↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/21

蓮SIDE④ 俺みたいな

三回目は、俺から誘った。


何が食べたいか聞かれたけれど、いくつか浮かんだ店は、どこでもよかった。真帆さんに聞き返すと、落ち着いた雰囲気のレストランのページが届いた。


ドレスコードがあるので、少し綺麗めで来てほしいらしい。


『ジャケットあればいい?』


大丈夫だと返ってきたので、クローゼットを開けた。


白いシャツを当ててみたけれど、少しかしこまって見える。黒のタートルネックに替え、ジャケットを羽織った。


こっちかな。


鏡の前で横を向く。真帆さんは、どんな格好で来るんだろう。


当日はワンピースだった。


いつもより少し華やかで、歩いてくるのを見て姿勢を起こす。俺に気づいた彼女の足が、わずかに緩んだ。


あ、見てる。


「おねーさん」


片手を上げると、近づいてきた真帆さんが笑った。


「お待たせ」

「俺も今来た」


俺の服を、もう一度見た。気に入ったらしい。


「これで大丈夫?」

「うん。素敵。似合ってる」

「よかった」


少し迷ったけれど、これにしてよかった。


「おねーさんも、いつもと違うね」

「お店に合わせてみた」

「似合ってる」


本当に似合っていた。真帆さんは笑って礼を言うと、店の方向へ歩き出した。


信号待ちで、また視線を感じた。横断歩道の先を見たまま少し待っても、まだ見ている。


「何?」


顔を向けると、彼女の目が俺の目に移った。


「ジャケットも似合うなと思って」

「さっきも言った」

「うん。もう一回思ったの」


思わず笑った。


見ていたのがばれても、取り繕わない。そういうところは、初めて会った日と変わらなかった。


信号が青になる。


「行こ」


真帆さんと並んで、横断歩道を渡った。



*



料理が来ると、真帆さんは嬉しそうに食べ始めた。俺も食べながら、さっきの話を続ける。


映画から小説の話になった。真帆さんが最近読んでいるという本は、俺も書店で見かけたことがあった。


「最後まで読んだら、面白かったか教えて」

「読む?」

「面白かったら」

「責任重大だね」


そう言って笑うので、俺も笑った。読み終わったら、きっと連絡をくれるだろう。そのとき、借りたいと言えばいい。


コーヒーを飲んでいるとき、また目が合った。


「そんなに気になる?」

「似合うなと思って」

「それ、三回目くらい」


真帆さんが笑う。


「じゃあ、もう言わない」

「言わなくていいとは言ってないけど」


また笑われた。


もっと言ってほしい、みたいになった。でも、似合っていると言うたびに、真帆さん自身が嬉しそうだった。


もう一回くらい聞いてもいいと思った。



*



店を出てから、来週のことを聞いた。今日は楽しかったし、また会えたらよかった。


「おねーさん、来週は?」

「あー、約束あるから、ごめんね?」

「友達?」


真帆さんがこちらを向いた。


「ううん。蓮くんみたいな?」


一瞬、返す言葉が出なかった。


俺みたいな。


「ああ」


食事に行く男が、ほかにもいる。


考えてみれば、不思議なことじゃない。俺だって、SNSで知り合った。向こうから誘ってきたのも、こういうことに慣れていたからだろう。


「その次の週も、ちょっと予定があって。もう少し先でもよければ」

「うん」


駅へ向かう人の流れに、目を戻した。


「また連絡して」

「わかった」


すぐに返ってきた声は、いつもどおりだった。



*



電車に乗ってから、ジャケットの袖を見た。

今日、何度も褒められた。本当に気に入っていたと思う。気を使って言っている顔じゃなかった。


だったら、いいはずなのに。俺みたいな、か。

来週は誰と何を食べるんだろう。聞けば普通に教えてくれそうだったけれど、別に聞きたくはなかった。


トーク画面を開き、今日のお礼を打つ。


『今日はありがとう。おいしかった』


送ってから、背もたれに寄りかかった。

店に入る前、俺を見つけたときの顔を思い出す。あのときは、ちょっと嬉しかった。今も、そこは変わらない。


画面が光った。


『こちらこそ、ありがとう。付き合ってくれて嬉しかったです』


俺はその一文を、もう一度読んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。