第22話 闘いの深まり
《エルフの里》
「なぜだ……。」
エルフの族長であるアルバートの頬を汗が伝う。
それは焦り。
アルバートが放った鳳凰の形をした斬撃はすでに四撃にも及んでいた。
一撃目は左耳の聴覚。
二撃目は舌の味覚。
三撃目は鼻の嗅覚。
そして、四撃目は全身の触覚。
エルフの宝剣である五感喰い。
それは魔剣である。
その魔剣に供した代償と引き換えに得た力をもってしても、敵を打ち破れるほどの致命傷を与えることが出来ないのであった。
「むぅだ、むぅだ、むぅだ、むだぁーっ!」
斬られた傷から噴き出る烈火の炎により、全身を焼かれていながらも吐泥は笑っている。
ダメージは確実に与えている。
それでも、敵を葬ることが出来ない。
触覚を失ったことで、剣を握る手の感覚は怪しくなっている。
それでも、こいつだけは。
こいつだけは道連れにしなければ、俺は死んでも死にきれない…。
五感喰に供することができる代償はあと二つ。
過去の戦いで負った傷で、アルバートは元から左目が塞がっている。
すると、残るは右目の視覚と右耳の聴覚のみとなる。
「グフッ!」
アルバートの口から血溜まりが吹き出した。
もう、自分の命は僅か…。
それをアルバートは理解していた。
「何も迷うことなどないな…。」
アルバートは、エルフの宝剣を胸元にかざして更なる願いを伝えた。
「▲%■▼&#■●×●▼!!」
- 我の五感を喰らって力を示せ -
頼む。
頼むから、俺に力を。
奴を葬る力を与えてくれ!!
その瞬間。
アルバートの視界は真っ暗になった。
敵の姿が見えずとも構わない。
そこに敵はいる。
振りかざした剣から放たれた鳳凰の斬撃。
それは、吐泥の身体を斬り裂いた。
立ち昇る烈火の炎。
「どう…だ…。」
何も見えない。
しかし、吐泥が苦しむ呻き声は、唯一残された右耳に聞こえている。
「すまない…待たせたな。」
懐かしい声が聞こえてきた。
「久しぶりだな…最後に会えて嬉しいぞ。」
アルバートは、声の聞こえた方に向かって寂しく笑顔を見せた。
一方の俺。
黒色の瞬間移動でエルフの里に来た。
そこで目にしたのは地獄絵図。
疫病に苦しみ悶えて果てていくエルフ達の姿であった。
俺の目は、アルバートの姿を捉えた。
その全身は暗紫色に侵されている。
そのアルバートが振り下ろした剣から放たれたのは、鳳凰の形をした斬撃。
俺はその斬撃の意味を知っている。
その斬撃は、敵と思われる毒々しい色をした吐泥を斬り裂いた。
そして、立ち昇った烈火の炎。
俺は、親友に歩み寄った。
「すまない…待たせたな。」
「久しぶりだな…最後に会えて嬉しいぞ。」
そう笑ったアルバートの右目の瞳は、その色が失われている。
「俺の最後の一撃だ…。どうだ? 倒せただろうか?」
そう言って、アルバートは俺に確認してきた……が、本人も分かっているのだろう。
全身を炎で焼かれている吐泥は苦しそうに蠢いている。
しかし、倒れてはいない。
「ああ。君が倒したよ。」
「そうか。すまんな、後を頼んでいいか?」
「ああ。任せてくれ。」
「あの時よりも酷い状況だろう?こんな惨劇は、エルフの歴史で起きたことがない…。」
あの時。
それは、俺とアルバートが出会うことになった偶然があった時。
過去にあった出来事である。
「そうだな。」
「目が見えなくなった俺の代わりに、里の最後を見届けてやって欲しい。」
「ああ。分かったよ。」
「すまんな。」
俺の頬には涙が流れ落ちていた。
こんな形で親友に謝られることなど、今まで考えもしたことがなかった。
「アルは…君の息子は助かったぞ。」
「そうか…。ありがとう…。」
アルバートの膝が崩れた。
その身体を黒色が受け止める。
エルフの宝剣が地面に転がった。
それを無言で拾った骨。
「後は…後は頼む…。この無念を…。」
アルバートの光を失った右目から涙が溢れ出した。
「頼んだ…。」
そして、親友の身体は力を失った。
俺は、それを強く抱きしめる。
「アルバート……。」
邪な考えが心の底に湧いた。
それは禍々しい考え。
だが、それを考えずにはいられない。
「幻鉄…。」
「なんだえな。」
「お前、ネクロマンサーだよな。」
「……意味ないだえな。」
「そうか…。そう…だよな。」
「失った命の蘇生というものは、どの世界にも存在しないだえな。」
「どの世界?」
「そうだえな。どの世界にもないだえな。」
苦しそうに蠢いていた吐泥の全身を焼いていた炎が消えていく。
そして、そこから聞こえてきたのは、卑しく笑う声。
「ヒヘヘヘヘ。 むだ、むだ、むだーーー!!」
親友を抱きかかえて蹲った状態のまま、俺は命令を出した。
「黒色…いや、黒色。 生き残っているエルフを全員救え。」
「かしこまりました。」
俺のその一言で、黒色は全てを理解した。
黒色の正式名は、ドルトンディアス・オマラティゴ・クロスタンドルス。
3段階変形するアダマンタイトゴーレムである。
普段の第1形態は、全身黒色でスーツを着たような紳士的な男形。
その姿を第2形態へと変化させていく。
「幻鉄、お前が言っていたエビルスラッジとは、あれのことで間違いないか?」
「間違いないだえな。」
「そうか…。」
「奴の正体は、あの吐泥ではないだえな。」
「正体は何だ? 教えてくれ。」
「奴は穢れ。穢れを吸って魔素に変える世界樹が失われた世界の存在だえな。」
「さっきから、お前の言っていることがよく分からんが…あれは倒せるのか?」
「我の力があれば可能だえな。」
「よし。やるぞ。」
「了解しただえな。」
俺は立ち上がった。
その横では、黒色が第2形態へと変形を終えている。
友の仇。
友の無念。
それを晴らす。




