49話 謎の少女
休日愚太郎と特に用事もなく、二人で街を走っていた。
「おーい隼人!置いてくぞ!速く2段加速しろよ~」
愚太郎が自転車を漕ぎながら笑顔で叫ぶ。
「待てって!速すぎるだろ自転車の速度かこれ?」
まったく体力だけは異常な男なんだから……俺もペダルを踏み込む。
その時だった。
「あれ?」
前方の交差点に人だかりができている。
パトカーも止まっていて、赤色灯が静かに回転している。
「事故か?」
「どうもそうみたいだな」
俺たちは自転車を止めた。
警察官が規制線を張っている。
周囲には心配そうな顔の人々が溢れている。
「どうも子供がひき逃げされたらしいぞ」
誰かの声が聞こえた。
「え……」
思わず顔をしかめる。
詳しい様子は見えないが、救急車も来ている。
「助かるといいけどね」
「そうだな……まあ若いんだから」
あの愚太郎が珍しく真面目な声で言った。それもそうか流石にここじゃこのバカも気づくのか。
「この街にはもっと楽しいものはいっぱいあるぞ?それを堪能しないうちに死ぬなんて僕だったら地縛霊になっちゃうね」
「そっかぁ……」
その時。俺の視界の端に何かが映った。
道路脇のガードレールの近く。
十歳くらいの小さな女の子。流行ってそうな可愛らしい服に綺麗なおかっぱ。
それで事故現場をじっと見ている。
こんな場所に子供?
俺は自転車を降りた。
「お~い」
少女が振り向く。
大きな瞳だった。
「ここお巡りさんたちが作業するから邪魔になるよ」
少女は何も言わない。
「現場の中にいたら怒られるよ」
その時だった。警察官が少女の方へ歩いてきた。
「ほらやっぱり怒られる」
俺は声を掛けようとする。
だが。
警察官は少女を見ていなかった。
そのまま少女の身体を――
通り抜けた。
「……え?」
一瞬理解できなかった。
ぶつかったように見えた。
少し身体が透けていた。
警察官は何事もなく通り過ぎる。
少女も何も反応しない。
「え、おい……」
背筋が冷える。
「どうかした?」
同じく降りた愚太郎がやってくる。
「いやそこに女の子」
「え?どこに?」
愚太郎は周囲を見回した。
少女の目の前を素通りする。
「……誰もいないけど」
嫌な汗が出る。流石にこのバカでも目の前の物を見逃す訳が無いだろう。
でも少女はじっと俺を見ていた。
そして。
「ねぇお兄ちゃん」
初めて口を開いた。
「……私のこと見えるの?」
静かな声だった。
俺は答えられない。
見えている。確かに見えている。
でも。普通見えてはいけないものを見ている気がした。
少女は笑う。
「良かった。見える人がいて」
そう言って近づいてくる。
「うわっ!」
「どうした!?」
愚太郎が叫ぶ。
「女の子が!」
「だからどこにいるのさ」
愚太郎には完全に見えていないみたい。
その日の夜。俺は布団の中で考えた。
俺って霊感あったんだっけと。まぁ良く考えたら花子さんいる世界だし見えることもあるのかもしれない。
部屋の窓の外から。
「おにいちゃーん」
少女の声が聞こえてきて、俺は布団から飛び起きる羽目になるのだった。




