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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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12/21

本気になっちゃった?

『ここ、どう?』


蓮くんから送られてきたのは、土鍋ご飯と魚料理のお店だった。鯛も、鮭といくらもおいしそうで、返事をしたあともメニューを眺めてしまった。


当日、店へ向かいながら、もうご飯を選んでいると話すと笑われた。結局、蓮くんも食べたがった鮭といくらに決める。二人前からだったので、好みが合ってよかった。


「この前の本、読み終わった?」

「うん。面白かったよ」

「じゃあ、読む」


注文を終えたばかりの彼を見て、笑ってしまった。


「私の感想だけで?」

「面白かったらって言ったじゃん」

「そうだけど。好み、合うかな」


彼は当然のことのように言った。


「読んでみればわかるでしょ」


もっともだった。今度持ってくると約束すると、蓮くんは「ありがと」と笑った。


土鍋ご飯は、二人ともおかわりをした。私が覗き込むと、彼がお茶碗を受け取り、おこげも一緒によそってくれた。

食後のお茶を飲みながら、本を忘れないようメモしておこうと、スマホを出す。


「あれ?」


蓮くんの声に、指を止めた。


「何?」

「それ、やってるの?」


視線の先には、この間入れた恋活アプリのアイコンがあった。


「ああ、これ? うん。最近始めたの」


彼は一度私を見てから、「そうなんだ」と答えた。


「まだ、使い方もよくわからないんだけどね」


私は笑ってメモを開く。本、と入力してから顔を上げると、蓮くんはお茶を飲んでいた。


「今度、忘れずに持ってくるね」

「うん。楽しみにしてる」



*



真帆さんを見送ってからも、さっきのアイコンが頭に残っていた。


恋人、探してるんだ。


ジャケットが似合うと、何度も言っていた。隣を歩いているときまで見ていたくせに、恋人は別に欲しいらしい。


じゃあ、俺がいいと言われたら?


帰ってシャツを脱ぎながら、考えた。ご飯を食べて、映画を見て、そのあとも一緒にいる。肩に触れても、お礼だと思われない。


気づくと、口元が緩んでいた。


……嬉しいんだ、俺。


椅子にシャツをかけ、スマホを取った。


『本、楽しみにしてる』


そこまで打って、消す。それは、さっき言った。


スマホを置いて、ベッドに腰を下ろした。真帆さんに好きだと言われるところを、また想像してしまった。



*



文庫本を貸して一週間ほど経った頃、蓮くんから読み終わったと連絡が来た。


最後の展開について送られてきた感想に、私も話したかったと返す。次の土曜日、夕方から友達に会う前に、お茶をすることになった。


「今日、俺が出すから」


本を受け取ってバッグにしまうと、蓮くんがメニューをこちらへ向けた。


「本、借りたお礼」

「そんなの、いいのに」

「俺が誘ったんだし」


チーズケーキと季節のタルトの写真が並んでいた。お店のページを見たときから食べたかったほうを、もう一度眺める。


「……じゃあ、ご馳走になろうかな」

「うん。どれにする?」


私がチーズケーキを指すと、彼も同じものにすると言った。

本の話は、注文したあとすぐに始まった。蓮くんが最初の場面を挙げ、私は途中の台詞のほうが気になったと答える。


「真帆さん、知ってたから言わなかったんだ」

「言いたかったよ。すごく」

「危なかった」


笑った彼の前に、ケーキが置かれた。


本のお礼なら、感想を聞かせてもらうだけで十分だった。でも、お店を探して誘ってくれたことも、ご馳走すると言ってくれたことも、嬉しかった。


一口食べて顔を上げると、目が合った。


「何?」

「ありがとう。誘ってくれて」


蓮くんは少し笑った。


「うん」


帰り際には、友達によろしくと言われた。知らないでしょうと返せば、「一応」と笑う。


手を振って別れてから、バッグの中の本を思い出した。

貸してよかったな。読んでもらって、よかった。



*



数日後、お皿を持った猫のスタンプと一緒に、久しぶりのお誘いが届いた。


最初に声をかけてきた男の子だった。翌週、前にも一緒に行った洋食屋さんで会い、彼は予告どおり海老フライを頼んだ。


SNSで誰かと会っているかと聞かれたので、近況を話した。家の場所を聞きたがる子とはもう会っていないこと。初めて会う相手には、食事だけと伝え、年齢も確認していること。


「ちゃんとしてるじゃん」

「どうしてあなたが偉そうなの」


彼は声を出して笑った。


「でも、最近は、決まった子とよく行くようになったよ」

「へえ」


何となく、顔がにやっとした。


「本気になっちゃった?」

「そんな――」


そんなことない、と笑おうとした。

なのに、白いお皿のチーズケーキが浮かんだ。今日、俺が出すから、とメニューをこちらへ向けてくれた手まで。


「……そういうんじゃないよ。話してて楽しいし、食べたいものも合うから」

「ふうん」

「何、その顔」


彼は笑いながら、海老フライを切った。


「楽しいならいいじゃん」


それには、すぐに頷けた。


帰りのホームで、蓮くんとのトーク画面を開いた。何か送ろうと入力欄に触れたけれど、特に用事はない。


今日、ハンバーグを食べたよ。それだけ送るのも、何だろう。

迷っているうちに電車が来て、スマホをしまった。


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