エステルは七歳。
学院へ入るまで、まだ何年もある。
だからといって。
その日まで娘を育てることだけに集中していればいいのか。
最近。
私はそう思わなくなっていた。
エステル自身が変わっても。
周囲が何も変わらなければ。
同じような場所へ追い込まれる可能性はある。
アレクとの関係。
王家との関係。
学院。
貴族社会。
そして。
グランヴェル家そのもの。
娘の人生は。
娘一人では完結しない。
(……だったら、私が知らなくちゃ)
ゲームの攻略情報ではなく。
今。
この世界で何が起きているのかを。
◇
「領地の報告書を?」
「ええ」
レオニスが珍しく聞き返した。
夕食後。
彼の執務室である。
「全部か?」
「全部」
「今年分?」
「できれば過去五年分」
「…………」
「何、その顔」
「いや」
レオニスは机の上の書類を見る。
「お前が領地経営に興味を持つことは歓迎する」
「でしょう?」
「だが、いきなり五年分を読む者はあまりいない」
「……そうなの?」
「普通は要約から入る」
「なるほど」
それはそうだ。
前世でだって。
テスト勉強を始める時に、教科書を一頁目から全部写す人間は効率が悪い。
「では要約を」
「用意させよう」
「それと、王都の物価」
「ああ」
「主要な商会の取引量。穀物価格の推移。領内の人口。税収。街道と橋の補修状況。学院の制度も――」
「待て」
「何?」
「何をするつもりだ」
「勉強」
「何の」
「全部」
レオニスが黙った。
何故だろう。
最近、娘にも同じことを言われた気がする。
「お前たちは親子だな」
「今、失礼なこと考えた?」
「事実を確認しただけだ」
やっぱり。
◇
それから。
私は少しずつ。
公爵夫人として今まで以上に、家の仕事へ首を突っ込むようになった。
もちろん。
これまでも何もしていなかったわけではない。
社交。
慈善。
使用人の管理。
領地から届く相談への対応。
公爵夫人には公爵夫人の仕事がある。
でも。
数字の向こうまで見ようとしたことは。
正直。
あまりなかった。
「北部の小麦価格が上がっているのね」
「昨年の長雨の影響でございます」
「こちらの村は税収が落ちている」
「橋が流され、荷の運搬に迂回が必要となったためかと」
「修理は?」
「来月より」
「それまで商人は?」
「東の街道を使用しております」
「遠回り?」
「二日ほど」
「……二日」
たった二日。
紙の上なら。
でも。
荷馬車で二日。
人を雇う。
馬に食べさせる。
宿を取る。
商品によっては傷む。
その費用は。
どこへ行く?
商品価格へ。
そして。
最後に買う人のところへ。
(……数字って、繋がってるんだ)
当たり前のことを。
私は今更。
実感し始めていた。
◇
そんなある日。
グランヴェル家と取引のある商会から、一通の報告が届いた。
「契約不履行?」
「はい」
執務室。
家令が書類を差し出す。
レオニスは王宮。
私はちょうど領地関係の書類を見ていた。
「バルト商会より運搬予定だった薬草と乾燥果実の一部が、期限までに届きませんでした」
「理由は?」
「荷を途中で下ろしたとのことです」
「下ろした?」
「はい」
意味が分からない。
「売ったの?」
「いいえ。配った、と」
「…………配った?」
ますます分からない。
報告書を読む。
バルト商会。
王都ではそれほど大きくない商会だ。
主に北西部との物流を扱っている。
今回。
グランヴェル家の依頼で運んでいた荷の一部を。
途中の町で。
勝手に使った。
契約上は。
完全な違反だ。
「何があったの?」
「街道沿いの町で火災があったそうです」
家令が答える。
「火災……」
「倉庫と民家十数棟が焼け、怪我人も出たと」
「それで薬草を?」
「はい。食料も不足していたため、乾燥果実も」
「誰の判断?」
「商会主です。本人が荷に同行していたそうです」
私はもう一度、書類を見る。
商会主。
オルフェン・バルト。
年齢。
六十一。
元王国監査官。
十年ほど前に退官。
その後、小さな商会を興した。
(元監査官が契約違反?)
どういう人なの。
「違約金は?」
「契約通りであれば、こちらです」
金額を見る。
小さくない。
商会の規模を考えれば。
かなり痛いはずだ。
「向こうは?」
「支払う、と」
「異議なし?」
「はい」
私は少し考えた。
「本人と話せる?」
「王都に戻っておりますので、可能かと」
◇
三日後。
オルフェン・バルトは。
私の想像とは少し違う男だった。
もっと。
豪快な商人を想像していたのだ。
人助けのために公爵家との契約を破る。
そんなことをする人だから。
でも。
実際に現れたのは。
灰色の髪をきっちり撫でつけ。
細い眼鏡をかけた。
痩せた老人だった。
服装も地味。
姿勢だけが妙にいい。
「お初にお目にかかります。グランヴェル公爵夫人」
「ミレーヌ・グランヴェルです」
「オルフェン・バルトと申します」
応接室。
向かい合って座る。
彼は。
言い訳をしなかった。
「契約に反したことは事実です」
「ええ」
「違約金も、契約通りお支払いいたします」
「随分あっさり認めるのですね」
「数字は嘘をつきませんので」
オルフェンは言う。
「約束した日に、約束した品を、約束した量だけ届けられなかった。そこに議論の余地はありません」
「では、何故?」
「人が死にそうだったからです」
これも。
あっさり。
「薬草を必要としている者がいた。食べるものがない者がいた。そして、私の荷馬車にはそれがあった」
「でも、それはグランヴェル家の荷です」
「承知しております」
「あなたのものではない」
「はい」
「勝手に使えば、責任を問われることも?」
「承知しておりました」
「それでも?」
「使いました」
迷いがない。
私は少し。
困ってしまった。
「……後悔は?」
「しておりません」
「違約金を払っても?」
「払います」
「商会が苦しくなっても?」
「それは困りますな」
初めて。
オルフェンが少し笑った。
「ですが、困ることと、やるべきでなかったと思うことは別です」
「…………」
変な人。
いや。
面白い人だ。
「元監査官だと伺いました」
「昔の話です」
「契約や規則には、人一倍厳しいのでは?」
「厳しいですよ」
「今回の行動と矛盾しません?」
「しません」
オルフェンは眼鏡を押し上げた。
「規則を破るなら、破った責任を負えばよい」
「…………」
「規則が気に入らないから無視することと、規則の意味を理解した上で、それでも別のものを優先し、その代償を引き受けることは違います」
私は。
何となく。
レオニスを思い出した。
王家に仕えることと。
王家の間違いに従うことは別だ。
あの人なら。
この老人をどう見るだろう。
「一つ、聞いても?」
「何でしょう」
「元監査官のあなたから見て、今回の件はどう記録されます?」
「バルト商会による契約不履行」
「それだけ?」
「公的な帳簿なら」
オルフェンは言った。
「数字は嘘をつかんよ」
先ほどより。
少し砕けた口調だった。
「嘘をつくのは、数字を並べる人間だ」
「……どういう意味です?」
「同じ数字でも、何を前に置き、何を後ろに置き、何を記さないかで、人は好きな筋書きを作れるということです」
私は黙った。
「バルト商会が契約を履行できなかった。それは事実」
「ええ」
「だが、その一行だけを見れば、我々はただの無責任な商会にも見える」
「……火災のことは数字には出ない?」
「出そうと思えば出せます」
「出さなければ?」
「消えます」
ぞくり。
何故か。
背中に。
小さな寒気が走った。
理由は分からない。
ただ。
その言葉を。
覚えておいた方がいい気がした。
◇
「違約金は、契約通りお支払いいただきます」
私が言うと。
オルフェンは頷いた。
「承知しました」
「分割で構いません」
「……よろしいので?」
「契約上、支払う責任はある。でも、あなたの商会を潰すことが目的ではありませんから」
「ありがたい」
「それから」
私は別の書類を差し出した。
オルフェンが見る。
「これは?」
「今回、火災の町で使われた物資の一覧を確認しました」
「はい」
「負傷者の救護と、被災者への食料供給に使われた分について、グランヴェル家から謝礼をお支払いします」
オルフェンが。
初めて。
明らかに目を見開いた。
「……公爵夫人」
「何でしょう」
「今、違約金を払えと仰いましたな?」
「言いました」
「その直後に金を払うと?」
「ええ」
「差し引けばよろしいのでは?」
「嫌です」
「何故」
「違う話だからです」
私は書類を指で押さえた。
「違約金は、契約を履行できなかったことへの責任です」
「……はい」
「こちらは、人を助けるためにあなた方が負ったものへの謝礼」
一拍。
「その二つは、別のお話です」
オルフェンが。
じっと私を見る。
「帳簿上は、金が出て、金が入るだけですが」
「数字の上では、そうでしょうね」
私は答えた。
「でも、その数字の向こうには、人がいるのですよ」
「…………」
沈黙。
長い。
(……何か変なこと言った?)
急に不安になる。
格好つけすぎた?
いや。
でも。
間違ってはいないはず。
オルフェンは。
やがて。
小さく笑った。
「なるほど」
「何です?」
「いや」
老人は首を振る。
「公爵夫人は、面倒な方だと思いまして」
「初対面で失礼では?」
「褒めております」
「そうは聞こえませんけれど」
「元監査官の褒め言葉は、概ねこのようなものです」
本当?
「では」
オルフェンが立ち上がる。
「違約金はきちんとお支払いしましょう」
「お願いします」
「謝礼も、ありがたく頂戴します」
「ええ」
「そして」
彼は少しだけ目を細めた。
「もし公爵夫人が、数字を見ていて何か分からなくなった時は」
「はい?」
「私に相談なさるといい」
「あなたに?」
「数字を読むことだけは、少々長くやっておりますので」
「有料?」
「初回は無料にしておきましょう」
「商売人ですね」
「今は監査官ではなく、商人ですからな」
私は笑った。
「覚えておきます」
「是非」
扉へ向かいかけ。
オルフェンは一度振り返った。
「困った時には相談したまえ」
「…………」
さっきまで公爵夫人って呼んでいたのに。
最後だけ。
まるで。
年長者が若い娘へ言うような口調だった。
「ええ」
私は答えた。
「その時は、お願いします」
◇
「ということがあったの」
その夜。
レオニスへ報告すると。
彼はしばらく黙っていた。
「何?」
「いや」
「その『いや』、今日二回目よ」
「違約金を取り」
「うん」
「謝礼を払ったのか」
「うん」
「同じ相手に」
「そう」
「同じ日に」
「そうだけど」
レオニスが眉間を押さえた。
「何よ」
「お前らしい」
「褒めてる?」
「半分は」
「残り半分は?」
「経理担当が嫌がる」
「…………」
それは。
ごめんなさい。
「でも」
レオニスは続けた。
「判断は正しい」
「本当?」
「ああ」
「良かった」
「契約違反を善行で相殺すれば、次から契約の意味が曖昧になる」
「うん」
「逆に、違約金だけを取れば、人命を優先した判断に家として何の評価も与えないことになる」
「そうなのよ」
「だから分けた」
「そう」
レオニスは頷く。
「なら、それでいい」
あっさり。
でも。
この人にそう言われると。
少し嬉しい。
「それと」
「何?」
「オルフェン・バルトは覚えておけ」
「知ってるの?」
「王宮にいた頃から、数字の不自然さを見つけることにかけては有名だった」
「へえ」
「敵も多かったがな」
「何となく分かる」
あの人。
絶対。
見つけなくていいものまで見つける。
「何故辞めたの?」
「知らん」
「レオニスでも?」
「人の過去を何でも調べているわけではない」
「それもそうね」
「必要なら聞け」
「本人に?」
「本人が話したければ話すだろう」
私は頷いた。
それでいい。
今は。
数字に強い。
少し変わった老人。
それだけで。
◇
翌日。
エステルが私の帳面を覗き込んだ。
「お母様、何を書いておりますの?」
「お勉強」
「またですか?」
「またとは何よ」
「最近、ずっと数字を見ております」
「必要なの」
「何のために?」
「…………」
答えに困った。
あなたを破滅させないため。
とは。
さすがに言えない。
「知らないことを減らすため、かしら」
「全部知るのですか?」
「無理ね」
「では、どうするのです?」
「分からないことを、分からないって分かるようにするの」
エステルが。
すごく難しい顔をした。
「……分かりませんわ」
「私も今、ちょっと分からなくなった」
「お母様」
「でもね」
私は笑う。
「何でも自分一人で分かる必要はないのよ」
「そうなのですか?」
「詳しい人に聞けばいい」
「先生みたいに?」
「そう。先生でもいいし、お父様でもいいし、セリーヌでもいい」
「セリーヌも?」
「私より美味しい紅茶を淹れるでしょう?」
「ああ」
「納得が早いわね」
「事実ですもの」
また言われた。
「だから」
私は帳面を閉じる。
「自分にできないことをできる人を、ちゃんと覚えておくの」
「何故です?」
「いつか助けてもらえるから」
「…………」
「その代わり、その人が困った時に自分ができることがあれば助ける」
エステルは考える。
「それも、公爵令嬢だからですか?」
どうやら。
先日の話が、まだ心に残っているらしい。
「いいえ」
私は首を振った。
「これは、たぶん」
少し考えて。
「人と一緒に生きるから、かな」
「…………」
「難しい?」
「少し」
「私も」
「お母様も?」
「大人だって、全部分かっているわけじゃないのよ」
エステルが目を丸くした。
「お父様も?」
「…………」
一瞬。
迷った。
「お父様も」
「本当に?」
「たぶん」
「何故たぶんなのです?」
「お父様、たまに何でも分かってそうな顔するから」
背後から。
「聞こえているぞ」
声がした。
振り返る。
レオニス。
(何故この家の人たちは気配を消すの)
「お父様」
エステルが訊く。
「お父様にも、分からないことがありますの?」
「ある」
即答だった。
「たくさん?」
「たくさんある」
「…………」
エステルが。
何故か。
少し嬉しそうにした。
「そうですの」
「何だ」
「いいえ」
「何故笑う」
「笑っておりませんわ」
「笑っている」
「お父様の気のせいです」
そう言って。
エステルは部屋を出ていった。
レオニスが私を見る。
「何を教えた」
「何も?」
「なら何故ああなった」
「完璧なお父様にも分からないことがあると知って安心したんじゃない?」
「…………」
「良かったじゃない。弱いところを見せても娘は離れないわよ」
言ってから。
私は気づいた。
アレクに。
同じことを言った。
完璧でなくても。
疲れたと言っても。
エステルは離れない。
そして。
それは。
アレクだけの話ではない。
「……ねえ、レオニス」
「何だ」
「私も、分からない時は頼っていい?」
「今さら何を言っている」
「え?」
「最初からそのつもりだ」
「…………」
ずるい。
そういうの。
さらっと言うの。
◇
その夜。
私は帳面を開いた。
破滅フラグについて書き始めたはずの帳面は。
いつの間にか。
妙なことになっていた。
『アレクシス――疲れたと言えない』
『婚約者になる前に、友達でいること』
『エステルは負けず嫌い』
『相手の努力まで否定しない』
『上に立つ=多く責任を負う』
そして。
今日。
新しい頁に。
『オルフェン・バルト』
『元王国監査官』
『数字に強い』
『性格――たぶん面倒』
少し考える。
『困った時には相談したまえ』
そこまで書いて。
笑った。
ゲームの記憶には。
こんな人はいなかった。
少なくとも。
私は覚えていない。
エステルの破滅に関係する人物でも。
攻略対象でも。
重要な登場人物でもなかったはずだ。
でも。
今日。
私はこの人と出会った。
画面の中では。
きっと描かれなかった場所で。
ゲームなら。
背景の向こう側で。
この世界の人たちは。
ずっと生きている。
働いて。
失敗して。
誰かを助けて。
契約を破って。
違約金を払って。
それでも。
明日を生きていく。
「…………」
私は。
帳面の最初の方を開いた。
『エステル、破滅』
たった一行。
前世の私が。
知っていた未来。
でも。
今なら。
少し怖くなる。
この一行の前に。
どれだけのことがあったのだろう。
どれだけの人が。
どれだけの判断をして。
どれだけの事情が重なって。
最後に。
この一行になったのだろう。
ゲームでは。
全部を見ることなんてできなかった。
画面に映ったものだけ。
物語に必要だったものだけ。
私は。
それを。
世界の全部みたいに思っていた。
「……違うわよね」
呟く。
数字の向こうに。
人がいるように。
物語の向こうにも。
人がいる。
だったら。
私は。
ゲームで知っている未来だけを見ていてはいけない。
今。
目の前にいる人を見る。
知らないことを調べる。
分からなければ。
分かる人を頼る。
それでも。
間違える時はあるだろう。
全部を救うなんて。
きっとできない。
でも。
何も知らないまま。
「あのゲームではこうだったから」と。
娘の人生を決めるより。
ずっといい。
私は帳面に。
新しく一行を書いた。
『ゲームの外を見る』
少し。
変な言葉だと思った。
でも。
今の私には。
それが一番しっくりきた。
攻略情報は。
相変わらず頼りない。
記憶も。
穴だらけ。
だったら。
仕方がない。
知らないなら。
知ればいい。
分からないなら。
聞けばいい。
足りないなら。
集めればいい。
破滅フラグが。
どこに立つのか分からないのなら。
立ってから慌てるだけではなく。
その前に。
この世界を。
少しでも広く見ておけばいい。
私はペンを置いた。
たぶん。
こういうことも。
娘を守るということなのだ。
エステルの隣に立って。
手を引くだけではない。
あの子からは見えない場所で。
道を調べ。
危ない橋を見つけ。
頼れる人を覚え。
必要なら。
先に手を打つ。
表舞台で。
エステルが自分の人生を歩けるように。
私は。
舞台裏で。
できることを増やしていく。
「……よし」
帳面を閉じる。
破滅フラグ。
いつ。
どこからでも。
かかってきなさい。
ゲームに載っていないことまで。
全部。
私が見つけて――
「奥様」
「はい!」
扉のところに。
セリーヌ。
「……また?」
「お茶でございます」
「いつから?」
「『私は、舞台裏で』あたりから」
「口に出してた!?」
「かなり」
「忘れて」
「善処いたします」
「今すぐ!」
「それは難しいかと」
私は。
机に突っ伏した。
舞台裏への道は。
どうやら。
思ったより険しい。




