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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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13/21

予告編は、あとで見ます

日曜日、恋活アプリで知り合った人とお茶をした。


三十五歳の会社員で、やり取りの感じがよく、好きな映画もいくつか重なっていた。写真より少し柔らかい印象の人で、旅行先で撮ったという金沢の朝ご飯を見せてくれた。


「このお店が、すごくよかったんです」

「おいしそう」

「朝から食べすぎました」


二人で笑った。私の話も聞いてくれるし、会話が途切れて困ることもなかった。


結婚を考えられる相手と出会いたくてアプリを始めた、と話す彼に、私も、いい人がいればと思っていると答えた。


「まずは、お互いを知ってからですよね」


穏やかに返してもらえて、ほっとした。

けれど、帰りの電車で、また会いたいという連絡をもらうと、返事に迷った。


もう一度会うのは嫌ではない。一度ではわからないこともあるだろう。

そう思うのに、予定を開く気になれなかった。


帰宅してお湯を沸かしながら、友達のカーテンの話を思い出した。ああいう暮らしはいいなと思ったし、一緒に笑える相手は欲しい。


ただ、誰かと会って、次も会いたいか考えて、返事を書く。その一つ一つが、今日は少し重かった。


私、こういうの向いてないのかも。


お礼を書き、今は自分の気持ちが追いついていないことを伝えた。次に会う約束はできそうにない、と添えるまでに何度か書き直す。


送信して、スマホを置いた。


せっかくの日曜日なのに、宿題を済ませたような気分だった。



*



お茶を飲み終える頃、連絡が来た。


『この前言ってた映画、配信始まってる』


蓮くんだった。画像を見て、すぐに配信サービスを開く。あとで見ようと思って、そのまま忘れていた映画だ。


『ありがとう。今日見ようかな』

『俺も今から見る』

『じゃあ、私も』


時計はまだ六時過ぎだった。見終わってから夕飯を作ればいい。


クッションを引き寄せ、再生ボタンを押した。


映画が終わってスマホを取ると、ちょうど『見た?』と届いた。


『今、終わった』

『最後さ』

『うん』


続きを待ちながら、私も打つ。


あの人、最初から知ってたのかな。


送る直前に、蓮くんから同じような疑問が届いた。笑って、入力しかけた文章を消す。


『それ、今打ってた』

『やっぱり?』


一つ答える間に、また聞きたいことが浮かぶ。途中で出てきた写真の話を書いていたら、新しい通知が出た。


『電話していい?』


電話。


そういえば、したことがなかった。


誰に見られるわけでもないのに、膝の上のクッションを脇へ置いた。


『うん』


すぐに着信が来た。


「もしもし」

「真帆さん?」

「うん。聞こえるよ」


いつもの声だった。ただ、いつもより近い。


「よかった。打つの間に合わない」


笑っている声に、私も笑った。


「私も。何回も書き直してた」

「あの写真、もう一回見た?」

「まだ」


リモコンを取り、教えてもらった場面まで戻す。言われたところで止めれば、確かに写真が写っていた。


「あ、本当だ」

「でしょ?」


耳元で声が弾んだ。


「あの台詞も、そういう意味だったんだね」

「たぶん。俺も最初、気にしてなかった」


二人で確かめながら、もう一度その場面を見た。一人で見終えたはずなのに、まだ映画の続きにいるようだった。


いつの間にか、別の話になっていた。


蓮くんは昼過ぎまで寝ていたらしい。昨日は友達とゲームをしていたと言い、私にも何をしていたかと聞いた。


「出かけてたよ。お茶して、夕方には帰ってきた」

「そっか。ご飯、食べた?」

「まだ。映画見ちゃったから」


時計を見ると、八時半を過ぎていた。


「何食べるの?」

「豚肉とキャベツがあるから、炒めようかな」

「いいじゃん」


スマホを耳に当てたまま冷蔵庫を開け、豚肉のパックを取り出す。


「蓮くんは?」

「米はある」

「炊いてあるの?」


冷凍、と返ってきたので、私は笑った。


「じゃあ、もう半分できてるね」


蓮くんが声を出して笑う。その声を聞いていたくて、キャベツを取り出す手が少し遅くなった。


「じゃあ、ご飯作るね」

「うん」


冷蔵庫を閉めても、すぐには切れなかった。


「映画、教えてくれてありがとう。電話も楽しかった」

「俺も」


返ってきた声に、口元が緩む。


「今度は、一緒に見ようよ」

「映画館で?」

「うん。見終わってすぐ話せるし」


蓮くんと並んで座るところが浮かんだ。


「いいね。何か見たいのある?」

「ある。あとで送る」


まずはご飯ね、と言うと、「はいはい」と笑って蓮くんは電話を切った。

豚肉とキャベツを炒めながらも、さっきの声を思い出していた。


食事ではない約束。

友達とも映画には行く。それなのに、蓮くんと行くのだと思うと、何を着ようかまで考えてしまう。


<本気になっちゃった?>


私は菜箸で豚肉を返した。


映画くらい、行くでしょう。


スマホが震えたので、火を弱めて見に行く。蓮くんから予告編が届いていた。


『これ』


私は先に返事を打った。


『行きたい』


送ってから、まだ再生していないことに気づいた。


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