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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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4/21

可愛いも褒め言葉です

映画の話になった。蓮くんが最近見たという一本は、私も先週見たばかりだった。


「あの人、絶対裏切ると思ったの」

「わかる。出てきたときから怪しい」

「最後まで普通にいい人で、びっくりした」


蓮くんは笑いながら水のグラスを置いた。


「顔で疑われてかわいそう」


その言い方に笑うと、彼も笑った。切れ長の目が細くなり、少し開いた唇から白い歯が見えた。


あ、可愛い。


「可愛いね」


言うと、蓮くんの笑いが収まった。


「格好いい、のほうがいい」

「それは、さっき言ったよ」

「何回でもいいけど」


私はまた笑ってしまった。


「じゃあ、格好いい」

「どうも」


満足したように水を飲み、グラスを置くと、彼は少し身を乗り出した。


「で、あの映画の最後なんだけど」


私は頷いて、その続きを聞いた。



店を出て時計を見ると、思っていたより時間が経っていた。


「ごちそうさまでした」

「どういたしまして。私も楽しかった」


駅へ向かいながら、次に公開される映画の話をする。スマホに予告編を出そうと足を緩めたとき、肩に手が触れた。


「おねーさん、こっち」


顔を上げると、向こうから来た数人連れが、すぐ脇を通り過ぎていった。画面を見ているうちに、通路の真ん中へ寄っていたらしい。


「あ、ありがとう」


顔を向けると、蓮くんがすぐそばにいた。肩に触れた手は、人が通り過ぎてもそのままだった。


食事中も、あんなふうに一口食べさせようとしてくれた。私が照れるのを見て、笑っていた顔を思い出す。

ご飯をご馳走するだけのつもりなのに、ずいぶん楽しませてもらっている。


「そういうの、しなくていいからね」


蓮くんが私を見た。


「そういうの?」

「ご飯、一緒に食べてくれるだけで嬉しいから。そんなに気を使わなくても大丈夫だよ」


彼の口元から、笑みが薄れた。


「……別に、サービスじゃないけど」


肩から手が離れる。私は少し首を傾げた。


「うん。でも、無理はしないでね」


蓮くんは何か言いたそうに私を見て、それから、小さく笑った。


「してないよ」



*



帰りの電車で座席に腰を下ろした。バッグを膝に置いて、ひと息つく。


……今日の子、格好よかったなあ。


最初に目が合ったときの顔も、メニューを見ていた横顔も、映画の話をしながら笑った顔も、よかった。

スマホを取り出し、お礼のDMを送った。


『今日はありがとう。楽しかったです』


ほどなく返信が来た。


『こちらこそ。ごちそうさまでした』


私はスマホをバッグにしまった。電車の窓に映る自分の口元が緩んでいて、そっと引き締めた。



■■■



蓮くんと食事をした二週間後は、別の男の子とラーメンを食べに行った。

二十三歳の、よく笑う子だった。最近できたお店が気になるというので行ってみたら、食券を買ってから二十分ほど並んだ。ようやく出てきたラーメンは、待った甲斐のある美味しさだった。


「これ、替え玉いっていいですか」

「どうぞ」


嬉しそうに追加の麺を頼む彼を見ていたら、私も少し迷ってしまった。結局、やめた。

でも、帰り道に、やっぱり半玉くらいなら食べられた気がした。



*



それから、また二週間。そろそろ誰かとご飯に行こうかな、とソファでSNSを開いたところで、通知が出た。蓮くんだった。


『おねーさん、これ見た?』


続けて送られてきたのは、映画の予告編。前に食事をしたとき、二人で話していた作品だった。


『まだ。もう公開されたんだね』

『昨日から』

『蓮くんは見た?』


すぐに画面に既読がついた。


『今日見た。面白かった』


いいなあ。

予定を確かめようとカレンダーを開きかけると、もう一通届いた。


『あの俳優、今回はちゃんと怪しかった』


声を出して笑ってしまった。前の映画では、最後までいい人だった俳優だ。


『それ、言っていいやつ?』

『予告でわかる範囲だから大丈夫』

『じゃあ、安心して疑えるね』


すぐに既読がついて、返事が来た。


『思う存分疑ってきて』


しばらく画面を眺める。


そういえば、あれから一か月くらい経つのか。


『またご飯行く?』


打って、送った。今度はどんなお店がいいだろう。和風のハンバーグも気になっていたけれど。


『行く』

『いつ空いてる?』


返事を見て、私はカレンダーを開いた。


『来週の土曜なら』

『俺も大丈夫』


それなら、とお店を検索しようとしたところで、また通知が出た。


『おねーさんも映画見てきてよ』

『感想聞きたい』


私は、開きかけたお店のページを閉じた。


先に、上映時間を調べよう。

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