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第24話 闘いの連なり

《漆黒の空間》


何も見えない。

何も聞こえない。

何もない。


漆黒の空間。

その中で、男は静かに目を閉じていた。


もう、どれくらいの年月が過ぎ去ったのか、思考することすら曖昧な感覚になるほど長い時をここで過ごしている。


ここは、無限の暗闇。

常軌を逸したこの環境下で、男は精神に異常をきたすことなく、すさむこともなく生を維持していた。


男の名はヴィラン。

第1位始祖のヴァンパイアである。


この漆黒の空間に、ヴィランが囚われていることを知る者はいない。

当然のこと、助けが来たことなど一度もない。


何もない。

何も起きることがないのだ。


第1位始祖であるヴィランは、隆盛を誇るヴァンパイア帝国の皇帝である。

いや、今となっては、皇帝であったという表現が正しいのであろう。


もはや、その帝国が存在しているのかも怪しい。

それを知る術がないのだから。



時は遡る。


ヴィランが皇帝として君臨していた帝国に訪れてきたのは、商人を名乗る奇妙な男であった。

手足が異常に長く、気味の悪いハットを被った男である。


その男は、ラファンと名乗った。

この漆黒の空間に、ヴィランが閉じ込められる原因となった男である。


ヴィランには2人の妹がいる。

第2位始祖のヴィランヌと第3位始祖のヴィラロア。


商人として帝国を訪れてきたラファンは、本日は挨拶に見参したと説明してきた。

その時、終始、浅ましき笑顔をヴィランヌに向けていたことを覚えている。


ラファンは、自分の懐から煌びやかな装飾がされた小さな箱を取り出すと、これを献上すると言ってきた。

小さな箱の蓋を開けて、その中身を見せてくる。


その中に入っていたのは指輪。

透明度の高い宝石で作られた不思議な指輪であった。


その指輪を見たヴィランは、特段の興味を持つことはなかった。

末妹のヴィラロアも同様である。


しかし、ヴィランヌだけは違っていた。

その指輪に魅かれていたのである。


ラファンは言った。

「これは、“華やぎが舞い込む指輪”と申します。この指輪の所持者は、絶世の美しさを手にできる特殊な力を備えた作品アーティファクトでございます。」


ヴィランヌは美しく知性的である。

それ以上の美しさは不要であろうとヴィランは思ったが、ヴィランヌの心は違っていたようだ。

必要以上に美に固執していたのである。


ヴィランヌは、献上された指輪を喜んで受け取った。

そして、それをすぐさま、自分の指にはめてみる。


その様子を見ていたラファンは、浅ましき笑みを携えたまま言った。

「お美しい貴女様には必要のないことかもしれませんが、試しにその指輪に願ってみてはどうでしょう?」


それを聞いて、ヴィランヌがラファンに問う。


「何を願うというのだ?」

「貴女様が、もっとお美しくなりたいと願うだけでございます。」


ヴィランヌは半信半疑でそれを願った。


するとその後、急にヴィランヌは笑い出した。

「素晴らしい!なんて素晴らしいことでしょう!」


上機嫌で鏡を手に取るヴィランヌ。

そして、身を悶えながら恍惚の表情をしているラファン。


それは、奇妙な光景に映った。


ヴィランの目には、ヴィランヌの外見に何らかしらの変化があったようには見られない。

それでもヴィランヌは、高らかに笑って満足しているようである。


その時から、すでにヴィランヌの理性は欠如していたのであろう。

ヴィランヌは御礼として、ラファンに貴重な贈り物をした。


“彼女の血”である。


始祖の血は、その価値を定めることができない。

その血を飲めば、ヴァンパイアとして永遠の命を授かることもできる。


ヴィランはそれを止めようとした。

しかし、ヴィランヌに懇願されたことで、仕方なしにそれを許してしまった。

それを今でも後悔している。


ラファンは、平身低頭してその血を受け取ると、宮殿を去っていった。


その翌日から、ヴィランヌの様子に明らかな変化が起きはじめる。

ヴィランヌの言動は異質を極めていた。

最初は支離滅裂、すぐに滅茶苦茶、その日のうちに“理性のない獣”と化していったのである。


ヴィランは、この原因は指輪にあると考えた。

すぐにヴィランヌの指から指輪を外そうとしたものの、その手には指輪が何処にも見当たらない。


事実、ヴィランの考えは正しかった。

ラファンが作り出す“呪いの道具マレディクシオンパーツ”は、必ず代償が伴う。


この指輪の代償は“理性”であった。

指輪に願うことにより、使用者は理性を差し出さなければならない。


ヴィランヌは、それを何度も願ったことで理性を無くしたのである。


「くそがぁぁーーーーー!!!!」


ヴィランは怒り狂った。

その咆哮により、帝国の宮殿が大きく揺らぐほどに。


高位のヴァンパイアは、“神出鬼没”という力を持っている。

それは瞬間移動の魔法に等しい力であり、自分の眷属がいる場所であれば、何処であってもその場所に瞬時に移動することが出来るものである。


ヴィランは、ヴィランヌがラファンに贈った彼女の血の気配を探った。

すぐにその気配を感じ取る。


「奴をひっ捕らえてくる。」


そう一言残して、ヴィランは一瞬で場所を移動した。

そのヴィランが目にしたのは、渦を巻くように歪んだ漆黒の闇の中に足を踏み入れたラファンの姿。


「貴様っ! 待てっ!!」


ヴィランは、その後を追った。

渦を巻くように歪んだ漆黒の闇に自ら飛び込んだのである。


しかし、気づくと、そこにはラファンの姿はなかった。

ラファンの姿が見当たらないだけではない。

何もない。


この漆黒の空間に一人取り残されたのである。


この場所から何とか脱出すべく、力の限り様々なことを試してみた。

それを何年、何十年、何百年、何千年と繰り返した。

その全てが無意味。


そして、ヴィランは遂に断念した。



時はいまに戻る。


漆黒の空間の中で、静かに目を閉じる日々。

それは今日も繰り返す。


そう、ヴィランは思っていた。

そのヴィランの前に忽然と現れたのは、誰かの気配である。


目を開けても暗闇しかない。

何も見えない。

だが、間違いなく誰かの気配がする。


「誰だっ!? 誰かいるのかっ!?」


……。


「▲#●■&%■●?」


少しの間があって、ヴィランの耳に聞こえてきたのは女性の声。

しかし、その言葉を理解することができない。


ヴィランは、言葉を返すことができなかった。


急に眩い光が、漆黒の空間を照らした。

ずっと暗闇で過ごしていたヴィランは、その輝かしい光に目が眩んでしまう。

目を細めて、何とかうっすら見ることができたのは、そばに立っている女性の姿である。


その姿を見たヴィランは驚いた。

「ヴィ…ヴィランヌ…か??」



一方。


その漆黒の空間に忽然と姿を現したのは、姉貴サラウィルである。


ラファンを相手にして、何故か全く身体が動かすことが出来なかった姉貴サラウィルは、渾敦コントンに窮地を助けられた。


女王様サラウィル・・・どうかご無事で・・・。」


渾敦コントンの最後の言葉。

悲しみの篭った声。


その仮面は真っ二つに割れた。

そこに渾敦コントンの顔はない。

渾敦コントンには、明確な顔という部位が存在しないからである。


渾敦コントンに向かって、姉貴サラウィルは必死で手を伸ばした。

しかし、それは届かない。

次の瞬間、姉貴サラウィルはここにいたのであった。


渾敦コントンを失った悲しみが、心を支配する感覚が高まってくる。

それを必死で堪えた。


暗闇で何も見えないが、そこに誰かがいる気配はする。

ラファンか?


「●×! ●×&▲■!!」


何かよく分からん言葉が聞こえてきた。

その声はラファンとは違う。

では誰だ?


「お前は奴の仲間か?」


姉貴サラウィルは声の主に尋ねた。

しかし、相手から言葉は返ってこない。


少し苛立った姉貴サラウィルは、光魔法で暗闇を照らした。

暗闇を光が煌々と照らす。


そこにいたのは、かなり長い銀色の髪をした男であった。

暗闇で正確な色は判別できないが、黒系色の下地に見たことのない刺繍が全体に施された服を着ており、胸元には紋章のような形をした大きなボタンが3つある。


その男は、何かに驚いたように声を発した。

「■…■●#…▲?」


姉貴サラウィルは、その男を睨みつけた。

こんな場所にいるということは、ラファンの仲間である可能性が高い。


問答無用。

潰してから問い詰める。


最強の女王様 vs 第1位始祖のヴァンパイア。

この漆黒の空間で、危険な闘いがはじまろうとしていた。

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