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今年の秋  作者: 紫丁香
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10/12

囮

滑川さんがフラフラと帰った後、


だだっ広い 荘厳な大広間の、

真ん中に四人。


落ち着かない。


窓のある壁以外から、

仏像やら、彫刻やら。

誰かしら、何かしらが、

こちらを見ている。


「彼は今後?」


「心掛け次第だな」

「アヤツ自体は狡いだけだ」


「今更 スパイみたいな真似して、」

「何 考えてやがんだ…」


爪を噛む 山田さん。


「セキュリティ甘くないですか?」


千歳?


「何らかの、」

「超常的な手段を使って、」


「対策を講じては、」

「いるんでしょうけど、」


「色々ゆるいです」


「確かに、」

「日常的な事は疎かだな」


バツが悪そうに、

道仁さんが頭をかく。


「悪いな スパイじゃないもんでな」


いやぁ あなた達、

スパイに負けないくらい、

秘密主義ですけどねぇ。


「滑川が 情報を流したのは分かった」


だが、


「彼奴等が そんなものを欲しがる、」

「理由が わからん」


謎が解けているようで、

全く解けていない。


そんな状態みたい。


まとめると、


こちら側の内部情報は、

滑川から漏れた。


漏洩先は、


「吸血鬼種」


その結果何があったか?


「川北正三」の、

骨壺に 呪符が仕込まれた。


目的は、

古い「琥穴」の解放。


誰が、どうやって、

骨壺に呪符を仕込んだのか。


その 途中は抜けているけど、


「要するに、」

「琥穴の解放が目的ですよね?」


「そうなるな」


「『動機』も抜けるけどな」


「何をしたいのかは 分からないけど、」

「何をしてるのかは 分かってる」


「そういう事ですね?」


千歳が立ち上がる。


「今日は帰ります。業務中なんで」


「道仁、世話かけたな」


山田さんも立ち上がる。


さてと、

立てない、


痺れてる。


……………………



山田さんは、

また 街に消えていく。


千歳を送りがてら…


「今も…あんな、」

「『膜』張ってるの?俺」


「タクシー全体に張ってるよ?」


そういや俺、

大きな事故って一度もないな…


「普段は、」

「『守りたいもの』に結界作ってるよ」


「私もその中に入ってる」


「何かを『拒否』した時は、」

「たまに 私にも見えないものが、」

「張られてる」


……………………



千歳も降ろし、

さて どうしようかなと、


まぁ 縄張りに戻るしか、

ないんだけどね。


そろそろ上がりだし。


信号待ちでのんびりし、

さぁ 発進とその時。


通り過ぎた交差点に…


居た。


笑みを浮かべていた……


……………………



あれから、


すぐに仕事を切り上げて、

でも 帰る気になれず、


かといって、

変なエンカウントも避けたいので、


「含笑寺」の鳥居をくぐった。


鳥居の内側は、

機能してさえいれば、

怪異を通さないはず…


で、寺なんだか 神社なんだか、

デザインがさっぱりなので、


鈴を鳴らす紐?のある、

建物の階段に腰掛けてる。


「タバコは吸えないな…」

まぁプルーム・テックなのだが、

神前での喫煙は憚られる。


なんでライトアップされてんだよ。


寺に偽装してる、

とか言ってたけど、


意味わからん。


真ん中のは三重塔っていうの?

赤金のギンギラギンが、

ライトアップでもっとギンギラギンだ。


なんでモアイがあるんだよ。

仏教と関係ある?


浅いプールの向こうのドームは何?


…。


わけわからん。


間違った日本感の映画みたいに、

間違った仏教感で作られた施設、

って感じ…


安全圏で少し、

昼間の復習などを試みる。


見えるはず。


そう言われた。


ならば見てみよう。

…どうやって?


というわけで、

座禅を組んでみる。


寝る。



振動がする。

スマホを取ろうとして、

吹っ飛ばしてしまった。


足が痺れてもつれて転ぶ…


やっとの思いで拾い上げ、

確認する。


例のアプリだが、

個人チャット……え?


これは…



ーー入れてくださいなーー



…帰れなくなってね?


……………………



「花畔、花畔」


耳元でイケボが響く。


ビクッ


跳ね起きた。

ああ、ここで夜を明かしたんだ。


「何をしておる?」


道仁さんこそ朝からフル装備?


「朝の修練だ」

「で、オヌシは何を?」


「えーっとですね…」


説明のために、

昨夜のチャットを…消えてる。


「説明が難しくなりました」


「期待しておらん」

「順を追え」


斯く斯く然々、と…


……………………



事務所に連行された。


今朝は賑わってる。


こんなに職員いたんだ。

あ、白人のエージェントさん。


「君は なにしてんの?」


所長に呆れられた。


「まぁ。話を聞くと由々しき感じでな」

「個人チャット」

「エージェント同士の 連絡手段だ」


「除名されてる者が使えるか?」


「それは不可能というより、」

「させない努力をするだろうね」


「こういう機械は…」

「僕は信用しないけどね」


と所長。


メンバーシップ、

みたいなものだからね。


退会したら、

そりゃ使えない。


普通は。


「名乗りもせず、」

「名前表示もなかったそうだが、」

「内容から送り主は」


「上津絵里だ」


気のせい かとも思いたかったが、


「昨日の昼間も…見た気がします」


「ストーカーだねぇ」

「怖い怖い…」


いや 軽くね?


「警護…は、必要あるまいが」


無いの?


「近づき方が 気に食わん」

「精神を追い詰めるやり方だ」


「いっそのことさ、」

「会ってみちゃったら?」


道仁さんと所長を見る。


「例の謎かけもあるしさ、」

「聞いてきてよ」


「それはいくら何でも…」

「有りか」


有りなんですか?


難題だ。


ストーカーに会うの難しくね?


「しばらく出会うかも と思って」

「生活してよ」


「嫌らしい接触してきたら、」

「会う事を提案してね」


「一人で?」


「一人で」


「でなきゃ会ってくれないよ」


………………………



接触作戦、

続行中である。


しばらく外泊してる。

ビジネスホテルのモーニングは、

意外といける。


何にせよ、

千歳と、灰と黒が無事なのを祈る。

あいつ前科あるからな…


ああ、猫成分が足りない…


「よう」


…猫又成分じゃない。


「こんなところかよ」

「おまえ、上津と何するつもりだ?」


何するつもりも、

ありませんけど?!


「進捗は?」


「ご覧の通りですね」


「囮とバレたよな」


「そうでしょうねぇ、」

「あの人達 頭いいんでしょ?」


こんな釣りみたいな真似に、

食いつくと思えない。


「ノリで作戦やってますけど」

「俺 無事なんですかね?」


「面白い聞き方するよな、」

「相変わらず」


「束でこられたら、」

「俺なんか 余裕っすよ?」


「少しは頑張れよ…」


「まぁ 奴らのやり口考えたら」

「おまえの女の方が危ないと、」

「思うけどな」


その懸念はしてたけど…


「一応 そっちは道仁さんが」


「あの狸は抜かりないわな」


所長のことかな?

どちらかと言うと狐っぽい。


「昼間は仕事だろ?」


「はい」


「また 声かけるわ」


と言って、

山田さんは颯爽と消えた。


そろそろ出勤するか。


……………………



いつもと言えばいつもだが、


仕事に身が入らない。


違う事考えよう。

「河童の里」は無事だろうか?


あの時、

骨壺は封印されてた。


封印されてる物は、

「感染者」は開けられない。


ということは、


手品の種としては、

「閉める前に入れる」が、

物理的に正しい。


本当はダメだけど、

道仁さんと所長は除外する。

疑いたくない。


なら、火葬場か。


火葬場の職員も、

手伝ってくれたよな。


俺はタクシープールを出た。


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