表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

第5話 疑いの移ろい

黒く変色した“意思を持つコンシャスブック”は、力尽きたかのように萎れた。

そして、本に書かれていた文字が宙に霧散していく。


この本は、トラップを溺愛する“トラップクリエイター”のキラリンが作ったものだ。

元々は、本タイプのミミックにするつもりだったらしいのだが、トラップに向いていなかったことで、いまは迷宮内のことを記録させているらしい。


「ダメね。 やっぱりウチの言うことを聞かない。」

「間違いなく“呪い”だな。」


俺とキラリンは、床で動かなくなった本の頁を開いた。

その中身は真っさらで、書かれていたものは全て消え失せている。


すると、その開いた頁にうっすらと文字が不気味に浮かび上がってきた。

俺とキラリンは、その浮かび上がる文字を注視する。


- 化身 -


「?」「?」

黒く変色した本の頁に浮かび上がった“化身”の2文字。

俺とキラリンは、その文字を見ながら首を傾げた。


すると、次の頁にはうっすらと絵が不気味に浮かび上がってくる。


- 蠅 -


「ハエか?」「ハエかな?」

それは、黒い羽のハエの絵であった。


今度は、本の中から羽音が聞こえ始める。

次の瞬間。


「ぢゅぢゅぢゅぢゅぢぃぢぃぢぃぃぃぃ・・・・」


本の中から唐突に巨大黒羽蠅アサシンバグが飛び出した。

巨大黒羽蠅アサシンバグは、麻痺毒で獲物を動けなくしてから卵を産み付けるキモい奴だ。


俺とキラリンは驚いて尻もちをつく。

「姉貴っ!魔獣だ!テイムしてくれ。」

とっさに姉貴サラウィルを頼る。


姉貴サラウィルは、ちらっと興味なさそうに巨大黒羽蠅アサシンバグを見た。

そして、溜息をつく。

「それは魔獣じゃなくて魔虫よ。」


えーっ!

えーっ!


巨大黒羽蠅アサシンバグは、意気揚々と俺とキラリンに襲い掛かってきた。

キモい!


ドゴン!ベチャ!


紫色フィリアの右拳が炸裂する。

ぶん殴られた巨大黒羽蠅アサシンバグは、壁にへちゃげてグロテスクな姿となった。


紫色フィリアはどこからか消毒液を取り出すと、拳をシュッシュッと消毒し始めた。

ゴーレムなのに超絶潔癖症なのが・・・紫色フィリアだ。


「ふぅ。ビビった~。助かったよ紫色フィリア。」

紫色フィリアは俺を見てほほ笑むと、シュッシュッ、シュッシュッ、シュッシュッ、シュッシュッ・・・。

いや、消毒しすぎだろ。


「!?」

俺の横で、キラリンが何かに気付いて反応した。


「どうした?」

「誰かいるっ! 私の迷宮の5階層に誰かがいる!」


迷宮主は、自分の迷宮の中の様子であれば、どこでも確認することができる。

キラリンは目の前から姿を消した。

その場所に瞬間転移したようだ。


俺はすぐに蒼色アルトに声を掛ける。

蒼色アルトっ! 俺たちをキラリンのところに連れて行ってくれっ!」

「かしこまりました。」



一方。


若きケットシーのコマゾーは、“不運の迷宮”にさっさと見切りをつけて、出口に向かって下に降りていた。

その目の前に何者かが急に現れる。


それは、ピンクのオカッパ頭の女であった。

「あんたっ!ちょっと待ちなさいよ! あんたのせいでね・・・って!?」


ピンクのオカッパ頭は何か文句を言おうとしたものの、地面に隠されていた鉄縄に足をとられて、天井に逆さで吊るされた。


その情けない姿をじっと見るコマゾー。

「何を遊んでいるのだにゃ?」

「遊んでんじゃないわよっ!ちょっ、もう!助けなさいよっ!」


ピンクのオカッパ頭が、逆さに吊られた状態でジタバタする。

コマゾーは、右足でローブごしに耳を掻いた。

そして、仕方なくピンクのオカッパ頭を助けてあげようとした。


その時。


コマゾーは、異常に強力な気配を察知して、その場を飛び退いた。


急に目の前に現れたのは6人。いや、6体か。

強すぎる・・・。

コマゾーは息をのんだ。


仮面をつけた魔獣が威嚇してきた。

勝てない・・・。

逃げなければ・・・いや、逃げることができるだろうか。


コマゾーは、慎重にその魔獣の横に見える通路の様子を窺った。

しかし、時は遅し。

もう1体の仮面をつけた魔獣が素早く動いたかと思うと、その通路は塞がれてしまう。


「ふむ。これは大ピンチだにゃ。」

コマゾーは覚悟を決めるしかなかった。



一方。


蒼色アルトの瞬間転移で、キラリンの後を追った俺たち。

その俺たちが目にしたのは、天井に逆さに吊るされているキラリンであった。


そして、目の前には若いケットシーがいる。

探究者ギルドで聞いた情報通りなら、こいつがソロA級探究者のコマゾーで間違いないはずだ。


姉貴サラウィルの合図で、檮兀トウゴツがコマゾーを威嚇する。

そして、饕餮トウテツはすぐさま退路を塞いだ。


紫色フィリアは軽やかに飛び上がると、キラリンを天井に吊るしている鉄縄を手刀で断ち切った。

落ちてくるキラリン蒼色アルトが下で抱き留める。


俺はキラリンに駆け寄った。

「大丈夫か?」

「うん。平気。」


檮兀トウゴツとコマゾーが戦闘態勢に入る。


先制攻撃はコマゾーだ。

その手に持つ杖より稲妻が迸り、檮兀トウゴツの身体を穿った。

が、檮兀トウゴツは全くダメージを受けていない様子だ。


相手がノーダメージである様子に驚くコマゾー。


「強すぎだにゃ。」


コマゾーは、魔力を一点に集中した。

どうやらそれを解き放って、範囲炸裂魔法を使おうとしているようだ。


しかし、それは叶わない。

通路を塞いでいた饕餮トウテツが、大きく息を吸い込むようにしてその魔法を飲み込んだ。


自身が放とうとした魔法が、ペロリと食べられたことに驚愕するコマゾー。


檮兀トウゴツが四肢を地につけた“獣形態”になる。

そして、目にも見えない素早い動きでコマゾーの背後をとった。


それに対して、全く反応することができなかったコマゾー。

コマゾーは、檮兀トウゴツに足で地面に押さえつけたのであった。


勝負ありだ。


「参ったにゃ。バケモンだにゃ。」

無念。という表情で悔しがるコマゾー。


俺は、押さえつけられたコマゾーに歩み寄った。

その俺を恨めしそうな顔で見上げるコマゾー。


「よくも、キラリンを危ない目に合わせてくれたな。」

「・・・・・。」


コマゾーの返答には少し間があった。


「あれは、あのオカッパ頭が勝手に引っ掛かって天井に吊るされたのにゃ。」

コマゾーは、顔だけをキラリンの方に向けた。


「へ?」

俺はキラリンを見る。


キラリンは頭の後ろに手を回して、口笛を吹くようにとぼけていやがる。


あいつ。自分が作ったトラップに引っ掛かったのか・・・。

なんて、残念な奴。


俺は咳ばらいをして話を変えた。


「んんっ! まあいい。 お前がコマゾーだな?」

「そうにゃ。早く煮るなり喰うなりすれば良いにゃ。」


「お前が“呪物所持者マレディクシオン”だということは分かっている。」

「??」


「とりあえず、俺の迷宮でゆっくりと話を聞こうか。」


俺は蒼色アルトに合図した。

蒼色アルトは全員を集めると、俺の迷宮に瞬間移動したのであった。



その場から一瞬で全員の姿は消えた。


が。


その場には、コマゾーの“影”だけが不思議と残っていた。


その影は、誰もいなくなった地面から這い出てくる。

そして、辺りを見回した。


それは、ドゥーマであった。


ドゥーマは“動くモノ”に寄生するモンスターである。

そして、寄生した母体ウゴクモノに応じて、その姿や属性を変えるのが特徴である。


このドゥーマは、過去にコマゾーに寄生しようと試みて失敗した。

コマゾーの持つ“強運”が、それを許さなかったのである。


それで仕方なく、ドゥーマはコマゾーの影に寄生したことで、シャドウドゥーマとなっていた。


コマゾーがこの場から一瞬で消えたことで、寄生していた影を失ってしまったシャドウドゥーマは焦る。

寄生する母体ウゴクモノがなければ、長時間生きることができないのだ。


シャドウドゥーマは辺りを探る。

しかし、誰もいなければ何もない。


そのシャドウドゥーマは、“運”が無かった。

それは、その頭に被った“黒い冠”のせいである。


何か寄生できるものがないかと、必死に辺りを探すシャドウドゥーマ。

しかし、母体ウゴクモノになり得るものは見当たらない。


その身体は徐々に薄れていく。

そして、その場に“黒い冠”だけを残して、消滅したのであった。

誰も気づかぬ山奥の秘境にある小説を読んで下さいまして、誠にありがとうございます。

更新頻度はまちまちですが、続けて投稿していきます。

宜しければ、ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】にポイントを入れて頂けたら感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ