理
「二重に結界を張るなど、」
「そら 恐ろしいな」
と、結界に包まれながら
道仁さんが言う。
先ほど 鳥居に張ったのは、
予定してた「強化」の護符みたい。
確かに 鳥居そのものの、
結界強度が上がってる?
ような気がする。
俺は 境内に張った、
シャボン玉を解く。
慎重に解く。
「消滅」させたら大変だ。
自分達を包む 結界が揺らぐ。
慌てて直す、
全然 慣れない…
「全く 無茶をするな」
いや、道仁さん。
なんで 汗だくで、
いつもより 引っ詰め髪なんですか?
そのタスキは何?
「電車があさっての方に行くのでな」
「飛び降りて 走ってきた」
色々、おかしい。
「山田は どうした」
「…封印すると言って 中に」
「愚かな…」
のんびり会話してるようだけど、
周りが、
黒く濃い瘴気に包まれていく。
早く 元栓を閉じないと、
ジリ貧なのは 今も変わらない。
「アヤツ死ぬ気か?」
え?
「理に反する」
「入るのを 許可されている者が、」
「鍵を掛けるなど 許されるわけがない」
「…理に反すると、」
「どうなるんですか?」
「神罰が下る」
「余力は あるな?」
「ここは儂が抑える」
「オヌシらは 山田を助けに行け」
「急がねば アヤツは死ぬ」
二の足を踏む。
千歳の顔を見る。
にわか エージェントには、
重すぎる任務だ。
まして、俺は、
「遊び人」だ…
千歳が 手を強く握る。
いや、強すぎ…
「千歳?」
「行くのよ」
いや、泣いてますけど?
「やらないと、」
「みんなが 大変…」
「千歳殿に 手を引かれれば、」
「半人前の オヌシでも、」
「成せるであろうよ」
リスペクトがすごい。
そして 渡される習字セット。
「オヌシの『封』の方が、」
「強い」
「行ってこい」
……………………
朽ち果てた本殿は、
神社としては 何の変哲もない。
朽ちてるだけ。
奥の壁が、
ぶっ壊されてる のだけが目立つ。
人間の本能だろうか。
行く先を 手持ちのライトで、
照らしてしまう。
千歳と手を繋いだ俺の視界は、
見えない暗闇を、
ヤマカンで歩いてる感じを、
視覚化したような、
わけのわからない状態だ。
霊能者って、
こんな視界なのだろうか?
見えてる というより、
頭の中で像を結んでる。
ぶっ壊された壁を抜けると…
まんま ダンジョンじゃん。
宝物が出てきそうな 洞窟だ。
「どの辺にいるか、」
「わかるもん?」
「なんとなく…」
「道が枝分かれし過ぎ、」
「山田さんと…」
「琥穴を感じる」
「こっち」
手を引かれる。
結界に 喧嘩を売る骸骨は、
無視しておく。
「他にも、」
「何かいる」
嫌なフラグ立ったな。
……………………
明確な階段はないけど、
どんどん下ってるのは 分かる。
こんな状態じゃなかったら、
探索してみたいものだ。
水晶のクラスターもある。
千歳がいないと 迷子だろうけど。
「まだ煙が消えないとこ見ると、」
「封印できてない ってことだよな」
「多分そう」
「そろそろ 近いんだけど…」
「まずいかな…」
立ち止まる。
「伝わる?」
手に少し力が入る。
見えた。
…何やってんの?バトル?
しかも 押されてる?
千歳の手を引き、走る。
ビンタされて 吹っ飛ぶ、
山田さん。
ボロボロじゃん、
どんだけ戦ってたの?
なんか「シャー!」の、
状態になってるけど 大丈夫?
瘴気にやられてない?
「聞き分け、悪いんですよ」
「この子」
…!
黒い煙より、
黒い人がいる。
「私、を殺した……」
「私、の子供」
まともに ぶつかったら、
山田さんでも無理なのか…
「私の元に、帰りなさい?」
「貴方も、」
俺を見る。
艶やかな瞳で…
「私の手を、取りなさい?」
山田さんが殴りかかる。
何度目のトライなんだろう?
拳を取られて、
転がされる。
引っかかったのは これなんだ。
山田さんが、
便利アイテムを持ってるなら、
他にもある。
当たり前の話だ。
本当に 遊んでくれたんだな。
「なぁ、絵里さん!」
絵里さんを包む。
シャボン玉の向こうで、
破壊的に美しく笑う。
「からかうの、」
「やめてくださいよ」
「だって」
「貴方達、面白いわ」
唇に指を当てて、
片目を瞑る。
おーっと、千歳、ステイ。
「俺、少し、」
「能力使えるようになったんですよ」
「あなたを包む『界』」
「あなたごと消せるんです」
「消したい?」
首を傾げる。
「…やれ…すぐやれ」
息も絶え絶えの猫が呻く。
でも…
シャボン玉を解く。
「今の俺じゃ 無理ですね」
「逃げようと思ったら」
「楽勝でしょ」
「意度」が違い過ぎる。
それくらい感じる。
「いい子ね」
前も、今も、いつでも、
この人は、俺を、俺達を、
即座に殺せる。
しない理由が、
千歳のおかげで伝わる。
「どんなに誘っても、」
「あなたの仲間にはなりませんよ」
「無粋ね」
「成って欲しいのは、」
「仲間じゃないわ」
「人の男に、」
「手ェ出してんじゃないわよ!」
千歳!ステイってば!
「貴女、気持ち悪いわ!」
いや 直球の悪口。
ほら、絵里さん笑い出した。
「ご飯の分際で、」
「生意気ね?」
「でも、」
「貴女も、欲しいわ」
「わかる?」
「生きたければ、」
「私と、同じになるしかないの」
「そこの、猫ちゃんも」
「私の、ものなの」
愛おしそうに、
猫又を見つめる。
「これから どうするんです?」
こっちを見る。
「入るのを許可された怪異 は、」
「結界を 弄れませんよ?」
「理を、学んだんですね」
鍵をかけられないなら、
開けることだって、
できない。
そこで キョトンとしないの、
山田さん。
「貴方に、壊してもらいたい」
「しませんよ」
「塞ぐんです」
「貴方なら、王になれるのに…」
なんの?
「私の、望みは…」
「叶わないわね」
「叶いそうにない…」
「貴方は、やらない」
「私は、やらせられない」
「押し通すと、」
「みんな、死ぬわ」
「それは、嫌…」
憂い顔で 目を伏せる…
動作の一つ一つが、もう…
「じゃ、帰ってください」
真顔で見られる。
「何もできないなら、」
「帰ってください」
「あ、山田さんに謝って」
俺 何言ってんだろ…。
あれ?
山田さん撫でられてる。
「ごめんね…」
と言って 闇に消えた…。
……。
わけわからん。
脱力する。
「山田さん 大丈夫?」
ぶすくれてる。
「何で トドメ刺さねぇんだよ」
「言ったでしょ、」
「俺程度じゃ 無理なんですよ」
「これも『あちら と こちら』、」
「なのかな…」
千歳が、
なんか意味深なこと言ってる。
とにかく、
「まず、封印しましょう」
「道仁さんが 倒れる前に」




