第3話 疑いの拡がり
俺の迷宮の応接間は、“魔獣の迷宮主”に占拠されていた。
銀色の長い髪に目鼻立ちの整った容姿。
スタイルも抜群で非の打ちどころがない女だ。
その性格以外は。
“魔獣の迷宮主”の女は、深々とソファで寛いでいる。
その肩、右腕、左腕、右足、左足を銅系ゴーレムがマッサージしている。
もちろん俺が作ったゴーレムだ。
基本的に迷宮内の雑用は、この銅系ゴーレムが担当している。
給仕から掃除まで何でもだ。
その“魔獣の迷宮主”の女の後ろには、2体の仮面をつけた魔獣が控えている。
檮兀と饕餮だ。
※本来のゴツにあたる漢字は、木辺+兀です。
2体とも恐ろしく強い。
その2体を従えるこの“魔獣の迷宮主”の女は、もっと強い。
きっと誰も逆らえないだろう。
もちろん、俺もだ。
だって、姉貴だもんw
俺は、そっと応接間の扉を開けて中を覗いてみた。
はあ。
やっぱり“女王様”がお越しになられておられる。
俺は、そっと応接間の扉を閉めた。
と、その時。
バゴォンッ!!
応接間の扉がぶっ壊れた。
“女王様”が魔法を使ったらしい。
俺は、渋々、中に入ることにした。
そして、ダイヤモンドで作られた一級品のテーブルを挟んで、ちょこんと“女王様”の向かい側のソファに座る。
「おっせーよ。」
「はい。すいません。」
「まず、何か言うことがあるだろうがよ。」
「はい。すいません。」
「すいませんじゃねーよ。お前、毎度毎度、いつまで寝てんだっつーの。」
「はい。すいません。」
“俺の”ゴーレムに全身マッサージされた状態で、“女王様”が睨んでくる。
本当に喰われそうだ。
壊された応接間の扉があったところから、黒色と朱色、それに白銀色が入って来た。
「姉御!ちわーっス!」
「おう!朱色か。元気か?」
「もちのろんっ!」
“女王様”と朱色は、なぜか不思議と仲が良い。
今思えば、朱色の性格は、“女王様”に影響を受けたのではないかと・・・思う。
しかし、今ここに朱色は来るべきではない。
俺は、黒色をチラッと見た。
黒色は俺の視線を感じ取ると・・・見事に逸らしやがった。
その満面の笑みを浮かべていた朱色の顔が、一瞬で悪魔の形相に変化する。
「何で、お前がここに足を踏み入れてんだよっ!!」
その言は、“女王様”の後ろに立っている檮兀に向かっていた。
どうにも昔から、朱色と檮兀は仲が悪い。
「ふん。ガキの分際で、我に話し掛けるな。」
檮兀が、いつもの如く、売られた喧嘩を買う。
またか。
俺は溜息をついた。
「あ!? 仮面ごしで、ごにょごにょ言っても聞こえねえんだよ!」
「ふん。言葉が理解出来んガキに話すことなど無い。」
朱色と檮兀が、頭を擦りつけ合いながらいがみ合う。
ドゴォンッ!!
“女王様”が、かかと落としでテーブルを割った。
あぁ・・・俺のダイヤモンドで作られた一級品のテーブルが・・・w
「うるせーよ。お前ら、外でやってこい!」
「はっ!」「うんっ!」
檮兀と朱色は、そそくさと応接間から出て行った。
これでまた俺の迷宮の“どこか”がボロボロになるのであろう。
「白銀色。悪いけど、あの2人の様子を見といてくれる?」
「可。承った。」
「もし無茶苦茶だったら、止めてあげてね。」
「不可。善処するが無理。」
守備力重視で作ったダマスカス鋼ゴーレムの白銀色が無理なら、誰も止められないだろう。
「とりあえず、迷宮の被害が最小限に留まるよう、頑張って。」
「可。承った。」
巨体の白銀色が、応接間を後にする。
俺はそれを見送ると、真っ二つに割れたダイヤモンドのテーブルを挟んで、“女王様”に向き直す。
「それで、お姉さま。今日はどのような用件で?」
俺は“揉み手”をしながら聞いた。
「“今日”じゃねーよ。こっちは前々から用があったんだよ。」
「はい。すいません。」
もう。本当に嫌です。怖いです。
姉貴は、マッサージをしていた銅系ゴーレムを退かした。
銅系ゴーレム達は、なぜか嬉しそうに応接間を出ていっているような気がする。
あの素材では、感情は持つことはないはずだけど。
「ミライ。お前、“呪物所持者”がのさばっていることを知っているか?」
「あぁ。うちの迷宮にも来たみたいだ。鉄ゴーレムの“核”が“呪い”でやられた。」
「そうか。お前のところもか。」
「姉貴のところでも何かあったのか?」
「サラウィル様、こちらを。」
後ろに立っていた饕餮が、姉貴に“魔獣の牙”を渡した。
俺は、それを見てすぐに悟った。
“呪い”で汚染されている。
「これは、うちの20階層の階層主の亡骸から抜いた牙だ。」
姉貴は、その“魔獣の牙”を優しく撫でた。
その事情はこうだ。
簡単に説明すると、“呪い”に掛かった20階層主の魔獣は、姉貴に牙を剥いたらしい。
“デモンビーストテイマー”である姉貴に牙を剥くことなど、普通はあり得ない。
“呪い”を解除することができなかった姉貴は、仕方なく“愛する魔獣”に手を掛けた。
それ以来、“呪物所持者”の情報を探っているそうだ。
「実は、その“呪物所持者”と思われる奴に心当たりがある。」
「何っ!本当か?」
「あぁ。それでさっき、探究者ギルドに行ってきた。」
「それは誰だ?」
「まだ証拠はないが、恐らくソロのA級探究者コマゾーという奴だ。」
姉貴は、饕餮を見た。
「申し訳ございません。聞き覚えのない名です。」
饕餮が恐縮しながら答える。
その時。
紫色が壊された応接間の扉から入って来た。
真っ二つに割られたテーブルを見て、一瞬目を丸くする。
そして、姉貴の姿を確認すると、すぐに納得したかのように襟元を直した。
紫色は、姉貴に礼儀正しく頭を下げて挨拶した。
そして、俺の耳元に顔を近づけて報告する。
「探究者ギルドより連絡がありまして、“例”の者の居場所が確認できたそうです。」
その頃。
俺の迷宮の58階層は、グチャグチャになっていた。
もちろん、朱色と檮兀の仕業である。
朱色は10体の分身を作っていた。
一方、檮兀は四肢を地につけた“獣形態”となっている。
その身体は“黄金に輝く虎模様”であり、長い尻尾の先には小さな竜巻のような渦が巻いている。
10体に分身した朱色は、素早い動きで檮兀を攪乱すると、業火の魔法を放った。
それに対して、檮兀は微動だにしない。
朱色が放った計10発の業火の魔法は、1つも檮兀には当たることなく、全て迷宮の壁に炸裂して爆発した。
檮兀は、相手の心をかき乱すという特殊能力を持っている。
朱色の狙いは、その尽くが外れてしまうのであった。
「きーっ!本当にあんたって面倒な奴ね!」
「お主がヘタクソなだけではないか?」
「きーっ!!」
朱色は、業火のブレスを吐き出すと、辺り一面ともに檮兀を焼き払う。
それに対して檮兀は、長い尻尾の先から豪風を巻き上げて、そのブレスを吹き飛ばした。
檮兀が、朱色の分身体の1体に体当たりを仕掛ける。
朱色はそれを軽々と躱すと、檮兀は迷宮の壁に激しく衝突してめり込んだ。
朱色は分身を解くと“腰に巻いていた鞭”を手にする。
その鞭は、もちろん朱色と同じ素材である“アダマンタイト”で出来ている。
朱色は、その鞭で激しく地面を叩いた。
それにより、迷宮の地面が割れる。
「調教してやるっ!」
檮兀は、迷宮の壁からゆっくりと身体を抜くと、その四肢の爪を光らせた。
「そんな“縄”が、我に通用すると思うか?」
そしてまた、両者が激しく衝突する。
そしてまた、俺の迷宮がボロボロになっていく。
それを見守っていた白銀色が呟く。
「不可。善処する“の”が無理。」
こうして、俺と姉貴が呼びに来るまで、この2体は好き勝手に迷宮を壊してくれたのであった。
因みにこれで、百戦百引き分けである。
誰も気づかぬ山奥の秘境にある小説を読んで下さいまして、誠にありがとうございます。
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