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今年の秋  作者: 紫丁香
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6/10

裸の付き合い

「ダムがの」

「村を分けたんじゃ」

「住めるのは北だけじゃった」


「もちろん わしらは河童じゃ」

「水は歓迎だがの」

「あればいい ってものでもない」


よくある、

開発の犠牲って感じなのかな。


「みんな変化を覚えて、」

「散り散りになったよ」


「わしは、」

「ここでしか生きられん」


「たまに の」

「出てった者が、」

「寂しゅうなって、」

「ここに帰ってくるんだ」


「骨での」


言葉もない。


「これから、どうするの?」


千歳が訊く。


「どうもせん」

「そのうち 変化も使えなくなって」

「溶けて消えるだけじゃ」



「ここ 出たらいいのに……」


千歳につねられた。


「また、来てもいい?」


「いつでも来やれ」

「何の持てなしもできんがの」

「立ち話で ごめんよ」



車に戻り、

元来た道の途中、

千歳が止めてという。


集落全体を眺める。


観光になるほどの紅葉だ。

とても……


遠くには 件のダム湖が見える。


「こういうことだったのね」


千歳は聡い。


「人は人のために、」

「何にでも手を加える」

「何を壊したか……」

「わかってないわ」


何を言わんとしてるのか……


俺は鈍い。


千歳には、

千歳にしか見えない世界がある。

ただ、そう感じた。



「もう、いちいち止めない」


何を?


「『調査会社』よ」


「連れてきてくれて、」

「ありがとう」


俺 何も説明してないよ?

何なら、

騙し討ちしたって 罪悪感あるよ?


どこまで理解しちゃったの?


「斡旋された人達は、」

「みんな大人しかった、」


「何か悟ったような感じで、」

「次の日、亡くなった」


「理由がわかったわ」


あ、エンパシー。

そんな事言ってたな。


千歳はエンパスだと。


理屈で解るのではなく、

感じる人だったんだ。




なんとなく、

一言の会話もないまま、


通り過ぎた目的地に戻る。


午後三時も回ってしまったが、

お昼ご飯である。


この温泉は、

ご飯のインターナショナルだ。


二人でジンギスカンをつつく。

そして、俺は手打ちそば。

千歳は、本格インドカレー。


普段の憂さを晴らすように、

食べる。


話題は、

この間の山田さんとのドライブ。


「私も行きたい」


「そりゃそうだよな、」

「俺も物見遊山で行きたいさ」


「神社に行ったんだって?」


「そう、未だになんだったのか、」

「よくわかってないんだけどね」


「観光もいいけど、」

「冒険がしたい」


「なんですと?」


「私は、心配八割、」

「少し、嫉妬もあった」


「周は、」

「その能力を活かしている」


「活かしてません」

「僕に能力なんかありません」


「昔から、」

「『こっち側』なのに、」

「気づかないフリするよね」


イタズラっぽく笑う。


なんか誰かに……


ああ、山田さんだ。


『おまえ、』

『もともと こっち側なんだよ』


こっちって どっち?


俺は、

霊感とかないし、

幽霊も見えないし、

魑魅魍魎のスタンピードなんて、

見てない。


超常現象なんて 経験したこともない。

あ、それは嘘か。


とにかく、


「こっちって どっち?」


そのまま口に出た。


「能力のある側」


「ないって」


「わからないだけだよ」

「だって周の『界』?」


「何もかも、」

「周に見せないんだもの」



……………………




ライトアップされた、

水車が回ってる。


ただのオブジェなのだが、

文字通り「湯水の如く」溢れる、

温泉の湯量の賜物である。


どうなってるんだろ?

温泉の川?みたいな状態?


湯船が段々になっていて、

上から下へと流れていく。


下方は女性専用。


造りによって、

上手い事 下は覗けない。


極楽である。


人生も、

この温泉のように、

ぬるま湯であってほしい……


なのに…。


最近、

周りが騒がしいなぁ。


みんなが 俺を認めてくれている。

あまりそんな事ないので戸惑ってる。

その理由が 俺には一向にわからない。


俺自身は 俺の功績を見ていない。


本当に 役に立ってるのだろうか?



……………………




千歳が 休憩場で、

できあがっていた。


一、二、さん?

三缶?


ポテトフライを肴に、

一人宴会をしていた。


まぁ 温泉の醍醐味だわな。


「遅い」


ん?ななめ?ご機嫌……


目が据わってますが?


「あんた」

「浮気してんの?」


「藪から棒に 何言っちゃってんの?」


と、抵抗してみたものの、

既に襟首を捕まえられている。


「いつの間に、」

「あんな、とんでもない美人と、」

「いちゃついてんのよ?」


記憶にない。

そんな記憶はない。

覚えてないなんて、勿体無い。


「周の魅力をトコトン語ってたわよ?」

「そりゃもう、」

「恋する乙女の眼だったけど?」


騙されてる。

君は騙されてる。

俺は、

そんな恵まれた人生、歩んでない。


「宣戦布告されたんだけど?」


なんなの?

どうしたらいいの?


情けなさを承知で言い訳すると、


俺はモテない。

圧倒的にモテない。


奇跡的に側にいる人を、

出し抜いてまで浮気するような、

才覚はない。


「何かの間違いです」

「誰が何と言っても」

「何かの間違いです」


「あなたに惑わされた、と」

「仰ってましたけど?」


「落ち着け」

「俺が、」

「そんなにいい男に見えるか?」


落ち着いた。


納得したらしい。


orz


「だとしたら……」

「周は厄介ごとに、」

「巻き込まれてるんじゃない?」


うん、巻き込まれてるけど。

多分、言ってる事は違う。


「なんか 捨てちゃった記憶ない?」

「誰かに会ったとか……」


あ……

思い出した……

でも、

これを誤解なく説明する自信がない……


「えーっと……」

「俺は 妻帯者だと宣言しました!」


「はぁ?」


ところで、

どんな女性だったの?


それを訊くべきだよね、

きっと。


「儚げで……」

「透き通った……」

「今にも折れそうな……」

「とても……」

「白い肌…」

「でも黒い…」

「怖い……美人」



俺が思い出してる、

女性だったとしたら……


そんな怖い人と、

裸のお付き合い しちゃったわけ?


「裸の具合でも負けてて、」

「少し、悔しい」


いや そこはどうでもよくて、


「触られてないよね?」


「囁かれたけどね」


「どんな女の戦いしてるの?」


というか、

何でここにいるの?


温泉に入るもんなの?

ああいう人……


冷えた。


ぬるま湯でヌクヌクしてたのに、

一気に冷えた。


「伝えてって 言われたわ、」


「『貴方達、失敗してるわよ』って」


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