第23話 闘いの拡がり
「黒色…いや、黒色。 生き残っているエルフを全員救え。」
「かしこまりました。」
黒色の正式名は、ドルトンディアス・オマラティゴ・クロスタンドルス。
3段階変形するアダマンタイトゴーレムである。
普段の第1形態は、全身黒色でスーツを着たような紳士的な男形。
そこから第2形態に変化していく。
黒色…その名の意味は力強さの象徴。
忽ちその姿は、鷲の頭と翼、獅子の胴体をした漆黒の鷲獅子へと変化した。
「うおぉぉぉーーーー!!」
気迫を込めて吼えた黒色が、漆黒の翼を大きく広げる。
そして、空高く舞い上がった。
大空を飛翔する黒色の眼下には、全身を暗紫色に侵されて、その苦しみに耐えきれず生を諦めようするエルフ達の姿。
そのエルフ達に向かって、黒色は力強き声音で訴えかけた。
「エルフの民よ足掻け。しがみつけ。その苦痛に耐えてみせよ。それだけの価値が未来にはある。」
そして、黒色は覇気を放った。
その覇気は、波を打つかのようにエルフの里全体へと広がっていく。
それは希望に舵をとるエネルギー。
味方の生命力を向上させるという、第2形態に備わる特殊能力である。
その声、その力は、エルフ達の心に響いた。
根住の大群の中で、倒れ伏していたエルフが立ち上がる。
また一人。
そして、また一人と。
黒色は、その鋭き鷲の目で獲物に狙いを定めた。
その目は数多なる敵の姿だけを標準として、正確に捉えている。
「うおぉぉぉーーーー!!」
再び黒色の咆哮が轟く。
そして、無数の操弾射撃風魔法を撃ち放った。
弾雨となり地に降り注ぐ極小風弾は、次々と根住だけを撃ち抜いていく。
漆黒の鷲獅子へと変化した第2形態は、獲物を確実に捉える狩猟能力と精密さに優れた射撃能力が飛躍的に向上している。
その標的となった敵に逃げ場などない。
一方。
俺と幻鉄は、敵の吐泥と対峙していた。
友の仇。
友の無念を晴らす。
「耀く梏桎!」
俺は光魔法を放った。
それは、敵を拘束する光の鎖。
吐泥を逃がさないようにする為のものである。
俺の放った光の鎖は、吐泥の全身を何重にも縛り付けた。
これで敵は、身動き一つとることが許されなくなるはずだ。
しかし、光の鎖に縛られた吐泥は、モゾモゾと蠢くように動き出す。
「ヒヘヘヘヘ。 むぅだ。むぅだ。」
吐泥が卑しい笑い声を上げた。
そして、いとも簡単に光の鎖を引き千切ったのであった。
「!?」
俺は吃驚を隠せなかった。
まるで蜘蛛の巣を掃うかのように光魔法は覆滅させられてしまった。
「ちっ! かなり手強いようだな…。」
「奴は強いだえな。」
「あれを…確か、エビルスラッジだと言っていたよな。」
「そうだえな。」
「俺は初めて見るが、エビルスラッジは何か特殊な力があるのか?」
「いんや。エビルスラッジ自体は雑魚だえな。」
「では、なぜ強いのだ?」
「エビルスラッジは吐泥の身体のことだえな。だが、あれの強さはあれに憑依している穢れの数の多さによるものだえな。」
「憑依している穢れの数?」
「そうだえな。 それよりも、奴が仕掛けてくるだえな。」
!!
吐泥の全身が大きく膨張していく。
そして、俺を見てニヤリと笑った。
「しぃね。しぃね。しぃねぇーーーーーー!!!」
その頃。
吐泥が解き放った大量の根住。
その魔の手は、エルフの里だけに留まらず世界樹がそびえ立つ深い森全体に広がっていた。
暗緑色の波に飲み込まれて、深い森の木々は葉を散らし、草花は力なく萎れていく。
「ギャッギャッギャッ!!」
根住達が狂ったように歓喜する鳴き声で叫ぶ。
ギャッギャッギャッ……。
ギャッギャッ……。
ギャッ……。
その鳴き声は、森の中で不思議と反響していった。
木霊する鳴き声。
そして、その木霊は徐々に音を変化していく。
ギャッ……。
ギャッジャッ……。
ジャッジャッジャッ……。
それを聞いた根住達は、ピタリとその動きを止めた。
そして、本能で辺りを探りはじめる。
この森は、精霊王が統べる国。
深い森の中心に位置するのは、動く世界樹の城。
その世界樹が動いた。
大きな地鳴りと共に動き出したのである。
数多の鳥が、一斉に森から空に飛び立っていく。
そして、空に浮かぶ雲は渦を巻いていた。
その渦の中から、ゆっくりと舞い降りてきたのは巨大な蛇。
それは、七つの鎌首をもたげた巨大な蛇の精霊である。
森の中で木霊していた音が止んだ。
その静寂の中で、忽然と森の中に姿を現したのは無数の蛇。
赤紫色の蛇である。
「ギャェー!ギャェー!ギャェーー!!」
根住が威嚇する声を発する。
七首の蛇精霊は静かに地に降り立った。
そして、赤紫色の蛇たちが鎌首をもたげる。
七首の蛇精霊の目が全て光った。
それに呼応して、赤紫色の蛇は一斉に根住に襲い掛かった。
根住を飲み込む赤紫色の蛇。
赤紫色の蛇を咬み千切る根住。
森は、一気に混沌と化したのであった。
空から舞い降りた七首の蛇精霊。
俺は、その存在をこれまで見たことが無ければ、古き文献でも目にしたことはない。




