本番
あの日 気になった事がある。
「まぁ 入れないよね」
「一応は 閉じてるよ うん」
所長の言葉だ。
「調査会社」に怪異は入れない。
あまりにも可愛らしくて、
忘れがちだが、
あの猫又…山田さんは 怪異だ。
不幸にも「感染者」に噛まれて、
伝染した 怪異だ。
思えば、逃亡してる時から、
事務所で 偉そうにしてた。
津曲神社でも、
偉そうにしてた。
いつも 偉そうにしてる。
何故 入れる?
そのカラクリを、
道中に訊いてみた。
ほれ。
と、男前な腕輪を見せてくれた。
「『通行手形』だよ。」
真っ黒な大玉のそれは、
おそらく黒水晶。
その列の中に、
黒曜石の勾玉 と 水晶の勾玉が、
いい具合に配置されてる。
事務所に入る前に、
道仁さん にもらったものだ と。
「結界に入れなきゃ、」
「仕事になんねぇからな」
そりゃそうだ。
便利アイテムも あったものだ。
なんか ゆるゆるだけど…
…なんか引っかかる。
「私まだ 猫又見てません」
「見せもんじゃねぇよ」
「猫又じゃねぇよ!」
後部座席で、
偉そうな 山田さん。
何故 ドライブしてるかと言うと、
「H市」に向かってるわけで。
厳密には、
通り越した「M町」手前。
長旅である。
道仁さんは 電車で行くそう。
いいんですが…
「津曲神社」僻地ですよ?
まぁ、
俺の車 軽なんで、
三人分の旅支度で、
いっぱいですわ。
「何か進展 ありました?」
千歳が訊く。
「ないな。あれ以上の地図もない」
「滑川がネタ売ったのは、」
「血ぃ横流ししてた ついでだ」
「そいつは トンズラ」
「手詰まりだよ」
短い間に よく動く。
「現地で、」
「出たとこ勝負なんですね」
……………………
逢魔が時よりは、
真っ暗な方がいいとの、
ベテランのお言葉なので、
海鮮丼である。
頭の片隅に 道仁さんがいるが、
この美味さには敵わない。
「はなちゃん はいいとして、」
「姉ちゃんは護符 持たないとな」
と トランプのように広げる。
本当は、
それも触れないですよね?
「どんな効果が?」
「これはよ…」
と 一枚ずつ説明を始める。
俺はいいんだ…。
ちょっと、
冒険者パーティ的に考えてみる。
山田さん。
そもそも武闘派な上に、
猫又という切り札がある。
戦士だね。
道仁さん。
腕っぷしはわからないけど、
数々の術をこなす。
僧侶だね。
千歳。
どんな役どころ?
共感能力でパーティを導く、
聖女?
俺。
バリアを張る、…
遊び人?
orz
成り立ってるの?パーティ…
……………………
海を見る時、
大抵 日本海なのは、
何かの因果だろうか?
暗くて よく見えないんだけど。
目的の 木の看板を曲がり、
藪に生えた 鳥居の前で待機。
道仁さんがいない。
「現地集合 なんですよね?」
「その予定」
「嫌な予感はしてたんだけど」
「だいたい 電車来てるの?」
「この辺」
「確かK町までは…」
「海鮮丼食べてる間に、」
「突入しちゃった?」
「それなら、」
「もう少し騒がしいぜ」
「しゃーない」
「様子見に行くか」
山田さんの号令で、
鳥居をくぐることにした。
どこまでを敷地と言うのか、
この場合 境内?
前回も藪の中の、
石畳を頼りに歩いたんだけど、
「よくもないけど 悪くもない」
そんなことを呟く。
「そもそも 地が悪い」
ああ、気枯地とか…
概念がよく わかってない。
「見た目ではな、」
「だいたい谷間が 気枯地」
「山が 弥盛地」
「面倒くさい小理屈もあるけどな」
今歩いてる場所は、
谷間に当たるらしい。
で、階段。
みんなの目線、ほぼ垂直。
「うん。確かに登りたくない」
「登ったら 今度降りたくないんだよな」
「登っちゃうとなぁ…」
「登っちゃうと?」
「本番突入」
突入は不味くないですか?
面子 足りないです。
「だなぁ、」
「アレありきの作戦だからな」
「段取りは?」
「上の鳥居に 強化かけて…」
「前の護符を剥がす」
すると?
「濃くなった瘴気から、」
「いらんモノ湧いてるから、」
「俺が捌く」
「瘴気って 俺達が触れたら、」
「どうなるんですか?」
「一時的には 具合悪くなるだけ」
「濃さによって 程度も変わるし、」
「馴染まなきゃ 死ぬわな」
おい
「…馴染んだら?」
「俺の仲間だよ」
悪い顔で笑う。
……………………
登るしかなかった。
階段下で 待機しても、
寒いだけだった。
第二の鳥居をくぐる。
山田さんが腕輪をさすってた。
まぁ、
登ったとて 寒いんだけど。
「結界自体は効いてるんだよな」
この高台の境内には、
不穏な感じはしない。
鈍い俺はさておき、
千歳も何も感じてない様子。
だから不味いって話だったけど。
「あの木偶の坊」
とうとう 山田さんがキレ出した。
「道仁さんが 来ない場合の想定は?」
千歳が訊く。
「ない」
おい
「はなちゃんの結界頼みで…」
「開けるか?」
やめてください。
道仁さん 待ってください。
「来ない場合もあるんだぞ?」
…そうか、
ただ 迷子というわけではない…
場合もあるのか。
「鳥居の強化、」
「できます?」
それネックだよね。
開けたら、
鳥居が保たないかも?
「役割の交代だよ」
「おまえが 結界張れ」
「おまえ 目になってやれ」
「俺が突入する」
おおぅ…
でも それって、
怪異が 怪異を、
封じに行くって話で、
大丈夫ですか?
「どうなるか わかんね」
それ死亡フラグ。
やめましょう。
道仁さん 待ちましょう。
「それにですね、」
「どこに『線』を、」
「引いたらいいんです?」
「ああ?」
「俺、『あちら と こちら』に、」
「分けるんですよね?」
「『妖怪』に線引きしたら、」
「山田さんも弾いちゃいますよ?」
「あそこ…」
千歳が本殿を指差す。
「あそこから出てくるものを、」
「出さないで」
「鳥居で線引きして」
なんだろう?
このやったことない、
スポーツに挑む感じ。
「ばんなぐろぉっ!」
ん?
いつの間に そんな遠くに?
はい 花畔です。
「その女 護れよ」
扉の護符を剥がす。




