↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/21

今日はテーブルがない

予告編は、ちゃんと面白そうだった。

蓮くんが送ってくれた上映スケジュールを見て、土曜日の午後の回に決めた。チケットは彼が取っておいてくれることになった。


当日、映画館で代金を聞いても、彼は受け取らなかった。


「今日は俺が誘ったから。一緒に見たかったし」


財布を出しかけた手が止まる。彼はもう売店のメニューを見上げていたので、私も慌てて顔を上げた。


「じゃあ、飲み物は私が出すね」

「ありがとう。何にする?」

「アイスティー」


決めていたものを答えただけなのに、少し遅れた。


一緒に見たかった、か。


隣を見ないようにしながら、サイズを選んだ。

席は、ちょうど真ん中あたりだった。バッグを膝に置くと、蓮くんが「見やすい?」と尋ねる。

頷いて座り直したところで、肘掛けに置かれた彼の腕が目に入った。


今日はテーブルがない。


顔を向ければ、すぐそこにいる。私はスクリーンへ向き直った。

予告編が始まってしばらくすると、見覚えのある俳優が映った。


あの人だ。


隣を見れば、蓮くんもこちらを向いていた。口元を緩め、少しかがんできたので、私も顔を寄せる。


「また怪しい役」


耳元の低い声に、首の後ろがそわっとした。


「まだ、わからないでしょう」

「今、銃持ってたけど」


確かに。


笑いをこらえてスクリーンへ戻る。彼はもう普通に予告編を見ていたけれど、私の耳には、しばらくあの声が残っていた。



*



本編が始まれば、ちゃんと夢中になった。


主人公が迷うところでは私まで息を詰めたし、そこでそんな冗談を言うのかと笑った場面では、隣からも小さく声が漏れた。


明るくなるのを待って顔を向けると、蓮くんもこちらを見た。


「どうだった?」

「話したいこと、いっぱいある」

「俺も」


同じような顔をしていて、笑ってしまった。


上映後のロビーは混み合っていた。彼の後ろを歩いているうち、横から来た人に道を譲って、少し離れる。

振り返った蓮くんが、手を差し出した。


「真帆さん、こっち」


つい、その手を取っていた。

指が私の手を包む。人の流れを抜け、壁際まで来ると、するりと離れた。


「最後のさ。あそこで戻ると思わなかった?」


もう映画の話を始めている。


「……思った。絶対戻ると思った」

「だよね」


私は空いた手でバッグを持ち直した。ロビーの時計は、まだ五時前だった。


「何か食べていく?」

「いいの?」

「うん。映画の話もしたいし」


このまま別れるには、話し足りなかった。


近くの店でピザを頼み、気になった場面を話した。好きなところが違うので、そのたびに映画の中へ戻ることになる。


お皿が空になってからも話していたら、蓮くんが壁の時計を見た。


「時間、大丈夫?」

「うん。蓮くんは?」

「俺も大丈夫」


彼はそのまま店員さんを呼び、飲み物のおかわりを頼んだ。


「真帆さんも?」

「うん。同じので」


もう少し、ここにいられる。

メニューを戻す彼を見ながら、私は椅子に座り直した。



*



外へ出る頃には、すっかり暗くなっていた。

駅までの道は、映画館のロビーほど混んでいない。蓮くんは私の隣を歩き、その手は上着のポケットに入っていた。


「今日はありがとう」

「こちらこそ。ピザ、ごちそうさま」

「映画、誘ってくれて嬉しかった」


横を見ると、彼もこちらを見ていた。


「また行こうよ」

「うん」


すぐに答えた私に、蓮くんが笑う。


帰宅して送ったお礼にも、『俺も』と返ってきた。


『次、真帆さんが選んで』


私は上映予定を開いた。

誰と見るかは、もう決まっていた。



■■■



次に見る映画は、私が送った三本の予告編から選んだ。


蓮くんは一つずつ見てくれたらしく、それぞれに感想を返してくれた。結局、最初に私が気になっていた作品に決まり、再来週の土曜日に会うことになった。


『今度は私が取っておくね』

『ありがとう。楽しみ』


その返事を見てから、もう一度予告編を再生した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。