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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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3/21

ご飯だけ、のはずですが?

二週間に一度くらい。若い男の子と食事をするのは、そのくらいの頻度に落ち着いた。

友達との約束もあるし、一人でのんびりしたい日もある。月に二度ほどなら、次は何を食べようかと考えるのも楽しい。


そんな週末の夜、SNSを開いていて、一枚の写真で指が止まった。


黒い髪と、片方の目。顔の下半分は、スマホで隠れている。


その目が、よかった。

切れ長で、涼しげで、少し近寄りがたい。もう少し見えないものかと写真を大きくしてから、私は指を離した。


大きくしたところで、隠れているものは見えない。


プロフィールには、二十一歳の大学生とあった。


名前は、蓮。


投稿を遡ると、映画の感想や、友達と食べに行ったらしいラーメンの写真が並んでいた。

最新の投稿は、焼肉の約束が流れたという話。その下に、『誰か代わりに飯連れてって』と書き足してある。


私はDMの入力欄を開いた。三十三歳の会社員であることと、よかったら一緒に夕食をどうかということを書く。


それから、いつもの説明を添えた。食事だけ。ご飯代はこちらで出すけれど、お手当はなし。


送ってから、もう一度写真を見た。実際に会ったら、どんな顔なんだろう。



*



待ち合わせは、土曜日の夕方。

駅に隣接した商業施設の、一階の時計の下にした。約束の五分前に着いた私は、スマホを取り出した。


『着きました。白のトップスに、カーキのパンツです』


送信すると、すぐに既読がついた。


『俺もいる』


顔を上げると、柱のそばに黒いトップスを着た男の子が立っていた。

手元のスマホから目を離し、こちらを向く。


あ、写真の目だ。


彼は私と目を合わせると、片手を軽く上げた。

近づいてくる間、私はその顔を見ていた。すっと通った鼻筋に、形のいい唇。黒い前髪の下には、写真で見た切れ長の目がある。


……全部、よかった。


「真帆さん?」


声までいい。


「うん。蓮くん?」

「そ」


目の前で足を止めた彼は、私を見て、口の端を少し上げた。


「へえ。綺麗な人じゃん」


リップサービス、リップサービス。


心の中で唱えて、私は笑った。ここで浮かれては、『おねえさん』としての沽券に関わる。


「ありがとう。蓮くんも格好いいね」

「知ってる」


思わず声を出して笑ってしまった。


「そうだよね」

「そこ、同意するんだ」

「本当のことだもの」


彼の口元が緩む。写真では冷たそうに見えた目も、笑うと少し細くなった。


なるほど。こういう顔で笑うのか。


「学生証、見せてもらってもいい?」

「うん」


DMでも頼んでおいたので、彼はすぐに財布を出した。


写真と本人の顔を見比べ、生年月日を確認する。確かに二十一歳だった。

それにしても、証明写真まで格好いい。


「そんなに違う?」


声をかけられ、顔を上げた。


「え?」

「結構まじまじ見てるから」


手元へ目を戻し、ようやく何を聞かれたのかわかった。


「ああ、違うの。証明写真も格好いいなと思って」


学生証を返すと、蓮くんは少し笑った。


「それはどうも」



*



お店は、同じ商業施設に入っている洋食屋さんにした。

通路に面した明るい店内には、買い物帰りらしい人たちが何組もいる。二人席に案内されると、蓮くんは向かいに座った。


近い。


いや、普通の二人席だ。顔がよく見えるだけ。私は渡されたメニューを開いた。


「お腹すいてる?」

「うん。結構」

「よかった。好きなの頼んでね」


メニューに目を落とした蓮くんは、まつ毛まで長かった。ページの端に添えられた指も、すらりと長い。


そこまで眺めていたことに気づいて、私は自分のメニューへ目を戻した。

ご飯に誘ったのだ。あまり、じろじろ見るものではない。


「ハンバーグにしようかな」


言うと、彼が顔を上げた。


「俺も。それ、ソース何にする?」

「デミグラス。蓮くんは?」

「和風」


二種類の写真を見比べて、少し迷う。大根おろしも美味しそうだ。


「迷う?」

「ちょっと」

「一口あげるよ」


向かいの顔を見て、私は頷いた。


「ほんと? じゃあ、私のもどうぞ」


運ばれてきたハンバーグは、写真より少し大きく見えた。蓮くんがナイフを入れると、切り口から肉汁がにじむ。一口食べて、小さく頷いた。


「おいしい?」

「うん」


蓮くんは、もう一切れ切り分けた。大根おろしをのせ、フォークに刺したままこちらへ差し出してくる。


「はい」


受け取ろうとして、手が止まった。


これは、口を開けるほうだ。


顔を上げると、蓮くんが少し身を乗り出していた。私が食べるのを、ごく自然な顔で待っている。


あの顔に見られながら、口を開けるのか。


「あ、ええと……」


小皿に取ってもらえばいい。そう思いつくまでに、妙な間が空いてしまった。


「お皿に、もらってもいい?」


彼は差し出された小皿より先に、私の顔を見た。


「喜ぶと思ったのに」


口元が少し上がる。


「嬉しいよ。ただ、その……ちょっと照れるから」


言ってしまってから、頬が熱くなった。食事に誘っておいて、何を照れているんだろう。


「照れるんだ」


蓮くんが楽しそうに繰り返すので、私は小皿を持ち直した。


「……初対面でしょう」

「そっか」


彼は素直にハンバーグを置いてくれた。


お礼を言い、私も自分の分を切り分ける。まだこちらを見ている気がしたけれど、今は確かめないでおいた。


「蓮くんのも、今あげるからね」

「うん」


その声が笑っていたので、私はもう少しだけ、自分のお皿に集中することにした。

交換して食べてみると、和風のほうはさっぱりしていた。


「こっちもおいしいね」

「そっちも。次、そっちにしようかな」


蓮くんはそう言って、ご飯を口に運ぶ。食べ方が綺麗だった。それでいて、よく食べる。見ていて気持ちがいいなと思っていると、目が合った。


「何?」

「ううん。おいしそうに食べるなと思って」

「おいしいからね」


口元が少し上がる。私も笑って、自分のハンバーグを切った。


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