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今年の秋  作者: 紫丁香
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11/16

火葬場

あの日は大変だった。


連れて行かれたのは 稲穂区。

含笑寺は 南区。


S市は 東西南北の区分けと、

外周に 地区名のついた区がある。


南区は 温泉郷も含めた市の外れ。


南区と稲穂区を分けるのは、

大きな山だったりする。


あの時は 急かされたので、

普段は使わない 山道を爆走したが、


大抵は 山を回るのがルートである。


施設→稲穂区

含笑寺→南区

火葬場→稲穂区


あの日は、

こういうルートだった。


火葬場は 市に二ヶ所しかなく、

地区によって指定されている。


施設が稲穂区なので、

稲穂区の火葬場……


うちの仕事の性格上、

こういう所とは 繋がりあるよね。


今ならわかる。



……………………




稲穂火葬場。


古びた、

錆びたコンクリートな感じ。


今日も煙が上がってる。


あの日は…誰が来てた?


俺と所長と道仁さん。

家族はいない。


職員とは、

顔馴染みのようだった。


骨を骨壺に納めたのは、

全員。



行くか。



「ちわっす」


事務室に顔を出す。


「あ、どうも、」

「どうしました?」


と、小太りの職員が返す。


「ちょっと前に、」

「葬儀屋だけで来たじゃないですか?」


「そうなんですか?」


「その時の職員さん居ます?」


「何日ですかね?」


壁にかかった予定表を見る。


びっしり書かれてるが、

……ああ、これこれ。


「この日ですね」


「ああ…」

「今 作業中ですね」


「そうすか、」

「声かけていいですかね?」


「作業中はダメです」



と いうわけで、

待合室でコーヒータイムです。


待合室には、

終わりを待ってるどこかの家族。


俺が待ってたのは、

もっと古びたところだったな。


でも 火葬場の景色なんて、

どこも大して変わらない気がする。


さて、


その時の手順を考える。

俺と、所長と、道仁さんと、職員で、

骨を拾った。


骨壺に僅かながらの骨を入れた。


まさに、

ここで、この場所で、

道仁さんが「封」をした。


「封」の後は、

怪異は開けられないし、

人が開けるとバレる。


なら、

チャンスは骨を拾ってる時。


俺を除外すると、

所長、道仁さん、職員。


その職員が 家族を呼びに来た。


間違いなく この人だ。


でも、

まだ仕事中だね。

働く人を邪魔しちゃいけない。


少し散策しよう。

怒られない程度に。



裏手に来ると 碑文があった。


…鎮魂しか読めない。


こういうのも、

結界だったりするのだろうか。


ふと 考えがよぎる。


俺 程度が考える事、

あの人達が見過ごすか?


途端に、

くだらない事してる気になる。


帰るか?


「何の用で?」


振り返ると、

あの職員だ。


ビックリした。


「あ…」

「仕事はもういいんですか?」


「まぁ、で、何か?」


「俺の事 覚えてます?」


全然、


と言うので 次第を説明する。


「ああ、あの時の…」


ここからが正念場だね。

無駄足かもしれないけど。


「あの時…」

「何か…いつもと違うこと…」

「というか…」

「なんか、変わったことありません」

「でした?」


しどろ もどろ になった…


「あまり 覚えてないけど…」

「骨 詰めただけですよね?」


「いつもと同じ、ですか?」


「いつも、ってのが、」

「どんな感じやらですね」


「毎日 同じですよ」

「炉の温度見て……」

「骨 拾うの見て…」


ん?


「普段は拾わない?」


「そりゃ…」

「家族の仕事ですから」

「手本は見せますけど」


俺たちは、

業務だったもんね。


「あの時、」

「何を 燃やしたか?は、」

「知ってますよね?」


「え?燃やすものなんて、」

「いつも同じだよね?」


「…うちの職員から、」

「依頼されたんですよね?」


「だと、思いますね」

「記憶が曖昧ですけど」


「……誰かから」

「何か 入れるように頼まれた、」

「とかは?」


「ない ですね」

「本当に、」

「あまり 覚えてないんですよ」


ありがとうございました。



…………………




タクシーにもたれて、

一服。


さて、

さっきまでを思い出す。


彼は、

嘘などついていない。


そして、

おそらく 背後関係なんかは、

調べがついてる。


優秀な先輩達が、

容疑者を見逃すはずがない。


でも 最近 覚えたことがある。


認知は、

揺らせるんだそうだ。


俺が、

廃墟を、

アンティークで、

お洒落な、

不動産屋だと、

思わされたように、


自分の行動を、

違う記憶に、


されたかもしれない。


『あまり 覚えてない』


俺も そうだった。


覚えて なさすぎる。


彼は、


うちの所長とは、

長い付き合いみたいなんだ。



この仕事、

大変だな と改めて思ったよ。


犯人が、

犯行を 覚えてないんだから。


そして、

考えたくはないんだけど、


川北正三。

頭の禿げた 小粋なおじさん。


予定者と言われていた。


何を予定していたんだろうね。

人として 死にたいと、

願った彼らは。


剣山の決壊は、

正三さんの死が前提だった。


「川北」の誰か、

でもよかったのかな。


正三さんは、

望んで 予定を立てたんだろうか?


認識阻害。

認知操作。

認知を揺らす。


望まぬ事をやって、

忘れては いないだろうか?



そして、

俺は これを報連相するのを、

躊躇する。


自分を信じられないのに、

他人を信じられる わけがない。



まずは、仕事に戻ろう。


街が色付いている。

北国の秋は早い。


景色に 見惚れながら、

エンジンをかける。


ここは 高台なので 、

見晴らしがいい。

多分、夜景もいい感じだろう。


場所が場所だけど。


「仕事…したくないなぁ」


つい口に出た。


「なら、デートします?」


………!


そういうの やめてください。


危うく 道踏み外して、

崖に 真っ逆様ですよ。


色んな意味で。


「どうやって入ったんです?」


「常時結界」を

車ごと張ってるはず。


「最初から、いましたよ?」


盲点。


中に取り込んじゃ、

結界もへったくれもない。


「今なら、貴方に触れそう…」

「あら、残念」


どうやら無意識で、

バリア張ったらしい。


ちょっと ざ…

なんでもない。


「で、何の用ですか?」


「だから、デートしましょ?」


「業務中です」


「どっちの?」


ああ、もういい匂いする。


「もう 乗っちゃったから、」

「メーター回しますよ?」

「ドラレコ 映ってますからね!」


「どちらへ?」


ケラケラと笑う、絵里さん。


笑うと とても幼い。


何者なのか 忘れてしまうほどに、


可愛い。


「なら、」

「H市へ…」


「勘弁してくださいよ…」


何時間も持ちません。

何が?


「伝言、伝わりました?」


「はいはい。あれなんです?」


「親切心」


「今頃、」

「大変なことに、なってますよ?」


「ドンズバで」

「謎解き苦手です」


「そんなこと、ないでしょう?」


「だって、」


「貴方は、」


「ここに来た…」


座席の隙間から、

囁かないでください。


「剣山の結界は…」

「開いたからといって、」

「即、」

「望みが叶うわけじゃ、ないんです」


「わかります?」


望みがわからないので、

何にもわかりません。


「望みとは?」


「面白いこと…」


あの時もそんな事言ってたか。

破滅願望っぽい…


「このままだと、」

「私、」

「貴方の結界の中で、」

「いつまでも、囚われたまま」


「帰れないんですけど、」

「よろしくて?」


思いつく。


「このまま、事務所行きますか?」


「怒られますよ?」


怒られるかも…


一番近い、

地下鉄駅に停める。


この人に 公共交通機関、

意味なさそうだけど。


でも、

中に入られたら、

帰ってもらうしかない。


「降りてください」

「ここは奢っときます」


クスッと笑い、


「また、会いましょうね」


助手席から俺を覗きながら、


消えた。


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