視界
あれから、
千歳はリストを貰い、
何やら調査をしている。
勤め先は 手広くやってるみたいで、
グループ傘下の施設も多いようだ。
とはいえ、
千歳は部長さん。
本職が忙しすぎて 捗ってない模様。
自社グループなら、
「在籍確認」は簡単なんだけどね。
他社だとお手上げらしい。
「羨ましい…」
と、恨めしげに言われた。
今日も今日とてなのだが、
山田さんとの H市行きのおかげで、
今月の給料は安泰なのだ。
なので、
いつも以上に待機が捗っている。
そして、
平穏は破られる。
アプリのマナーモード。
これ個人チャットもできたの?
「出動、稲穂区〇〇二条五丁目」
山田さんだ…
はいはい、
わかりましたよ。
そこ知ってます。
グループホーム「ほのか」です。
……………………
何故か 千歳がいる。
あ 系列グループだっけ、ここ。
「そう、視察」
隣に 白衣の人がいる。
「たまたま、」
「訪問診療の日だったから」
「当時の様子とね、」
「担当医の お話が聞きたかったの」
と、
白衣の人を見る。
ということなら、
「山田さんは 何故ここに?」
「俺は、」
と、親指で白衣の人を指し、
「こいつを張ってたんだよ」
「そしたら、」
「おまえの女に 捕まったんだよ」
言い方。
白衣の人 怯えてるし。
「『含笑寺』に行こうぜ」
またですか…
「俺は 常連さんに呼ばれた」
「タクシーって事で?」
「な、わけないだろ」
「暇だろ?エージェント」
なんか ハモらなかった?今。
……………………
急がないので真っ当な道を行く。
なぜか 後ろに三人。
山田さんと 千歳に挟まれて、
白衣の人、
お医者さんが小さくなってる。
今更ですが、
ドラレコもあるので、
荒事は勘弁してくださいね?
内緒の話も…
「あの日の様子を聞きます」
直球?
お医者さん目が泳いでるよ?
「何をしてるのかは知ってます」
「いつもと、」
「違いませんでしたか?」
千歳?
「吐いとけ」
山田さん?
ど素人の想像ですが…この人
「死亡診断書」を偽造した人、
ですよね?
何で尋問?
お医者さん 涙目になってるよ?
「いつものように、」
「朝、呼ぶから準備してと連絡が…」
「うちの所長?」
「そうです、そうです」
「違う仕事、」
「受けてねぇか?」
「滅相もない!」
お医者さん 滝の汗だから。
ミリタリーと、
ビジネススーツに挟まれて、
小さくなってるから…
よく わからないが、
介護施設って、
協力病院があるらしい。
この人は そこのお医者さん、
って事だよね。
非合法な、
うちの会社に協力してくれてる、
大切なお医者さん。
イヂメていいの?
「まぁいいや」
「後で詰めるわ」
……………………
寝観音が見えてきた。
鳥居の前で道仁さんが待ってる。
いつもより大人しい黒衣だ。
手招きされた方に停め、
何故か 道仁さんが支払いしてくれた。
「ありがとうございました♪」
「おい」
立ち塞がる山田さん。
いや どう考えても俺要らないでしょ……
「ここに停めておけ、」
「全員、こちらに来い」
鳥居の外の 離れに通される。
荘厳な装飾の 大広間だ。
その 真ん中辺りに座布団。
医者とは1 vs 3で対面する。
道仁さんは…審判?
「会って よくわかりました」
と、千歳。
「何か 隠してますよね?」
見据える。
これは終わった。
こうなった千歳に、
隠し事は できないんだ。
お医者さん ドンマイ。
「…はい、調子に乗って、」
「別のところからも 請け負ってます」
「内容は?」
「同じです」
「書類の偽造です」
「キリキリ吐けよ?ぬらりひょん」
ぬらりひょん?
あの?
つまり、
「『感染者』なんだよ、こいつ」
「医者なんて、いい身分だな?」
ぬらりひょん種
いや、字面にすると、
こんな 間抜けな名前はない。
「粗方は知ってるんだよ」
「こっすい稼ぎ方してるのはな」
「ふむ、都合が良いので、」
「その辺は見逃していたがな」
でも、
「『吸血鬼種』との繋がりが見えた」
お医者さん 白衣がずぶ濡れ。
「吐け」
「血液、回してましたぁ!」
土下座する。
キョトンである。
だって吸血鬼だし。
裏取引で血液を回す、
ぬらりひょんの医者。
疑問はない。
妖怪同士だし。
ダメだけど。
「それだけか?」
「そ、それだ…」
それだけか?!!
うゎん!と建物が揺れる。
道仁さん、怖い…
毎度のことながら、
俺だけついていってない。
今回は 協力妖怪の粛清?
「正三さんよ」
千歳が口を開く。
「こちらの動きを流してたのよ」
すっかり「こちら」なんですね。
って え?
「御名答」
「『川北正三』を洗い直し、」
「無関係な『予定者』も背後を調べ、」
「手詰まりになった頃」
「こいつが浮上した」
道仁さんが 片目で睨む。
「いつも通りの仕事、」
「だったんだけどねぇ」
「情報を抜いたか」
「道仁、一つ貸しだぜ」
「うむ、」
「長い付き合い だったのにのう」
「滑川」
まんまじゃん。
名前まんま。
「すみません!!」
「このような事は 二度とぉ!!」
見事な、
ジャンピング土下座。
いつの間にか、
お医者さんの背後に山田が迫る。
「おまえよぉ、」
「何に情報売ってたのか、」
「わかってんだろ?」
「ひぃ!」
座布団から転げ落ちる、
お医者さん。
「渡しちゃダメだよね?」
いっそう 低い声で言う。
「誰に生かされてるの?おまえ」
あ、嫌な予感。
「俺と千歳、席外していいですか?」
「ああん?」
山田が睨む。
「おまえも『ぬらりひょん』だな」
ええ?
襟首を掴まれる。
「いつまで、のらくらしてんだ?」
「おまえが呼ばれた意味くらい、」
「解れよ」
キレられたというより、
先輩の説教な感じ。
とはいえ、
研修不足です。
ここにいる意味わかりません!
「仕方がない」
「絶対的に 知識が不足しておる」
「花畔、ぬらりひょんはな」
「幻惑種だ」
「我々の目さえ眩ますかもしれん」
そうなのか…
俺の役目は…
「逃がさねぇ事だよ」
「おまえの視界にいる限り、」
「おまえの『界』は抜けない」
「千歳殿も流石だな」
「確定せずとも 方向は明確だ」
多分、
相手が 帰りますと言えば、
俺は抵抗しない。
素直に帰す。
普通 そうでしょ?
相手が 帰る意思を見せなければ、
俺の『界』の中って事なのかな?
俺が一番、
俺を理解していない。
前に聞いた話だと、
「俺と他」って感じで分けてるって、
言われたんだけどな。
「心配せずとも…」
「何もここで、」
「凶事を起こそうとは思ってない」
「何より、」
「反省するよな?滑川」
「そ!!そりゃあもう!!」
顔を畳に…埋める?
「千歳殿?」
「嘘です」
この女怖い…
「彼は、」
「見た目以上に悪いです」
ん?今、
殺意 向けなかったか?
千歳に。
滑川と目が合う。
「ひぃ!」
後ずさる。
「何も悪さはしません!」
「だから閉めないで!」
目が泳いでいる というより、
キョロキョロしてる?
「お、いい具合だね」
「おまえ 便利だからよ」
「このまま手を貸せや」
「こっち側にさえいりゃ、」
「生かしておいてやる」
「誓いますぅ!!」
「もうやりません!!」
「だから出してくじゃさい!」
涙と鼻水でボロボロって、
こういう事言うのね。
「花畔、やめてやれ」
道仁さんに言われる。
「へ?」
「何を止めればいいんで?」
「今、アヤツは身動き取れん」
「『動いていい』と許可してやれ」
「えーと…動いていいですよ」
「…?」
ジタバタしながら、
また 畳に顔埋めてる。
「儂等にはな、」
「オヌシがアヤツに意識を向けた途端」
「アヤツの周りに、」
「『円』ができたのが見えた」
「そして、段々縮まっていった」
そういうことが、
知りたいのであろう?
はい、
実感ないけど、
そうだったんですね。
俺だけが、
俺の力が見えない…
「見たいと思って」
千歳が手を握ってきた。
途端、
視界の質が変わった。
何かが拡がった。
何枚ものレイヤーがかかり、
幾重もの情報が見える。
見えるものへの理解は…
無い。
お医者さんには、
まだ 丸い球体の覆いがかかってる。
直径で二メートル前後?
窓の外を見る。
シャボン玉の内側にいるような、
そんな感じに見える。
手を繋いだまま、
近づいてみる。
建物全体を、
一枚の膜が覆っている。
お医者さんにかかってる覆いと、
同じようなもの?
透明だが、
透明ではない。
「私の視界を 共有してみたわ」
「道仁さん」
「む?」
「俺、お医者さんの解放できてません」
「まだ覆われてます」
「なれば、取ってみよ」
だよね。
見えてるうちに、
コントロールというやつを…
へ?消えた?
何もしてない……
「必要がなくなったから消えたのよ」
千歳が手を離す。
「見たいと思って」
「私の補助がなくても、」
「周は 見えるはず」
「イチャついてんじゃないよ」
いや山田さん、
それは違う。




