遠出
俺の仕事の時間帯は日勤だ。
夜勤なんてまっぴらだ。
と言っても、
朝も起きれないから、
昼前から夕方過ぎくらいまでだ。
わがままが利くから、
勤められている。
いつものように、
田舎の地下鉄ターミナルの、
タクシープールに入る。
走り回って事故もまっぴら。
この待機時間がいい。
なんか小汚い男がこちらへ来る。
この車、先頭じゃないけど?
ボンネットを、ドン!ってする。
やめてよ……。
「はなちゃん、おはよう」
「花畔、ばんなぐろです」
「いいからさ、H市にやってよ」
「なんですと?」
「H市だよ」
「間違いじゃなくて?」
「間違ってねーよ」
「……何時間かかると思ってるの?」
「ドライブしようぜ」
「俺の勤務時間じゃ、」
「行き帰り できないんだけど?」
会社には、
客が行けって言うんだから、
仕方ないだろ。
で、押し通した。
高速使っても、
五時間はかかるんだけど?
本気?
「お仕事だよ、はなちゃん」
「五時間も一緒って、」
「遠慮したいんだけど……」
寝た。
走り始めたら 一瞬で寝た。
まぁ、
山田さんは昼も夜もなく、
仕事してるんだろうけどね。
五時間、
一人で走るってのも、
なかなか……。
………………
この方向だと 西陽が眩しい。
高速を出て コンビニに寄る。
目を覚ましたみたいなので、
「コーヒーでも飲みます?」
「ん……しょんべん」
目を擦りつつ、
フラフラな先輩を介助する。
しばし、休憩。
お互い 電子タバコの類だが、
何故か 灰皿の周りに、
たむろするんだよね。
「で、H市そのものに、」
「向かえばいいんですか?」
「越えるんだよな」
「M町の手前なんだよ」
「さらに二時間なんですけど」
「今日は帰れないかもな」
カカカと笑う。
この、猫又は……。
H市に入った途端に、
市内とは違うルートに行く。
海に出るとコンビナートが見える。
ここは 夜景が綺麗なんだよな。
「着く頃には暗いですね」
「願ったり、叶ったりだよ」
「そろそろ 何しに行くのか、」
「教えてくれます?」
「はなちゃんは、運転手」
「また それですか?」
「嘘だよ。俺の護衛かな」
この人の何を護れと?
……………………
「多分 この辺だなぁ……」
と、言いながら、
スマホをポチポチしてる。
「あ、あれ、木の看板」
右側に 板を挿したような看板が見える。
曲がりながら それに目をやる。
「津曲神社」
「よし そのまま道なり」
また砂利道だよ……。
鬱蒼とした森である。
目的地は またまた藪の中である。
雑草の中に 鳥居が生えてる。
「ここ行くんですか?」
「かなりあるぞ」
そう言ってライトを点ける。
「ここまで来て、」
「肝試しとか言わないですよね?」
「近いかもな」
境内だったのだろうけど、
石畳の隙間から雑草が生えて、
気味が悪い事この上ない。
え?
何、この階段。
暗いせいか、
途方もなく長く急な階段に見える。
遥か彼方にまた鳥居……。
「……登るんですか?」
あえて聞く。
「登りたくねぇな」
あんたもかい。
息も絶え絶えに 辿り着いた。
鳥居の前で座り込む。
「……廃神社ってとこですか?」
ボロボロだった。
来るまでに十分 悟ってたけど、
長い間 人の出入りは無いみたいだ。
「廃……じゃないから、」
「困っちゃうんだよな」
奥を睨みながら、
「本来なら、」
「ここから先に行くの、」
「至難の業なんだよ」
「そこで、はなちゃんの登場さ」
え?
「行きたくないでしょ?」
「そりゃあ、もう……」
「よし、結界完成」
どういうことですか……。
「で、もう一つ仕事」
と言って、
ポケットから何やらケースを出す。
簡易お習字セット?
「手本 見せるから、」
「はなちゃんが書いて」
折り畳んだ紙を広げると、
何やら、
文言がびっしりと書いてある。
「照らしてるからさ、」
「一言一句、」
「間違わないで書いてね」
何回か失敗した。
だって、
字というより絵なんだもん。
まぁ俺だってコレが、
御札の類なのはわかる。
何故、俺が書く?
「『契約』と同じなんだよ」
「おまえが『鎮め』の文言を書いた」
「効果バツグンだと思わない?」
いや よくわからん。
そういうのって、なんか こう、
修行した人が、
やるもんじゃないの?
「才能だよ、才能」
「俺がやるより余程効果あるの」
これも修行と、
そういう事ですか。
「さ、本番だぞ?」
鳥居で一礼だけした。
「ここから先は神社だと思うな」
「異界だと思え」
急にピリッとした。
五十メートル程先に、
ボロボロの本殿が見える。
「扉を塞ぐように、間に貼れ」
崩れかけ、
灰色に染まった建物の、
軋む階段を登り、
ご指定の場所に貼る。
パシ!
何かが弾けた。
「うん、よし上手く行った」
確かに重苦しい空気が、
消えたように感じた。
「こんなところでも、」
「重要だったりするんですか?」
「ここもな、」
「琥穴なんだよ」
……………
タクシーメーターが、
見たことのない数字になってる。
「稼いだな」
「ありがたくはあるんですけど、」
「どうします?」
「夜引いて帰ります?」
「ここに長居はしたくねぇな」
「ところで、」
「本来なら入るの至難の業って、」
「何が問題だったんですか?」
「おまえ……」
「まだ『琥穴』を理解してないな」
してるとは言い難い……。
「封印したのはわかるよな?」
「なんとなく……」
「うーん、例えばよ」
「ダンジョンが崩壊したら、」
「どーなる?」
「魔物が溢れる?」
「そういう事だよ」
「溢れてたんですか?」
「はなちゃんがいなきゃ、」
「バトルだよ」
「だから、」
「なんで、」
「やる前に説明しないんですか?」
「スムーズに進むように、」
「段取りしたじゃんか」
もう、嫌だ……。




