表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/93

第3節 呪いの装備

星帽ポラリスと星衣リゲルが完成した翌日。


獅子の咆哮の工房前には、妙な札が掛けられていた。


『シャーロット専用装備につき、本人以外の試着・魔力通し禁止』


下にはアメリアの署名がある。


さらに小さく、帽子職人とローブ職人の筆跡でこう書き足されていた。


『高性能です』

『呪いではありません』

『使用者を選ぶだけです』


その横には、赤い線。


『勝手に追記しない』


アメリアの字だった。


札を見たガルドは、腹を抱えて笑った。


「ははっ、完全に呪いの装備扱いじゃねえか」


「呪いじゃありません」


シャーロットは頬を少し膨らませた。


今日は星帽ポラリスを被り、星衣リゲルを羽織っている。


深い紺色の帽子とローブ。袖口の銀糸。腰には星脈晶のヴェガ。


シャーロットはローブの裾を指で整えた。


「ちゃんと助けてくれる装備です」


「お前にはな」


ガルドがにやりとする。


「そこが一番おかしいんだよ」


「おかしくありません」


「いや、おかしい」


シャーロットはもう一度、頬を膨らませた。


横からアメリアが書類を持って近づいてきた。表紙には『シャーロット専用装備管理規定』と書かれている。


「じゃれ合っているところ悪いけれど、規定を作るわ」


「じゃれ合ってません」


シャーロットが小さく言う。


ガルドは笑っている。


アメリアは工房の奥へ視線を向けた。


帽子職人とローブ職人が、自分達の作品を見るようにシャーロットを眺めていた。


目が、妙に誇らしげだった。


「考えるべきなのは、あちらね」


二人の職人が同時に肩を跳ねさせる。


「で、でも、シャーロットさんには問題なく使えています」


帽子職人が言った。


「ポラリスの探知補助も安定していますし」


ローブ職人も続ける。


「リゲルの循環補助も綺麗に噛み合っています。常時防御補助も過剰には起動していません」


「性能面では文句を言っていないわ」


アメリアの声が低くなる。


「問題は、本人以外が軽い気持ちで試すと椅子に運ばれることよ」


「シャーロットさん専用なので……」


「その言葉で全部押し切らない」


二人は目を逸らした。


ちょうどその時、工房にレオンが入ってきた。手には分厚い記録書類を抱えている。


「一通り記録しました」


彼は作業台に書類を置き、眼鏡を押し上げた。


「星帽ポラリス、星衣リゲル、ともに装備としては極めて高性能。ただし、通常団員への転用は不可。本人以外の使用禁止は妥当です」


「ほらな。呪いの装備だ」


ガルドが言う。


レオンは淡々と返した。


「分類上は専用魔導装備です。呪具ではありません」


「分類上は、だろ」


「分類は重要です」


「実態は?」


レオンは少しだけ黙った。


「……使用者制限が極めて強い専用魔導装備です」


「ほぼ呪いじゃねえか」


「違います」


シャーロットが、今度は少しだけ強く言った。


ガルドとレオンがこちらを見る。


シャーロットはポラリスのつばに触れ、次にリゲルの胸元をそっと押さえた。


「ポラリスもリゲルも、私には必要です。便利です。呪いではありません」


最後だけ、少し力が入った。


ガルドは口元を緩める。


「便利な呪いか」


「呪いじゃありません」


「分かった分かった。便利な星装備な」


「はい」


シャーロットは少し満足そうに頷いた。


アメリアは書類をめくり、読み上げる。


「シャーロット専用装備は、本人、担当職人、幹部立ち会いのもとでのみ調整可能。本人以外の試着、魔力通し、機能確認は禁止」


「はい」


「ヴェガも同じ扱いにします。星脈晶のヴェガは、あなたの魔力を受ける前提で作られたワンドよ。普通の魔法使いが使えば、逆に流れを乱す可能性があるわ」


シャーロットは腰のワンドに触れた。


「はい。ヴェガも、貸しません」


「それから、あの私物のスタッフもね」


その言葉に、シャーロットの指が止まった。


部屋に置いてある私物のスタッフ。


学校時代から持っている、大切な杖。

大きな魔法を扱う時にだけ使うもので、普段はあまり人前に出していない。


ガルドがその反応に気付き、軽く笑った。


「そろそろ、シリウスもちゃんと登録した方がいいかもな」


「シリウス?」


アメリアが聞き返す。


シャーロットは少しだけ肩を揺らした。


「私物のスタッフの名前です」


「名前は初めて聞いたわ。あの大出力用のスタッフね」


「はい」


レオンのペンが止まった。


「星杖シリウス……名前付きのスタッフですか」


「名前だけじゃねえ。中身もおかしい」


「ガルドさん」


シャーロットが困った声を出す。


「おかしいって言い方は……」


「おかしいだろ。卒業制作にする予定だったのに、目立ちすぎるから提出をやめたスタッフなんて」


アメリアがゆっくりシャーロットを見た。


「その話、前に工房でも少し聞いたわね」


「えっと……提出するには、少しだけ目立つかなと」


「少し?」


ガルドが鼻で笑う。


「あれを少しで済ませるな」


シャーロットは視線を泳がせた。


帽子職人とローブ職人が、そろって目を輝かせる。


「星杖シリウス」


帽子職人が呟く。


「星脈晶のヴェガ、星帽ポラリス、星衣リゲル」


ローブ職人が指折り数えた。


「星の名を持つ装備が揃っていますね」


「偶然です」


シャーロットはすぐに言った。


ガルドもすぐに返す。


「ここまで来たら偶然じゃねえよ」


アメリアはシャーロットの姿を改めて見た。


深い紺色の帽子。

同じ色のローブ。

腰のヴェガ。

そして、部屋にある星杖シリウス。


「見た目としても統一感はあるわね」


「目立ちませんか?」


シャーロットは小さく聞いた。


ガルドがにやりとする。


「目立つな」


「困ります」


「諦めろ。ボロ布みたいなローブで目立たないよりは、ずっといい」


シャーロットは黙った。


古いローブ。歪んだ帽子。濁った魔石のワンド。


それらを身につけていた頃の自分が、ふと頭に浮かぶ。


あの時は、そういうものだと思っていた。

低評価なのだから、それでいいのだと思っていた。


今は違う。


頭に触れると、ポラリスがある。

胸元を押さえると、リゲルの布がある。

腰にはヴェガがある。


そして、部屋にはシリウスが待っている。


シャーロットは少しだけ俯き、それから顔を上げた。


「……目立つのは、まだ困ります」


「怖い、じゃなくて困るか」


ガルドが言う。


「はい。困ります」


少しだけむきになった声だった。


アメリアが小さく笑う。


レオンが書類に新しい項目を書き足す。


『シャーロット専用星装備一式。本人以外の使用禁止。調整時は担当職人および幹部立ち会い必須』


「管理名としては、“星装備一式”で登録しましょう」


「“呪いの星装備”は?」


ガルドが聞く。


「正式名称にはできません」


「ちぇっ」


「当然でしょう」


アメリアが即座に言った。


その場にいた団員の一人が、ぽつりと呟く。


「星を纏ってるみたいですね」


別の団員が小さく頷いた。


「星纏い、か」


シャーロットはその言葉に気付き、きょとんとした。


「星纏い?」


自分のことだとは、すぐには分からなかった。


帽子職人が嬉しそうに頷く。


「今のシャーロットさん、少しそう見えます」


ローブ職人も、星衣リゲルの裾を見て微笑んだ。


「名前に負けないよう、調整は丁寧に続けます」


シャーロットは慌てて首を振った。


「あの、そんな大げさなものでは……」


アメリアが肩をすくめる。


「嫌なら止めるわよ」


シャーロットは少し考えた。


星纏い。


まだ、自分には大きすぎる気がする。

けれど、嫌な響きではなかった。


彼女はポラリスのつばを直し、リゲルの裾を整えた。


「……今は、工房の中だけなら」


ガルドが吹き出した。


「許可制の二つ名かよ」


「だって、まだ恥ずかしいです」


シャーロットが小さく言うと、工房に笑いが広がった。


アメリアは帽子職人とローブ職人を見た。


「まずは試着事故をなくしなさい」


二人の職人は背筋を伸ばす。


「はい」


「試験布と試験用内布を用意します」


「報告も忘れずに」


「はい……」


レオンは書類を閉じた。


ガルドはまだ笑っている。


シャーロットは工房前の札をもう一度見た。


『シャーロット専用装備につき、本人以外の試着・魔力通し禁止』


その下の赤線まで見て、少しだけ肩をすくめる。


それから、自分の帽子のつばを押さえたまま、工房の中へ一歩入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ