第36話 左弓蓮季
メスガキが近づいて来たので俺は後ずさる。いやなんだコイツ……
「何で声が小さいことを言われなきゃならないんだよ」
「ヤダヤダ。良い歳した先輩が大人げな~い」
「俺は大人じゃないわ。モラトリアム中!」
俺がそう言って逆に前進するも彼女は楽々と後退していく。
「隼人くん。彼女を相手にするのは分が悪いわ」
『ソウダソウダ!』
うららさんとシマじろうに窘められて何とか気持ちを抑える。
「年下にここまで煽り散らかされて恥ずかしくないんですか~」
「はぁ?」
何か煽られているけどそれはそれでいい……ってそれじゃドМじゃあないか!
そのまま天秤院会長が彼女のことをかばう。
「まぁ待て待て落ち着け隼人。何も中等部にそこまで怒ることは無いだろう。蓮季もあまりオスを刺激するな何をされるか分からないんだぞ」
オスって何だオスって!汚らわしい言い方してくるなぁ。そもそも最初に触って来た人がそんなことを言うなよ!
安全圏からまた煽られる。
「アタシは左弓蓮季って言うんですけど~」
蓮季って言うのか。変な名字……今更と言えば今更だけど。
「会長この人こわーい」
蓮季はそのまま天秤院会長に抱き着く。女子同士のボディタッチなら良くあること……
いや何か凄く密着している。身体を会長の身体に擦りつけているし、会長はそれを普通に受け入れてもいる。何か手を背中にも触れているし、やっぱりセクハラ会長じゃないか!
俺が文句の一つでも言おうとすると……蓮季の背中に何か見えた。
黒くて小さいもの、どこかで付いたゴミか制服の飾りのどちらかと思ったが違うらしい。そんなものが人の背中にある訳が無い。それはゴミと言うかただの羽で……
俺の頭に男子高校生がみんな好きだろうある単語が浮かぶ。そして尻を見てみる。
「あれれ~?お兄さんアタシのお尻見てるの?キモーイ」
そこにあったのは細くて可愛らしく先の尖った尻尾……
「アジャカラモクレンテケレッツのパー!」
俺はどこかで覚えた呪文を唱えながら思いっきり手を叩く。
「ひゃあ!」
突然蓮季はうずくまった。よし!この前偶然見た落語の呪文はちゃんと効くらしい。
「もー!何するのさっ!」
「何するってこちらのセリフだ!サキュバスが学園に何の用事だよ!」
あの羽に尻尾。あれはどう考えてもサキュバスの特徴だろう。やたら挑発的なのも……
もう何でサキュバスがいるのかは話が長くなるので聞かないことにする。
「うっ……酷いよぉ。アタシがサキュバスなんて」
蓮季の一言に周囲も同調する。
「そうだぞ~!お祓いは酷いぞ!」
「蓮季たんを虐めるな!」
「そうだそうだ!」
周囲から聞こえるのが非難ばかりなことに嫌気がさしつつ天秤院会長を見てみる。すると……
「酷いのは止めてくれ。生まれ持ってサキュバスであることの何が悪いというんだ」
え?この人蓮季の正体知ってるのかよ。
驚いている隙にすぐに蓮季が復活してまた煽る。
「でも~その呪文は死神を祓う方法だからアタシには効かないんだ~」
そのまま俺に飛び掛かって来た。
「うわぁ!こうなったら仏説摩訶般若波羅蜜多心経!」
「だから般若心経も効かないって言ってるでしょ!逆によく覚えてるね凄い!」
そのまま腕を掴まれる。振り払うことはできなかった。だって彼女は身体に見合わずめちゃくちゃ力が強いらしい。これがサキュバスの筋力か……
俺はそのまま謎の空間に引きずり込まれてしまった。
「クソっ!生徒会は性徒会だったって訳か!」
「何上手いこと言ってるんですか~」
俺の目の前には黒い羽根と尻尾を出した蓮季がえっへんと立っていた。




