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第4話 疑いの連なり

《不運の迷宮》

ここは数ある迷宮の中でも、最も人気がなく、最も寂れた迷宮である。


それもそのはず。

この迷宮で得られるものはない。

命の危険しかないのだ。


この迷宮には生物が存在しない。

それは、この迷宮に入った生物の全てが、不運にもその罠にかかって死滅するからであった。


その罠だらけの迷宮を奥に、そして上に、どんどん進む者がいた。

若きケットシー。

そう、後の大賢者コマゾー、その若き日の姿である。


コマゾーは、平然と迷宮内を軽やかに歩く。

あちらこちらで罠が発動した。

しかし、その全てがコマゾーには無意味であった。


コマゾーは妖精系-ケットシーである。

そのケットシーには、生まれ持っている“強運”がある。

コマゾーの場合、その“強運”は尋常ではなく罠にかかって怪我をするという不運とは無縁であったのだ。


20階層まで来た。

頭上から溶岩が降り注いでくる。

しかし、コマゾーには当たらない。

しかも、それが罠だとコマゾーは認識していなかった。


どうやらこの迷宮には、階層主というものが存在しないらしい。

せっかく20階層まで到達したのにも関わらず、敵の姿は全く見当たらない。


「ふむ。ここは何もないから面白くないにゃ。」

右足でローブ越しに耳を掻く。


コマゾーは帰ることにした。


それと入れ違いで、不運の迷宮に足を踏み入れた集団がいる。

俺たちだ。


蒼色アルトの瞬間移動なら一瞬でここに来れる。

俺、蒼色アルト紫色フィリア

そして、姉貴サラウィル檮兀トウゴツ饕餮トウテツだ。


俺たちは迷宮に足を踏み入れようとした。

すると、迷宮の扉がビタンッ!と閉まる。


明白あからさまな拒否だ。


それは、残念ながら姉貴サラウィルという名の“女王様”の機嫌を損ねた。

それを悟った俺たちは、そぉーっと後退る。


「あいつ。ほんと馬鹿だな。」

俺は呟いた。

この不運の迷宮の主は、俺の“妹”だ。

もちろん、女王様の妹でもある。


ドッガァーーーーーン!!!

不運の迷宮は、不運にも入口からかなり奥まで吹き飛んだ。


土煙が立ち昇るその中に女王様はズカズカと入っていく。

「ボケナスッ!出てこんかいっ!!」


・・・・・・・。


シーン。

何も音沙汰がない。


ドッゴァーーーーーン!!!

今度は、迷宮の天井から上層階に向けて吹き飛んだ。

ドガァン!ボコォン!

もうハチャメチャだ。


「ストーーーーーップ!!!!」

猛烈な勢いで駆けてきたピンクのオカッパ頭がスライディング土下座する。

あれが、超絶引き籠りの妹“キラリン”だ。

名前は輝いているのだが、どうも“根暗命”である。


「おい。さっきのはあれか?拒否ったのか?」

姉貴サラウィルは腕を組むと、片足を崩れ落ちた迷宮の岩塊にのせて鬼神の如く見下ろす。


次のキラリンの返答次第で・・・終わるなw


「ずびばぜんでじたー」

涙の噴水とともに平謝りするキラリン


それなら、最初から拒否るなよ・・・まったく。

ほっと胸を撫で下ろしたのであった。



その頃。


暗闇の中で静かに佇む影。


その影はすこぶる機嫌が良かった。

新たな“傑作”が2つ増えた。


1つは、“華やぎが舞い込む指輪”である。

この指輪は、絶世の美しさを手にすることができる特殊な道具だ。

この指輪をはめた者は、その代償として“理性”を差し出すことになる。

その代償となった理性は、“自分に恍惚感”をもたらせてくれるというものだ。


もう1つは、“隔離の欠片”だ。

それは、使用者の“死”を代償にして、対象者を世界から隔離することができる。

その隔離された相手は眠りにつき、永遠と“夢”を吸われ続けることになる。

その吸われた夢は、“自分に愉悦感”をもたらせてくれるというものだ。


「・・・素晴らしい。」

その影は長い腕を組んだ。


「早速どこかで、これを授けなければなりませんね。」


その影は、背の高い帽子を被っている。

その帽子には、なぜか怪しい目が光っていたのであった。



俺たちは、不運の迷宮の応接室にきていた。

応接室といっても来客がないこの部屋は、キラリンの試作グッズ置き場である。


紫色フィリアが棘だらけの玉を手に取った。

その棘玉には毒が塗られているようだが、アダマンタイトゴーレムの紫色フィリアには刺さりはしない。

紫色フィリアがデコピンで弾くと、その棘玉は破裂した。


蒼色アルトが奇妙に羽ばたく本を手に取った。

その本は苦しそうに藻掻いていたが、観念したように萎れた。

蒼色アルトはそれを1頁1頁捲って、興味深そうに中身を読む。


檮兀トウゴツが、典型的なトラップのトラバサミに手を触れた。

ガチャン!と大きな音をたててその手を挟んだが、檮兀トウゴツに傷がつくことはない。

檮兀トウゴツは手に絡みついたトラバサミを不思議そうに見ると、壊して捨てた。


「ちょっ、ちょっとあんた達。ウチの試作品に触らないでよ~。」

キラリンが、慌てて3人を止めに入る。


因みに饕餮トウテツは大人しくしている。

ちゃんと姉貴サラウィルの後ろで、静かに控えていた。


「ねえねえ。この狂った面子が揃って来るって何? いまから世界でも滅ぼす気?」

キラリン罠箱ミミックに腰を掛けると、俺に聞いてきた。


「いま、この迷宮に探究者が来てないか?」

「探究者? 来ないよ。ウチに来ても何もないもん。」

「本当に来てないか?ここに来ている奴がいるはずなんだが。」

「知らな~い。だって、興味ないもん。」


この“根暗命”は、本当に自分が作るトラップにしか興味がない。

いやトラップを溺愛している。

そして、ジョブは“トラップクリエイター”だ。


「どうする?姉貴?」

俺は、姉貴サラウィルを見た。


その姉貴サラウィルは、目の前にある小さな置物に興味津々だ。

全部、魔獣の形をした小さな置物である。

姉貴は姉貴で、魔獣ペットを溺愛している。

本当に姉妹でよく似てるよ。


「お姉ちゃん!それ、爆発するから気を付けてよね。」

キラリンの忠告は一足遅かった。


ボコンッ!

置物の1つが小爆発する。


もちろん、姉貴サラウィルには全くダメージはない。

だが、可愛い魔獣の置物が1つ壊れたことで、精神的にダメージを受けたようだ。


!!??

急にキラリンが驚愕の表情をした。


「どうした?」

「ちょっと黙って・・・。」


キラリンが目の前から姿を消した。

恐らく、自分の迷宮のどこかに瞬間移動したのだろう。

そしてすぐに戻って来た。


「どうした?」

「これ・・・。」

キラリンが手に持っていたのは、黒く変色したような本であった。


「これ、“意思を持つコンシャスブック”といって、ウチの傑作なの。」

「それが?」

「最初は、本タイプのミミックにするつもりだったけど、トラップに向いてなかったの。」

「それで?」

「それで、迷宮内のことや試作の記録をさせているんだけど・・・・。」


キラリンは黒く変色した本を床に置くと、蒼色アルトが読んでいる本に視線をずらした。

俺はそれを見てハッと気付く。


「まさか・・・。」

「うん。この本、私の言うことを聞かない。たぶん“呪い”で汚染されてる。」


黒く変色した“意思を持つコンシャスブック”は、ワサワサと藻掻くように地を這った。

そして、力尽きたかのように萎れると、本に書かれていた文字が宙に霧散していった。

誰も気づかぬ山奥の秘境にある小説を読んで下さいまして、誠にありがとうございます。

更新頻度はまちまちですが、続けて投稿していきます。

宜しければ、ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】にポイントを入れて頂けたら感謝です!

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