第三の男
随分と走った。繋がりなんぞ断ち切るくらい早く遠くへ。なるべく路上を避けて山や谷、獣道を通過してベーザのアジトとやらに着く。
別段、ディーテ姉の手助けなんぞするつもりはなかった。先の情報である八玉の宝玉を見つけ出してくれる道具を狙ってきたのだ。目的はシシロウ兄貴に再開し俺になぜ殺そうとしたか? 役不足なのかどうか確認したかっただからだ。
「猫パンチ 総毛断」
俺は生命の波動、気を広範囲で周囲に発する。
「どうやら俺に気づいた人間の様子はいないな。ここには達人はいない」
だと、するとディーテ姉達一同はここにはまだ来ていない。こんなところで接触するつもりはない。
俺は不眠不休で動いて来たがまだ余力はある。速攻するつもりだ。もたついていたら追いつかれるだけだ。
「アジトの地図も概ね頭に入っている。攻めるか!」
ベーザのアジトへと乗り込む。周囲は森でひとつむき出しの岩山が見えるそこがベーザのアジトらしい。俺は進むにつれて警備していた手下どもと出くわすが軽く悶絶させただけで殺してはいない。
俺は人を殺したことはあるがシシロウ兄貴の一件でなるべく殺生は避けたい気持ちでいた。しかし、何かが乾く。
「殺しは殺し、誰が相手であろうと。ゴタロウ=ヴィヴァルディともあろう者が迷うとは未熟だな……」
未熟なのはもとよりわかっていたことだ。青二才がようやく成人の悩みを知る……とでも言うべきか?
!
「む!」
気配が四つ、何かの手練れだな。巧妙に森と同化して動いている。おそらくは囲まれている。いいだろう、相手になってやるぜ!
「ゴリラキック 囲集伐」
予想通りに四人がそれぞれの方向から俺に飛びかかる。どうやら、4人同時には攻撃できないように波状している。当たり前だが。だが、問題ない。
「猫パンチ 六臂鏖殺」
全方位の打撃が無数に炸裂し乱数に拳がヒットする。殺さない程度にやっているので相手は気絶しているだけ。
!
そして、気配はもう一つする。途轍もない存在感なのに、なにか弛緩した気の佇まいがみせかけと感じるだけ恐ろしい。どこかで知っている気配でもある。
「やっる~わね、ゴタロウ」
「お前は、サンゾウ兄貴…」
「お前って、兄弟子にむかって口が悪いわね~」
「兄貴こそ、そのお姉言葉、どうにかなりませんかね」
サンゾウ=オーファン、猫パンチ五兄弟の真ん中で一番後継者候補から離れた緩い男だ。口は達者だが恥ずかしがり屋で覆面行動するわけのわからない俺の兄弟子。
「知っているのよ」
「なんですか、使用人が主人の秘密を握ったかのように……」
「アンタ達のこれまでの顛末よ。シシロウは狂ってなんかいないわ」
「あんたにはわかるのか?」
「ええ、とってもね。知りたい?」
「アンタの口からじゃ信憑性ないからな」
「あらあら、嫌われている私。でも見込みはあるわね」
「アンタに評価されてもな……」
「でも、ゴタロウ、あなた。私の気配を察知しただけで怯えたでしょう」
「流石に兄弟子だけあって、あんたの不快感は賞賛しますよ」
「あなた、私を馬鹿にしていたでしょうけど。私達、兄弟子の深淵の業には気づかない鈍感さ。危ういと思ってだけど、少しは死線をくぐって成長したようね。私が怖い。シシロウが怖い。当然なのよ。私たちは喪に服した道化なんだから」
死しか触れ合うことができないとでもいうのか? 長兄、次兄なら無表情でやってこれるだろう。サンゾウなら笑いながら殺人を楽しむだろう。だが、シシロウ兄貴は違う。
「な~んて、シシロウ兄貴なら違うなんて思っていたわけ? あなたですら殺人を犯しているのよ」
そうだ。俺も理由さえ真っ当なら喜んで殺っていた節がある。
「私と手を組まない? 一つだけ八玉の宝玉は持っているし。今回の八玉の宝玉を探し出す道具とやらを手にいれるつもり。あれ、人の手に渡ると探すのに大変だから」
こんな、オカマ野郎どうでもいいが……。
「わかった。いいだろう」
「お利口さんね。いまは猫パンチで他の兄弟と渡り合うには私とあなたが組まなければ歯が立たないし、ゴリラキックの残党もいるかもしれないわね。まあ、ソー=アンダーはお亡くなりになったけど。ほほほほほ」
どこもうけることはない。それにゴリラキックの八聖拳はもういない。
確かに実力上はサンゾウと組むしかないだろうが俺は群れるのをよしとしない。しかし、なぜだろうこんなおかま野郎と手を組んだのは? 少しでも兄弟子の境地に近づきたいだけなのであろうか? 不快感だけが残る。




