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今年の秋  作者: 紫丁香
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8/10

決壊


地図の矢印が指すのは、


剣山温泉の奥、

ダム湖の脇、


「河童の里」


何が決壊するんだ?

こんなとこ。


そして、


車が地獄だ。


折り畳まれた道仁さんに、

寄りかかる山田さん。


ベタベタに前に出した、

助手席と運転席。


ハンドルが近くてかなわん。

俺の車、

軽だって言ってるじゃん。


誰も言葉を出せない。

そして、

捕まらない事を祈る運転。


……………………



半時ほどで集落の手前、

小川にかかる橋の前で停車する。


全員が身体をほぐしている。


疑問を投げる。


「で ここの何が決壊するんで?」

「ダム?」


「それを儂らに知らせてどうする」


そりゃそうだ。


しかし、

どうやって情報 回してるんだ?

この組織。


「本部にな、」

「異変を感知するとかいう、」

「おせっかいな セクションがあるんだよ」


「でも ここに何かあるなんて、」

「俺は しらねぇぞ?」


「『剣山』は、」

「そもそも霊山だ」


「修行の地でもある」

「修験者が開闢した温泉地だからな」


「だから…」

「『封』じはある」

「あるにはあるが…」


歴史があるんですねぇ。

何か計りかねてるようですけど。


「一つ ではないのだ…」



「あのぅ…」


千歳が口を開く。


「経験がないので なんですが」


「気になる事は言ってみなさい」


「お墓は気になりました」


お墓?

正三さんを仕舞ったとこ?


「ならば…」


と、一行はお墓に向かう。


そこには例の「童女」が正座し、

敷地の外から墓に向かって、

手を合わせてる。


「止まれ」


道仁さんが制する。


「あちゃ」


なに?山田さん?


「琥穴が開いてる」


「本来これは墓ではなく」

「封印の構造だ」


と、道仁さん。


「河童族が、」

「墓石代わりに使うのを、」

「黙認しておった」


俺には 何が何やらですが、

結局、何が何やら?


「噴き出してきおった」


童女がこちらに気づく。


「山が怒ってるのかの?」


「次第はわからん」

「が、封じねばなるまい」


「正三さんです」


千歳が言う。

目を閉じてる。


「遺骨…異物がある」


思えば千歳は、


去年の夏、

最初に異変を感じてた。


ただの、

ヤマカンだと思ってたけど、

こういうことなのか…


「おまえ 正三取って来い」


「ふあ?」


「おまえなら面倒なしに、」

「行って来い できるからよ」


「骨壺わかるだろ?」



改めて「墓地」を見る。


敷地を四角で囲み、

それぞれの頂点にお堂がある。


辺の真ん中に、

お墓の「塔」が立っている。

敷地の真ん中に大きめの「川中」。


仕舞ったのは「川北」。

その根元の土台。


名前から「東西南北」は、

「塔」が対応してると思ってたけど、


違う。


「川北」は北東だ。


鬼門だ…


童女に 一礼して、

正三さんの骨壺を取りに行く。


鈍感さが売りだが、

「川北」の塔には触りたくない。


振り返る。

全員が見てる…

はい、仕事します…



道仁さんが何やら念を送り、

骨壺の封を解く。


山田さんが慎重に開ける。


「ヤバいよな」


「気づかなんだ…」


「まさか、」

「おまえが 仕込んだんじゃねぇよな?」


俺を睨む。

俺が何をしたと…


道仁さんが懐紙を広げ、

骨壺の中身を出す。


そこには、

灰と幾ばくかの骨、

そして、


「護符?」


「呪符だ」


「平たく言うと、」

「『結界破り』の呪詛が書かれておる」


反射的に、


「俺、知りませんよ?」


「そりゃそうだな」


「オヌシにこれができるなら、」

「長い事誑かされたものだ」


「周に こんな高度なことできません」


庇ってるんだよね?

それ、庇ってるんだよね?


「一連を考えるとよ…」

「相当な『仕込み』じゃねぇか?これ」


「そうなるな」

「まず、」

「オヌシはこれを書け」


お習字セットとお手本…


「五枚書いておけ、頼むぞ」


そう言って「一連」について、

話し始める。


「先ほど言ったように、」

「ここは『古い封印』だ」


これまで、

問題はなかったが、と。


「この辺りは、」

「琥穴が 数個ある」


「『邪』を噴き出す、」

「最大の出口になりかねん」


「その『元栓』は もちろん」

「山全体を『封印』としている」


「でな、」


と山田さんが引き取る。


「何となくわかるだろ?」

「『東西南北』に『要』を据えて、」

「封じる形式って」


ここの墓も『元栓』だと。


「『川北正三』だ」


はい、正三さんです。

頭の禿げた 小粋なおじさん。


「『川北』が、」

「鬼門だと知っているって事だ」


あ…


「これを仕込んだやつは、」


「ここの理屈と」

「俺たちの仕事を」


「把握している」



「手が止まっておる」


あ、すみません。


「呪符を抜いたから 機能は戻るだろ」

「そいつは絆創膏だな」


はい、急ぎます。


「『川北正三の依頼』から、」

「洗い直さねばならんな」


千歳がやるせなさそうにしてる。


「周はともかく…」

「私も気づけなかった」


「時限だ」

「この日この時の仕掛けだよ」


「善意を利用するのは、」

「気分が悪いです」


「それよな」



無事に 絆創膏を貼り終わり、

道仁さんが 漏れ出たものを祓い、

とりあえずは終了した。


眺めてたら終わった。


「川北さん」


千歳が「童女」に声をかける。


「やっぱり故郷がいいですか?」


「わしはここで生まれた」

「生まれながらの『河童』だ」

「ここに溶けたい」


千歳が 童女を抱きしめた。


……………………



車の前で ミーティング中。


「『川北正三』の仔細については、」

「所長と洗い直す」


「オヌシらは解散でいい」


解散?


「儂は…」


車を一瞥して、


「走る」


走るんですか?


「キナクセェな」


腕組みして車に寄りかかる。

爪出さないでね。


「内部なんだよ」


「話の出どころが内部なんだ」


そういう 話をされると、

嫌でも あの人を思い出す。


やめよう。

噂をすれば影だ。


あれ?あの人、

ここに居たんだよな……


『封印の山』に。


痛っ


何でつねる?


千歳が睨む。


「介護施設のリストとやら、」

「俺にもくれな」


山田さんが千歳に言う。


山田さんは元々距離なしだが、

千歳が態度を不問にしてるのも、

珍しい事だ。


乱暴な人嫌いなのにね。


クルマは走り始める。

後部座席で爆睡する猫又と共に。


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