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三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。  作者: 小笠原ゆか


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18/21

スーツも非常に良かった

蓮くんは、コンビニの夜勤を少し増やした。

食事に誘ってくれる女性たちと会わなくなったぶん、バイトの収入を増やしたいらしい。


夕方の五時に『おはよう』と届いた日は、何事かと思った。


『今起きた』

『夜勤だったの?』

『うん。よく寝た』


そのあとに送られてきた寝癖の写真を、私はしばらく眺めた。



*



金曜日、会社を出るのが少し遅くなった。


蓮くんからは、もう着いたと連絡が来ている。ゆっくりでいいよ、と書いてあったけれど、待っていると思うと足が速くなった。


柱のそばに、スーツ姿の彼がいた。


ジャケット姿は知っている。それでも、白いシャツにネクタイを締めていると、また違った。


「お疲れ」

「ごめん、待たせちゃって」

「大丈夫。俺もさっき終わったから」


近づいた私の顔を見て、蓮くんが笑う。


「走った?」

「ちょっと」

「ゆっくりでいいって言ったのに」


息を落ち着けながら、襟元へ目を向けた。


「……スーツ、似合うね」

「ありがとう」


今日は素直に受け取るらしい。


駅の近くの定食屋へ入り、私は焼き魚、彼は生姜焼きを頼んだ。メニューを返すと、蓮くんがネクタイを少し緩める。


その手元を見ていたら、目が合った。


「何?」

「ううん。説明会、どうだった?」


聞きたかったことではある。


「面白かった。机とか椅子だけじゃなくて、働く場所全体を考える仕事もあるんだって」

「会社の引っ越しとか?」

「そう。人数とか、どういう働き方するかとか聞いて。専門の人と一緒に考えるらしい」


説明会でもらったという冊子を、少し見せてもらった。明るいオフィスの写真に、何種類もの机や椅子が載っている。


「こんなオフィス、いいね。うちの会社も椅子くらい替えてほしい」

「今の、座りにくいの?」

「長く座ってると、ちょっとね」


蓮くんは冊子の椅子のページへ目を戻した。


「そういうのも、聞いてみたいんだよね。実際使ってる人が、何に困ってるかとか」


料理が来ると、彼はさっそく生姜焼きをご飯にのせた。


「今日は、このあとバイト?」

「ううん。次は明日の夜」

「そっか。最近、少し増やしたって言ってたから」


蓮くんは箸を止め、私を見た。


「今日、眠そうだった?」


眠そうではない。むしろ、ネクタイを緩めてご飯を食べているところが、非常によかった。


「……そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、大丈夫」


少し笑われたので、私も魚へ箸を戻した。


「明日の昼間は?」

「何もないよ。真帆さんは?」

「私も」


答えると、蓮くんの口元が緩んだ。


「じゃあ、急いで帰らなくてもいいね」


そう言われると、今食べている夕飯まで、少しゆっくり味わいたくなった。


「真帆さんは? 今日、忙しかった?」

「うん。何度か修正を頼まれて、ずっと同じものを直してた」


今日の顛末を話すと、蓮くんは生姜焼きを食べながら聞いてくれた。


「それで、最後は最初の案に戻ったの」

「それ、戻るんだ」

「今日一日、何してたんだろうと思ったよ」


蓮くんが笑った。

それでも今の担当は好きだと話すと、彼は、部署を変わりたいと思うことはないのかと聞いた。


「今はないかな。まだやってみたいこともあるし」

「そっか」


蓮くんは残ったご飯を集め、生姜焼きの最後の一切れと一緒に食べた。



会計では、バイト代が入ったからと払ってくれた。

店を出て改めてお礼を言うと、彼は私の手を取った。


「おいしかった?」

「うん。ご馳走してもらえて、嬉しかった」


指が絡む。

まだ少し落ち着かないけれど、今度はそのまま握り返せた。


「家まで送る」

「うん。ありがとう」


駅へ向かって歩き出すと、蓮くんも隣に並んだ。急ぐ人に道を譲りながら、つないだ手を握り直した。



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