黒装束
目を逸らしたい。
今日も今日とて、
縄張りの地下鉄駅ターミナル。
のんびりと仕事したいんですよ。
なのに、
「メン・イン・ブラック」
みたいな 黒スーツを決めた、
でっかいオジサンと、
ちっさいオジサンが、
前から歩いて来る。
「やあ お願いできるかい?」
ちっさいオジサン、所長が、
サングラスの奥から 微笑みかける。
「ちと急いでおる」
「まず事務所にやってくれ」
でっかいオジサン、道仁さんが、
身体を捩じ込みながら言う。
今日も仕事終了かな……。
ボロい青い建物の前につける。
「車を 裏に回しておいてくれ」
「乗り換えてもらう」
と言いながら、
小銭単位までキチンと払ってくれた。
「領収書頼むよ」
……。
裏手に駐車場があるとは、
知らなんだ。
何?
この長い車。
この金のシャチホコは……。
その長い車の横に停めながら、
嫌な予感をビシビシ感じる。
「はい」
……黒い帽子と、黒いネクタイ。
「稲穂区へ行くよ」
「ほら 早く こっちこっち」
やっぱり これですか?
……霊柩車。
俺 何やらされるんだろう。
どう考えても、
この車で運ぶものは決まってる。
「死亡 ロンダリングですか?」
「ロンダリングじゃないってば」
「遺体を回収する」
「時間との勝負だ」
いや、道仁さん。
いつもの「黒いジェダイ」じゃないですが、
それも かなり怖いですよ?
長髪を引っ詰めた
ターミネーターです。
「……どの辺です?」
諦めた。
「グループホーム『ほのか』だ」
やっぱり、
『死亡 ロンダリング』の類だ。
そこは 千歳の会社の系列……。
…………
目を疑った。
道仁さんが 笑ってる。
所長と一緒に愛想よく、
葬儀会社の職員になってる。
俺は手際の悪い運転手だ。
モタモタしながらも、
遺体を車に運び込む。
「またのご利用をお願いいたします」
深々とお辞儀をし、
施設を後にする。
「次は『含笑寺』だ」
何だ?
その楽しそうなお寺。
「すみません 流石にわかりません」
「住所は……」
スマホを見せられる。
南区じゃないか、山の裏だよ。
「十五分以内で」
「無理です」
ボロボロの山道を越えるしかない……。
タクシードライバーは、
こういうプロじゃない。
お客様を安全に目的地に運ぶ。
そういうプロだ。
山道を百キロ超えで、
爆走するプロじゃない。
棺桶 跳ねてるんだけど……。
それにしても、
こんな山奥に、
こんな楽しそうな名前の、
お寺があるとは知らなんだ。
……名前通りなんだけど。
カーブを曲がると、
目に飛び込んできたのは、
満面の笑みを浮かべた、
「寝観音」
しかも 人が住めるほどデカい。
その足元の 派手な鳥居を抜けると、
これまた 派手な建物が見えて来る。
何なの その 赤と金のギンギラギン。
傍に停めて 棺桶を運ぶ。
何やら 儀式用の準備がされている。
「よし、そこに丁寧に置け」
いつもの「黒いジェダイ」がいた。
お寺 全体が震えるような いい声で、
祝詞を上げている。
「……終了だ」
「間に合ったかい?」
「ちゃんと残った」
話が見えない。
「花畔のお陰で、」
「不浄なものも入らなかったからな」
お役に立ったようで…。
「察するに…」
「その遺体は『感染者』?」
「左様」
「これは何だったんです?」
「『感染者』を浄化する事で、」
「遺体を残せるのだ」
ああ その為に……。
「道仁さんが住職とは、」
「知りませんでした」
「ここは『神社』ぞ?」
「こんなド派手な神社がありますか」
「故あって隠匿しておる」
悪事に聞こえますが……。
ここまで、
何の説明も受けずにきましたが、
何をやったか?は、理解した。
「この方は どんな『感染者』で?」
「所謂 『河童』だよ」
「頭の禿げた 小粋なおじさんって、」
「みんなに 慕われてたよ」
「子供たちにも 懐かれててね」
「カッパだ カッパだって…」
面白すぎて 話が入って来ない。
「まさか、」
「『予定』を選ぶなんてね…」
予定?
「『河童の里』に埋葬してほしい、」
「そういう 話だったな?」
どこだよ それ。温泉街?
「まず、火葬だね」
「火葬するんですか?」
「『普通の人間』として扱うのだ」
「長い事、」
「『妖怪』としての 生を強いられた」
「解放されてもよいだろう」
何だか切ない……。
「本人は明るく生きたよ」
「河童でよかったね」
そういうもんか?
河童だって、
恐ろしい伝承あったぞ?
「発症としては、」
「『半魚人』に近い」
「水辺から離れられず、」
「鱗と水掻きを備える、」
「それ以外は、人と変わらん」
「変化を覚えれば、」
「まぁ 誤魔化して生きられるよ」
知らない事だらけだ。
知りたい話でもないんだけど。
「オヌシには 遺骨を届けてもらいたい」
「俺ですか?」
「これも修行よ」
「『感染者』の営みを見てきなさい」
噛まれなきゃ、
うつらないんだろうけど……。
「南区温泉郷だぞ?」
「行かせてください」




