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129/146

129.あるよ

 その後のアイランド王国の動きは俺の予想した流れ通りになった。

 このまま王都にいては危ないと判断したアイザックは王都を脱出。

 そのまま支持者とともに東へと向かった。

 そして東方のブリトン王国との国境の砦を占拠する。

 

 ブリトンを頼りたいという心境は透けて見えた。

 使者が訪れ、アイザック王太孫が直々にブリトン王国王城ウォーリックに来ることとなった。


「はじめまして。アイザックと申します」

「ブリトン王国国王リチャード二世じゃ」


 会談は当然ながら極秘である。

 ブリトン王国としてはどちらに付くか、そもそも介入するかを決めていない。

 大っぴらにできることではなかった。

 故に参加者は少人数。


 アイザック側はアイザック自身と護衛の騎士。

 政治、外交を補佐するシュメロという初老の男性の3名である。

 

 ブリトン側は国王リチャード二世。

 フィオナにユーフィリア。

 そして俺。


 なぜ俺まで参加しているのかが謎である。

 まあこの間の件の続きであると考えればいいのかもしれない。

 関わった以上、ここでさようならというわけにもいくまい。


 俺がそんなことを考えている間に話は本題へと進む。


「現在私たちは苦境に立たされています」


 アイザックが正直に告げる。


「戦力差が相当あるようじゃな」


 リチャード二世がその程度の情報は持っているということを明らかにした。


「我々は現在ブリトン王国との国境にあるシュズベリーの砦に立てこもっています。その近くにあるバールガムの砦にで後詰をしていただけないでしょうか」

「後詰か」


 後詰とは後方で待機する援軍のことである。

 バールガムはブリトン王国の砦であり、アイランド王国との国境の守りの要となっている。


「はい。後詰さえしていただければ十分です」

「なに?」


 リチャード二世はアイザックを(いぶか)しげに見る。

 援軍を出すふりだけでいいと言われたのであるから、それも当然であろう。


「確かに我らの援軍があると見せるだけでも効果はあろう。しかしそれでは内乱が長引くだけではないのかな?」


 相手がビビって軍を動かすのを止めれば、その分時間稼ぎはできる。

 しかし長引けば国は乱れてしまうわけで。


「逆です。オズワルドの性格上、援軍があると聞いたらむしろ全軍を率いて自分でやってくるでしょう」

「なるほど。相手を戦場に引きずり出すのが目的か」


 小さい敵ならば部下に任せるが、大きな戦いになるなら自分でやらないと気がすまないのだろう。

 

「ところで、確認したいことがある」

「何でしょうか?」

「先日のジェイモン王子毒殺の件じゃ。あれをやったのは結局誰なのかな?」

「残念ながら、それは調べられることもなく闇に(ほうむ)られました」


 その答えを聞いたリチャード二世は不審そうに尋ねる。


「第二王子が毒殺されたというのに、それを調べなかったとな?」

「それどころではなかったということです」


 どちらが毒殺したかは知らないが、もう一方は相手がやったと確信する。

 毒殺した方も相手がそう考えることはわかる以上、ちんたら犯人捜しなどやっている場合ではない。

 実際アイザックは王都を脱出する準備をする必要があった。


「貴公らがやったのではないのか?」

「まさか。我々がそんなことをするメリットがありません」


 ここで嘘をつかれるようでは協力関係など築けない。

 実際にアイザック陣営が窮地に立たされている以上、これは説得力がある。


「確かに。しかし犯人が不明のままでは()に落ちなくてな」

「王都にいるオズワルドならば調べることも可能では?」


 フィオナが問うが、俺は首を左右に振る。


「犯人がオズワルドなら、そもそもまじめに調査するわけもない。適当に犯人を作り上げて処分してるかもな」

「それを恐れたのかもしれませんが、ジェイモン伯父上のスタッフの多くが行方をくらませました。伯父上の遺体も持ち去ったのです」


 アイザックが口を挟む。

 そのまま残っていては毒殺の犯人に仕立て上げられる可能性もあるのだ。

 

「でも遺体を持っていく必要はないだろ」


 俺がつっこむと、シュメロが口を開く。


「遺体となっても主は主。置いていった場合、オズワルドにどのように扱われるか……。自分たちで弔いたいと考えるのは家臣としては自然なことかと」

「そういうもんか」

「忠実な家臣であればそのように考えます。あとを追って死ぬこともあります」


 シュメロは自分がそうであるかのようにアイザックを見る。


「もう一つ。貴公らはスコットヤードの支援を受けているのか?」

「まさか」


 リチャード二世に問われ、シュメロは即座に否定した。


「失礼しました。我らに必要なのは戦力。金を出す以外能のないスコットヤードの支援は必要ありません」

「信じてよいのじゃな?」

「金があるなら一応傭兵でも雇っていたでしょう」


 アイザックが答える。

 リチャード二世は頷くと、即断した。

 事前に考えていたことである。


「よかろう。ブリトン王国は貴公らを支援する」

「ありがとうございます」


 アイザックに安堵の表情が浮かぶ。


「しかし、これからどうするつもりじゃ?」

「オズワルドは大軍を率いてやってくるでしょう。それを砦で迎え撃ちます」


 戦術的な打ち合わせが始まる。

 しかしそこは寡兵(かへい)。やれることなど限られている。

 篭城して粘るか、奇襲するかだ。


「篭城すると見せかけて、奇襲でオズワルドの本陣に突撃します。決着は短期間で付くでしょう」


 長引かせては勝利しても国土が疲弊する。

 短期決戦を考えるのは至極当然のことであった。


「う~ん」


 ユーフィリアが唸っている。

 どうやら納得がいっていないことがあるようだ。


「どうしたんだ?」


 俺は隣のユーフィリアに話しかける。


「いや、いまさら何だけど……。話し合いで何とかならなかったのかなあって」


 その言葉には皆が苦笑せざるを得ない。


「毒殺までしているからな。もはや話し合いをするというのは難しい。だいたい妥協できるところがないし」


 お互い王位を求めているわけで。

 実は優勢な側にも弱点があるとか、劣勢な側に交渉カードがあるとかでないと話にならない。


「私たちには魔王という敵がいるわ。人間同士で殺しあうのは不毛よ」

「しかしいつ現れるかわからない。強さの幅も大きい」


 まさに天災。

 予定を立てることは不可能である。

 ゆえに、ユーフィリアのように魔族のことを気にかけ続けるのは難しい。

 天災は忘れたころにやってくる、とも言うわけで。


「だから、被害が最小限になるように短期決戦にするのでしょう。最善の戦略よ」


 フィオナがユーフィリアを諭す。


「本当に? もっといい手はないのでしょうか」

「あるなら伺いたいくらいですね」


 アイザックがこちらの会話を聞き苦笑している。


「話し合いは無理。一騎打ちで決着をつけよう! なんて言っても相手が応じるわけがないしね」


 フィオナが眉間にしわを寄せて考え込む。


「このような状況で、損害なしで決着をつけれる方法などないでしょう。第五魔災においてビッグスリーと(うた)われし天才軍師殿でも思いつきますまい」


 シュメロもお手上げといったポーズをとる。


「まあそんな手段あるわけがないな」


 リチャード二世が相槌を打つ。

 皆がうんうんと(うなづ)いている。

 そんな都合のいい手があるわけがないと。


 俺はそこでぽつりとつぶやいた。


「あるよ」

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