可愛いも褒め言葉です
映画の話になった。蓮くんが最近見たという一本は、私も先週見たばかりだった。
「あの人、絶対裏切ると思ったの」
「わかる。出てきたときから怪しい」
「最後まで普通にいい人で、びっくりした」
蓮くんは笑いながら水のグラスを置いた。
「顔で疑われてかわいそう」
その言い方に笑うと、彼も笑った。切れ長の目が細くなり、少し開いた唇から白い歯が見えた。
あ、可愛い。
「可愛いね」
言うと、蓮くんの笑いが収まった。
「格好いい、のほうがいい」
「それは、さっき言ったよ」
「何回でもいいけど」
私はまた笑ってしまった。
「じゃあ、格好いい」
「どうも」
満足したように水を飲み、グラスを置くと、彼は少し身を乗り出した。
「で、あの映画の最後なんだけど」
私は頷いて、その続きを聞いた。
店を出て時計を見ると、思っていたより時間が経っていた。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして。私も楽しかった」
駅へ向かいながら、次に公開される映画の話をする。スマホに予告編を出そうと足を緩めたとき、肩に手が触れた。
「おねーさん、こっち」
顔を上げると、向こうから来た数人連れが、すぐ脇を通り過ぎていった。画面を見ているうちに、通路の真ん中へ寄っていたらしい。
「あ、ありがとう」
顔を向けると、蓮くんがすぐそばにいた。肩に触れた手は、人が通り過ぎてもそのままだった。
食事中も、あんなふうに一口食べさせようとしてくれた。私が照れるのを見て、笑っていた顔を思い出す。
ご飯をご馳走するだけのつもりなのに、ずいぶん楽しませてもらっている。
「そういうの、しなくていいからね」
蓮くんが私を見た。
「そういうの?」
「ご飯、一緒に食べてくれるだけで嬉しいから。そんなに気を使わなくても大丈夫だよ」
彼の口元から、笑みが薄れた。
「……別に、サービスじゃないけど」
肩から手が離れる。私は少し首を傾げた。
「うん。でも、無理はしないでね」
蓮くんは何か言いたそうに私を見て、それから、小さく笑った。
「してないよ」
*
帰りの電車で座席に腰を下ろした。バッグを膝に置いて、ひと息つく。
……今日の子、格好よかったなあ。
最初に目が合ったときの顔も、メニューを見ていた横顔も、映画の話をしながら笑った顔も、よかった。
スマホを取り出し、お礼のDMを送った。
『今日はありがとう。楽しかったです』
ほどなく返信が来た。
『こちらこそ。ごちそうさまでした』
私はスマホをバッグにしまった。電車の窓に映る自分の口元が緩んでいて、そっと引き締めた。
■■■
蓮くんと食事をした二週間後は、別の男の子とラーメンを食べに行った。
二十三歳の、よく笑う子だった。最近できたお店が気になるというので行ってみたら、食券を買ってから二十分ほど並んだ。ようやく出てきたラーメンは、待った甲斐のある美味しさだった。
「これ、替え玉いっていいですか」
「どうぞ」
嬉しそうに追加の麺を頼む彼を見ていたら、私も少し迷ってしまった。結局、やめた。
でも、帰り道に、やっぱり半玉くらいなら食べられた気がした。
*
それから、また二週間。そろそろ誰かとご飯に行こうかな、とソファでSNSを開いたところで、通知が出た。蓮くんだった。
『おねーさん、これ見た?』
続けて送られてきたのは、映画の予告編。前に食事をしたとき、二人で話していた作品だった。
『まだ。もう公開されたんだね』
『昨日から』
『蓮くんは見た?』
すぐに画面に既読がついた。
『今日見た。面白かった』
いいなあ。
予定を確かめようとカレンダーを開きかけると、もう一通届いた。
『あの俳優、今回はちゃんと怪しかった』
声を出して笑ってしまった。前の映画では、最後までいい人だった俳優だ。
『それ、言っていいやつ?』
『予告でわかる範囲だから大丈夫』
『じゃあ、安心して疑えるね』
すぐに既読がついて、返事が来た。
『思う存分疑ってきて』
しばらく画面を眺める。
そういえば、あれから一か月くらい経つのか。
『またご飯行く?』
打って、送った。今度はどんなお店がいいだろう。和風のハンバーグも気になっていたけれど。
『行く』
『いつ空いてる?』
返事を見て、私はカレンダーを開いた。
『来週の土曜なら』
『俺も大丈夫』
それなら、とお店を検索しようとしたところで、また通知が出た。
『おねーさんも映画見てきてよ』
『感想聞きたい』
私は、開きかけたお店のページを閉じた。
先に、上映時間を調べよう。




