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51:東の清流と西の宵闇 (1)

 ここ数日でやっと少し涼しさが感じられるようになってきたそんな朝。

 cafe Sakuraにはいつも通りの面々に加え叶斗の叔父榊河暁史とその式神、伊緒里の姿があった。

 一週間前、あの守咲池の一件の後から暁史と伊緒里はこちらに滞在している。

 というのも、封印が破られる事件がここ最近この近辺に集中しているからだ。

 二人とも叶斗宅に滞在しているのでどうも緊張する。

 新聞を開きながらコーヒーを口に運ぶ暁史はダンディーでそこだけ違う空気が漂っていた。

 

「アキ!今日は清森の体育祭やねんて!」

 

「ほお、そうか。で、叶斗は何に出るんだ?」

 

「叔父上、桐組は参加しません。ご存知でしょう」

 

「ああ、そうだったか。お前の勇姿が見れるかと思ったのに残念だ」

 

 とぼけているのか本気なのかよくわからない。

 まぁ微笑ましいといえなくもない会話だった。

 

「桐組が出んでも見に行こうやぁ。面白そうやん」

 

「いや、今日は成柳川(せいりゅうがわ)に行かなければならない」

 

「えーウチもぉ?」

 

「そうだ。蒼も来てくれないか?」

 

「うん、わかった」

 

 蒼は二つ返事で快諾する。

 

「じゃあすまないが水穂君、蒼を借りていくよ」

 

「は、はい。どうぞ」

 

 私が学校にいる間は普段から別行動だからそう言うのも変な感じだ。

 いつも叶斗が主導権を握っているので忘れがちだが、蒼は私の式神なのだ。

 

 

 

 

 体育祭の様子を窓から遠くに見ながら普段通りに授業を受けるのはなんだか少し寂しい。

 桐組が参加しないのは人数が少ないから。

 という理由ともう一つ、勝負にならないからという理由なのだそうだ。

 実は最近知ったことだけど、桐組には妖怪の血をひいている生徒までいるのだから。

 彼らは普段は普通の人間となんら変わりがなくても身体能力は非常に高いのだった。

 何気なく目をやると西の空が暗い。

 雨が降りそうな雲行きだ。

 体育祭が終わるまでは天気がもてばいいのに、元クラスメイトの懸命に頑張る姿を見ながらそんな風に思った。

 

 

 

 

 案の定午後から降り出した雨は夕刻になって雨足を強めていた。

 体育祭はなんとか全てのプログラムを終えたらしいことがイズミからのメールでわかった。

 メールには惜しいところで優勝を逃したと書いてあった。

 叶斗と共にcafe Sakuraに帰ると蒼達はすでに店内で待っていた。

 

「おかえり、二人ともー」

 

 テーブル席で私達に気付いた伊緒里がこちらだと手招きをする。

 その向かいに見慣れない子供が座っていた。

 チョコレートパフェと懸命に格闘中のその子はかなり幼い。

 4〜5歳だろうか。

 白いひらひらした布を浴衣の上から羽織ったような格好をしている。

 人間ではないことがその見た目から推測できた。

 

「それは何だ?」

 

 のぞき込むとその子は蒼に隠れようとするので叶斗はあからさまにムッとする。

 

「川辺で泣いてたんや。迷子かと思ってそこらへん探したけど親らしい妖怪おれへんかってな。そのうち雨も降ってきたし、ひとまず連れて帰ってきたんや」

 

 成柳川を調べていて川上の方で発見したのだという。

 その子は食べる手を止め蒼の腕をぎゅっとつかんで固まっている。

 

「えっと…君、お名前は?」

 

 返事はない。

 こちらをじっと見つめて警戒していた。

 

「ずっとこのような調子でな」

 

 暁史もさすがに困っている様子だ。

 その子はなぜだか蒼には懐いているらしかった。

 

「小太郎や。名前がないと不便やからそう呼ぶことにしてん」

 

 伊緒里が得意げに言う。

 

「明日もう一回川行って親探したろうと思ってるんや」

 

「ふぅん。それで封じの方はどうだったのです?叔父上」

 

 叶斗は小太郎にあまり関心がないようだ。

 

「成柳川の封じは無事だ。だが、何者かが侵入した形跡があった。油断はならないだろう」

 

「そうですか。そこの子供のことは別として、明日は我々も川を調査してみます」

 

 素直ではない叶斗の事だから興味がないふりをしながら本当はけっこう気になっているのかもしれないと思った。


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