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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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9/21

蓮SIDE② その話がしたかった

それから、真帆さんからのDMは来なかった。


何日かして一度やり取りを開いたけれど、俺が送った「ごちそうさまでした」で終わっている。まあ、一回会っただけだし。そのまま閉じた。


映画を見たのは、一か月ほど経った頃だった。


例の俳優が、暗い廊下の奥から出てきたところで笑いそうになった。ゆっくり開く扉の向こうに、何か知っていそうな顔で立っている。


今回は、絶対怪しい。


隣で真帆さんが見ていたら、どんな顔をするだろう。


映画館を出てから、公式アカウントの予告編をDMで送った。


『おねーさん、これ見た?』


まだ見ていないという返事に、昨日公開されたことと、面白かったことを伝える。それから、もう一つ書き足した。


『あの俳優、今回はちゃんと怪しかった』


返事はすぐに来た。


『それ、言っていいやつ?』

『予告でわかる範囲だから大丈夫』

『じゃあ、安心して疑えるね』


スマホを見たまま、口元が緩む。


『思う存分疑ってきて』


そう返すと、少ししてまた通知が出た。


『またご飯行く?』


あ、誘ってくれるんだ。


来週の土曜日に決めてから、彼女に映画も見てきてほしいと頼んだ。


会うなら、その話がしたかった。



*



待ち合わせ場所に来た真帆さんは、俺を見つけると少し表情を明るくした。


「久しぶり」

「うん。映画見た?」


挨拶の次に聞いたら、笑われた。


「見たよ」

「どうだった?」

「話したいこと、いっぱいある」


よかった。スマホをポケットにしまう。


「俺も」


歩き出す前に、真帆さんが焼肉には行けたかと尋ねた。まだだと答えると、近くによさそうな店があるという。


最初の投稿を覚えていたらしい。場所も調べてあるようだった。


「賛成」


真帆さんについて、店のある通りへ向かった。


焼肉屋では、俺が肉を焼いた。真帆さんは素直に任せて、映画の話を始める。


例の俳優が出てきたところでは、やっぱり笑ったらしい。


最後の場面については、意見が分かれた。真帆さんは、あの二人にもう一度話してほしかったと言う。俺は、話さなくてよかったと思っていた。


理由を言うと、彼女は少し考えた。


「……確かに。帰れないね」


自分の言ったことを、頭の中で試しているような顔だった。


「だから、あそこで終わってよかったんじゃない」

「もう一回見たくなった」

「俺も。最初のほう、見直したい」


焼けたハラミを彼女の小皿に置くと、袖が落ちてきた。空いた手で押し上げ、網へ視線を戻す。


「蓮くんも食べてね。焼くの、代わろうか」

「食べてるよ」


自分の皿から肉を取って口に運ぶと、真帆さんは俺のご飯を見た。もう半分くらい減っている。


本当だ、とでも思ったのか、少し笑っていた。


冷麺を食べる頃には、映画から別の話に移っていた。向かいで真帆さんが杏仁豆腐を食べ、目を細める。


そっちもおいしそうだな。


見ていると、顔が上がった。


「何?」

「いや。そっちも頼めばよかった」

「まだ頼む?」


メニューへ伸ばしかけた手を止めた。


「今日は、いいや」


まずは冷麺を食べ切ろう。そう思って箸を持ち直したのに、彼女がもう一口食べるのを見ると、やっぱり惜しかった。



*



駅へ向かう途中、真帆さんが袖口に鼻を近づけた。


「ちょっと焼肉の匂いする」

「俺もする」


自分の肩口を嗅ぐと、しっかり焼肉だった。顔を上げたところで目が合って、二人で笑う。


「映画の話もできてよかった」

「俺も。周り、まだ誰も見てなくて」

「先に見ておいてよかった」


見てきて、と言ったら、本当に見てきてくれた。


俺と話すために時間を使ってくれたんだと思うと、少し嬉しかった。


改札へ向かう後ろ姿を見ていたら、真帆さんが振り返った。片手を上げると、彼女も手を振ってホームへ向かう。


姿が見えなくなってから、俺も歩き出した。


今日は、ご飯をおごってもらいに来たんだった。


もちろん、焼肉はおいしかった。でも、それと同じくらい、映画の話をするのを楽しみにしていた。


帰りに送ったDMでは、杏仁豆腐を食べ損ねたことまで書いた。真帆さんからは、冷麺を普通サイズにしたからね、と返ってくる。


『あれは食べてよかった』


階段の脇に寄って返信すると、もう一通届いた。


『私もおいしかった。また行きたいお店になったよ』


また。


それなら、次は杏仁豆腐も食べよう。


DMを閉じてから、自分の予定を開いた。



*



翌週、コンビニで杏仁豆腐を買った。

写真を送ると、昼頃に真帆さんから返事が来た。焼肉屋で食べなかったからかと聞かれ、そうだと答える。


『じゃあ、今度は最初から頼んでおこうね』


最初に杏仁豆腐が来て、そのあと肉を焼くところを想像した。


『それは最後にして』


映画の話が続いた日に連絡先を交換してからは、そちらで連絡するようになった。


返事が早いときも、翌日になるときもあった。俺も講義のあとに読んだまま忘れて、夜になって続きを送ったことがある。それで何か言われることはなかった。


仕事へ戻ると言われたら、そこで終わる。次に何かあったら、また送ればいい。


それが楽で、写真を撮ったあとに、真帆さんへ送ろうかと思うことが増えた。


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