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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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10/21

蓮SIDE③ 喜んでもらえるように

別の日、以前から食事に誘ってくれる女性と会った。


駅ビルの入口でスマホを見ていると、名前を呼ばれた。顔を上げれば、淡い色のブラウスを着た彼女が歩いてくる。耳元でピアスが揺れていた。


「久しぶり」

「待った?」

「今来た」


手を上げて迎え、近くまで来た顔を見る。前に会ったときより、耳の下が少しすっきりしていた。


「髪、切った?」

「わかる? ちょっとだけなんだけど」

「うん。似合ってる」


彼女の手が耳元へ上がり、口元がほころんだ。こういう変化には、気づいたら言うようにしている。少し切っただけなら、なおさら気づいてもらえると嬉しいらしかった。


「蓮くんも、今日いいね」

「今日だけ?」

「そういう意味じゃないよ」


笑いながら腕を軽く叩かれたので、俺も笑った。



*



食事の前に寄ったアクセサリーの店で、彼女は二つのピアスを交互に耳元へ当てていた。


「どっちがいいと思う?」


隣から少し顔を寄せ、鏡越しに見比べる。彼女の目が一度こちらへ動いて、そのまま止まった。


「俺は、そっち」

「こっち?」

「うん。髪、短くしたから、よく見える」


金色の輪を当てたまま、彼女は鏡に向き直った。顔を左右に動かしているけれど、もう迷っている様子ではない。


「じゃあ、こっちにしようかな」


店を出てからも、彼女はときどき小さな紙袋を見下ろしていた。


「一人だったら、ずっと迷ってたと思う」

「今度、つけてきてよ」


顔を上げた彼女が、少し間を置いて頷く。


「……うん」


さっき鏡の前で決めたときより、嬉しそうだった。



*



食事中、料理の写真を撮っていたスマホがこちらへ向いた。


「蓮くんも撮っていい?」

「いいよ」


カメラを見たけれど、なかなかシャッターが切られない。画面の向こうで、彼女が笑った。


「何か緊張する」

「撮るほうなのに?」


俺が笑ったところで、シャッターの音がした。すぐに画面を確かめた彼女の頬が緩む。


「いいの撮れた?」

「うん。すごく」

「見せて」


向かいから隣へ回ると、彼女はスマホを傾けてくれた。肩が触れるくらいに屈んで覗き込む。スマホを持つ彼女の指が、画面の端で止まっていた。


顔を向ければ、すぐ近くに彼女の目がある。


「よく撮れてる」

「モデルがいいから」


そう言って笑う声が、少し照れていた。俺も笑って席へ戻ると、彼女はもう一度、写真を見た。



*



店を出たところで、袖を引かれた。


「もう少し歩かない?」

「いいよ」


まだ早い時間だったし、彼女も帰りたくなさそうだった。


歩き始めると、店へ向かっていたときより距離が近くなった。話しながら俺の腕に触れる手も、すぐには離れない。こちらからも顔を寄せて聞くと、彼女は楽しそうに話を続けた。


その声に合わせて、俺も少し声を落とす。近くで話していると、目が合う回数が増えた。


「今日、会えてよかった」

「そんなに忙しかった?」

「うん。でも、楽しみにしてたから」


俺を見て、少し照れたように笑う。その顔を見ていたら、彼女が続けた。


「また誘ってもいい?」

「いいよ。次はピアス見せてもらわないと」


彼女は、買ったものを思い出したように耳元へ触れた。


「覚えててね」

「忘れないよ」


嬉しそうに、もう一度俺の腕へ手が伸びてきた。



*



駅で別れる前に、彼女がバッグから封筒を取り出した。


「今日はありがとう」

「こちらこそ。ごちそうさまでした」


受け取ってしまっても、彼女はまだこちらを見ていた。俺もすぐには背を向けず、その顔を見る。


「気をつけてね」

「うん。蓮くんも」


改札へ向かう後ろ姿を見送った。数歩進んだところで彼女が振り返る。


振り返りそうだと思っていた。


目を合わせて手を上げると、ぱっと笑って手を振ってくれた。今度こそ改札を通るのを見届け、俺も自分の使う改札へ向かう。


店も料理もよかったし、彼女も楽しんでくれた。


バッグの中の封筒を確かめてからスマホを出し、お礼のDMを送った。


『今日はありがとう。ピアス、似合ってた』


ほどなく、ハートのついたスタンプが届いた。


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